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ぼくの母さん  作者: 紫李鳥
3/3

 

 それからというもの、ヒロトはときどき遊びに来て、母さんの作った夕飯を食べて帰ります。そのたびに、勉強を教えてくれるので、げっしゃの代わりの食事だと思えば安いものです。


「……なんで、離婚したんだ?」


 心を許しあったヒロトとぼくは、“はにきぬきせない”話をするまでになっていました。


「……父さんに好きな女の人ができて」


「……か。けど、さっちゃんも美人だし、可愛いけどなぁ」


「母さん以上にかわいいんだって」


「そっか。けど、父さん欲しいだろ?」


「……ううん。でも、ヒロトみたいな父さんなら、いい」


「俺があと10歳ばっか年くってたら、さっちゃんと結婚したかもな。バイトしながら大学行ってる身分じゃ、めし食わせてやれないもんな」


「お金のことなら心配ないよ。ぼくんちお金あるから。父さんが金持ちだったから、いしゃ料とかよういく費ががっぽり入るから」


「だよな。じゃなきゃ、働かないとやっていけないもんな。けど、……」


「わかってるって。いつほんめいが現れるかもしんないもんね? かるはずみに父さんなんかになれないよね?」


「こいつ」


 ヒロトはぼくのおでこをこづいて、にがわらいしました。


(いいんだ。ヒロトと会えるだけで……)




 そんなある日のこと。ぼくが学校から帰ると、家の中が静かでした。母さんは留守かと思っていたぼくはびっくりしました。


 母さんがリビングのテーブルに顔をふせてじーっとしてたんです。なんか、すすり泣くような声が聞こえました。


「……お母さん」


「あ、雄大、おかえり」


(ヒロトもいないのに、“雄大、おかえり”だって。……よっぽどショックなことがあって、しこうかいろがマヒしたのかなぁ)


「……ただいま」


「さて、きょうの夕食は何しよっかな」


 母さんは涙を手でぬぐうと、気合いを入れて、腰を上げました。




 母さんは夕飯のあと、飲めない酒を飲んで、よっぱらってました。


「もう、来ないってさ」


「だれが?」


「裕人だよ」


「……え?」


(ぼくの中に予感がありました)


「ジを出したら、あっさり嫌われちゃった」


「お母さん、ヂだったの?」


「ばーか。そっちのヂじゃなくて、こっちのジだよ。ホントの性格を出したら嫌われたの」


「……で、どんなシチュエーションだったの?」


「私は年上だし、子供もいるから、やっぱ、もう会わないほうがいいねって言ったら、俺だって年下で経済力のない男さ。って、お互いに卑下(ひげ)しあって。結局は私に決めさせるのよね、何もかも」


 母さんは友だちにグチってるような言いかたでした。だから、ぼくは、


「ふんふん」


 と、あいづちを打ちながら、聞き役にてっしました。


「あったまきたから、別れたいんなら、自分から言えよ、この優柔不断ヤロー! って、思わず口走っちゃったの。……もう終わりだね? グスッ」


 母さんは飲むと、泣きじょうごだったのを思い出したぼくは、


「お母さんは間違ってないよ」


 と、思わず言ってしまいました。と、いうのも、母さんの泣きかたはうるさいというのがぼくのきおくの中にあったからです。


「そうかい? おまえだけだよ、母さんのこと分かってくれんの。……ありがとね」


「息子が母さんのことわかって、とうぜんじゃないか」


「ふふふ。ナマ言って」


 どうやら、泣かれずにすみました。やれやれです。




 ヒロトとは、母さんにないしょでたまに会っています。ヒロトいわく、大学をやめて、いなかに帰るんだそうです。なんでも、お父さんのぐあいが悪いから、実家のやおやをつぐんだそうです。


 さみしくなるけど、ケータイで話できるからいいんだ。




 ぼくの母さんは美人な母さんです。おっちょこちょいのあわてんぼうで、男みたいなとこもあるけど、かわいいとこもあります。


 母さんの良さをわかっているのは、ぼくだけだと、じふしています。これからも、母さんの一番のファンでありたいと思っています。おしまいです。



「ただいま~」


「おう、息子、まだ童貞か?」







 絶句。

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