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休憩時間と私

作者: 香城

 吸いすぎないようにね! と書かれた缶の吸い殻入れが一杯になった。つい先日の話である。

 元々一二ヶ月に数本気まぐれに煙草を吸う程度の極ライトスモーカーだった私は、それまで小さな携帯灰皿で吸い殻の処理をしていた。酔った勢いでほんの少しの外出をして、その先で夜中一人で十数分喫煙をするのを楽しみにしていた程度の俄喫煙者だったのだ。いつだったかは判らないが外出を面倒がるようになって、その代わりにと数年暮らしてきて片手で収まる回数しか出たことが無かったベランダでのんびり往来を眺めながら、或いは月だったり喧騒だったりそういった似非風流じみた楽しみを見つけながら、ぼんやりと煙草を吸うようになった。楽で心地が良いものはずるずると続けてしまう。自分の享楽に対しておよそ無抵抗に享受しがちだった私にとってベランダは休憩をする場所になって、そうして喫煙する頻度も増えた。小さな携帯灰皿は週に数度掃除をしなければいけない羽目になった。

 面倒だなあ、と思うのも道理だった。私は家の近くの百円ショップで日用品とライターとを買うついでに目にした、その缶の吸い殻入れを躊躇いなく購入したのだ。それが一月ほど前の出来事で、確かその時はこれだけ大きければどうせ掃除なんて半年に一回程度で済むだろうとそんな自堕落な算段をつけていたように思う。吸い殻を缶に入れた時、デザインされた英文字が過度な喫煙を戒める意味を成しているのに気づいて愉快になったのもその時分だ。

 今や喫煙は毎日の休憩時間になった。一日三十分、あるいはその倍の時間程度を私はベランダで過ごしている。大きいと思った缶には吸い殻が満ち満ちていて、それを見ながら私は煙草を買い足した回数を思い返そうとした。すぐに飽きてしまったのでその実は判らない。飽きることなく毎日毎日スパスパ吸い散らかしているのだから、結構なこと税金は支払っているのだと思っている。

 税金で安寧が買えるのならば安いものだと、よくそのようなことを思う。何故だかどうにもベランダが好きで、それに特にすることもなく思考を遊ばせているのがこんなにも楽しいのだから、それは仕方がないことなのかもしれないと思う。私の形容できないストレスらしいあれそれは缶の中に溜まっていて、それを私は今度掃除をしなければいけないと中を覗くたびに思い出すのだ。一度綺麗にしなければいけない。だけれどどうにも元気な時にしようと後回しにしがちで、きっと私はあの吸い殻を私の得体のしれないストレスと鬱憤の権化であると思っているに違いない。気が向かないのだ。だからいつもぎゅうぎゅうに押し込むようにして閉じ込めてしまう。ぼやぼやと遊ばせた思考とその心地よさに水を差すものである気がするから。

 ベランダにいる時は概して暇であった。手慰みにと持ち込んだ携帯はすぐに飽きてしまうし、電子書籍なんて室内で読む。だからぼやぼやと考えていた。それは有象無象おおよそ私の実社会人生活には役には立たなさそうなことだったり、考えるだけで実現までこぎつけるのには体力の入りそうな「これからやりたいこと」だったりした。適当なことを考える。そうして満足がいって、煙とともに吐き出して終わりだ。気楽なものだ。別にいいと思ってやっている。

 ぼやぼやと考えているうちに、どうにも霧散させるだけでは少し足りないと思うことが時々あった。大凡文章にすれば満足がいきそうだと算段はつくけれど、なにもフィクションに昇華させるには私情が伴いすぎていると感じるものばかりであった。

 ならばぼんやりしたままのあれそれを文章にしてしまうのも良いと思ったのも、休憩中の思いつきだ。得意の三日坊主になるのかもしれないし、はたまた黒歴史たる何かになるかもしれない。黒歴史になれば良いと思う。その時の私はきっと今より社会人的分別が身についているに違いない。

 この稚拙な散文が、習慣となって続くことを期待している。

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