第八話 息子達の進路相談・セイヴ編
退室するノアに、次はセイヴを呼んでもらうように頼んだ。
すぐにセイヴはやって来た。
次男設定の魔族は、浅黒い肌と銀髪のオールバックという、ごくごくスタンダードな見た目。
というか、僕は分かっている。セイヴ、お前のこのアバター……。
「セイヴのアバターって、デモンズのデフォルトのままだよね?」
「? なにが?」
部屋の真ん中に机を置き、向かい合せになるように座るように椅子を置いている。
僕はもう座っているので、必然的にセイヴは向かいの空いたほうに座った。
デフォルトの意味も分かっていないようだ。
「言われた通り、自分のデータダウンロードしたけど? なんかマズいのかよ?」
「いや……いいけどね」
浅黒いとは言っても濃過ぎるほどでもない肌の色、銀髪オールバックのこの髪型、額の赤い紋様。赤い瞳。男デモンズを選ぶと最初に出てくるやつのまんまである。
こやつ、キャラメイクを一秒も楽しむことなく、そのまま決定しやがったな。
「なんでデモンズにしたの?」
「え? 親父が選べって言ったやつの中で、一番カッコよかったからだけど」
魔族がカッコいいって素直に言えちゃうところが可愛いぜ。
今や自然に親父って呼んでくれてるとこもポイント高い。
ツンとデレの配合がちょうどいいヤンキー(元)。
てことは、セイヴもやっぱりこれが自分の顔か。
まあ多少はゲームの中で再現しやすい顔立ちになっているけども。
キャラメイクにまで妥協を許さないワーブリは、自分の本来の容姿からキャラメイクをしても、種族に多少寄せられてしまう。
ドワーフだと低身長のずんぐりむっくりめに、デモンズだとちょっと目つきを悪くされちゃうのだ。
しっかし元々ずんぐりむっくりな僕とは逆で、痩せてるなぁ……この子は。
細過ぎて初期装備の服がダルダルじゃないか。
身長はノアと同じくらいか、こっちが少し低いかな? イグアスは背も含め全体的に小柄だけど、セイヴの場合たぶんこの年齢の男子の平均身長くらいはあるだろうから、余計にほっそ! と思うのだろう。ドワーフ父さんはどの息子よりも低いけどな。
ちゃんと食べてるのかい……? とつい聞きたくなったが、家庭事情に関わるようなことだと良くないと思い、口にしなかった。
目つきが鋭いのはデモンズだからだろうが、顔つきはよく見るとまだまだ子供。
テーブルに片手で頬杖つくのが癖みたい。
「まだ3巻までしか読んでねーんだけど……」
僕が貸した『名探偵コラン』最新156巻までのことだろう。
「なんでもっと短いやつ置いてかねーんだよ……」
「子供だからコラン好きかと思って」
「たしかに子供の時にテレビは観てたけど、アンタ大人だろ……よく156巻も買ったな」
「1巻出たときからずっと買ってるよ。僕は大人だけど、子供はみんなコラン好きだよね? マンピースとか」
「いやだからそういうの小学生とかまでだろ。もうとっくに終わってると思ってたし」
えっ。マジで!?
バリバリ現役で追いかけてる大人がここに……。
「いま先生わりとショック……」
「後で続き読ましてよ。犯人分かる前だったから。で、面談しないのかよ? 次にイグもやるんだろ」
ああ、そうだった!
あまりのショックに本来の目的を忘れるところだった。
しかし、さりげなくもうイグアスを愛称で呼び出してる。男子は打ち解けるの早いな。
「ウォッホン。……セイヴは、職業についてどのくらい理解してるのかな?」
「んー、まあまあ。こういう自分で動く系は初めてだけど、スマホのゲームなら少しやったことあるし。なんとなくは分かるよ。さっき待ってるときにイグにもちょっと教えてもらったし」
じゃあ話は早いか?
「なりたい職業とかってある? ちなみに、ノアは前衛職をやってくれることになったんだけど」
「なんでもいーけど、頭使うやつはナシで」
「デモンズの種族値は圧倒的に魔力が高いから、そこを生かしていくといいと思うんだけど。信仰力は低めだから、治癒系は無理だけど」
「信仰……? 宗教とかあんの?」
「あるよー。このゲームはけっこう神様が多くて」
「あ、そういうのいい。神様とかそんなん絡まないやつにして」
セイヴが心底嫌そうにそっぽを向いたので、話を変えた。
信仰力低めのデモンズだけど、闇の神や戦神なんかとは相性が悪くない。条件付きだが暗黒司教に実は適正があるので、かつて暗黒司教だった僕の後を継いでもらうのもいいかなと思ったんだけど、嫌ならやめておこう。
うーん、イグアスの獣人族は、身体能力が高い反面、あまり魔法が得意ではない。あの子のフルダイブゲームスキルを生かすなら、魔法系は一切捨てて、物理攻撃のエキスパートになるのが面白そうなんだよな。
そうなると、僕とノアが前衛職で、ノアに回復役も兼ねてもらうのがベストかなぁ。ノアの負担が大きくならないように、父さんが全面的に盾となり子供達を守らなければ……。
「イグに、なんか後衛ってのやれって言われたけど、別にそれでいーよ」
「後衛からの遠距離攻撃役に、デバフも担当してもらおうかな」
「なんだそれ」
「敵の能力を下げる魔法とかあるんだ。種族値にはないけど、デモンズはこの系統の魔法が攻撃より得意だね。あとは職業値でどうステータスを伸ばしたり補うかなんだけど」
「デモンズの種族値ってどんなん?」
「デモンズはこんなかんじかな?」
僕はメモ代わりのウィンドウを出し、そこに指で書きつけた。
うう、これ書きにくいんだよな。紙とペンは普通に必要か……。
「字、へろへろじゃん」
「フルダイブゲームで文字を書くのは、意外と難しいんだよ……」
やっぱり実際に紙とペンを握ってやるほうが、書くという動きを再現しやすい。
【魔族の種族値】※タケトン調べ
体力・やや低め。
筋力・やや低め。
防御力・低め。
敏捷性・高め。
魔力・めちゃ高め。
精霊力・高め。
信仰力・低め。
「ここに〈魔法使い〉系統の能力値を、どう上乗せしていくかだね。スタンダードなとこで、素直に〈魔法使い〉やって元々高い魔力をガンガン伸ばしていってもいいし。物理攻撃を補う〈魔法戦士〉ってのもあるし、デバフに特化して、〈黒魔法士〉も面白い」
「ふーん……」
頬杖をつき、気の無さそうな返事。
「親父決めていーぞ」とか面倒くさそうに言われることも覚悟していたが、セイヴからの返答は意外だった。
「……親父とノアが前衛職ってやつだっけ。イグはガンガン殴っていくやつやるって言ってたから、明らかに魔法っぽいのが足りてないよな? じゃ、オレがそっちやるよ」
お?
「その種族値ってやつ、魔力がめちゃ高いんだろ? せっかくなら、それメインにしたほうがいーんじゃね?」
おおおおっ!?
「そのデバフってやつは便利そうだから、そっちも覚えられるやつにしてさ……」
うおおおおおおっ!!!
セイヴが、自らパーティープレイに協力的だ!
キャラメイクはデフォルトだけど!
「あと武器はカッコいいやつがいい」
おおお、可愛いやつ。よしよし、父さんがめっちゃカッコいい武器を作ってやるぞ! そのうちな! 今のレベルじゃ〈魔法の竹槍〉くらいしか多分作ってやれない。
「セイヴは体力や防御力が低いから、万が一敵に接近されてしまったときのために、咄嗟に距離が取れる武器はどうかな? 槍とか」
「お、なんかカッコよさそう」
「〈魔銃士〉とかもカッコいいけど、飛び道具は魔法があるしね。普通の槍は筋力が足りないかもしれないけど、魔槍は軽めのやつも多いし、カッコいいの色々あるよ」
めちゃくちゃ高価ですけどね。
ひとまず魔法の竹槍なら作ってあげられるよ……。
「それじゃ、初期職はとりあえず〈黒魔法士〉でどうだろう?」
「そっち? デバフだっけ?」
「そう、いわゆるデバッファー。攻撃魔法ももちろん扱えるけども。意外と使いこなすとパーティープレイではデバフは攻撃魔法以上に強力なんだ。補助魔法の良いところは魔力の消費も少ないところだし。物理特化したイグアスと組めば、隕石落下なんか唱えるより手っ取り早く強いと思うよ」
いやーこういう話するの好きだから、ワクワクしながら話してしまう。
息子の進路相談楽しィッ!
「実はデモンズは精霊力もけっこう高いから、相性の良い精霊と契約すれば、強力な精霊魔法を使うことも可能だと思うよ」
精霊との相性、それは種族に寄るところは多いんだけど。
実はこのゲーム、どのプレイヤーにもアバター作成時にランダムに決定される、それぞれの精霊との隠れ相性値が存在するのだ。
それはプレイヤーには開示されていない。自分で探してみんしゃいってこと。
〈黒魔法士〉と〈精霊術士〉をかけ合わせたようなユニーククラス〈天魔導士〉というものがあるらしいが。
これまだ条件が発見されてないんだよな。
父としては息子達を全員ユニーククラスに就かせたいが、あまり親の希望の進路ばかり押し付けてはいけない。ウズウズ。
なるほどエリート教育したくなる気持ちってこんなかー。
伸び伸び育ってほしいという気持ちもあるが。
うーん親心って複雑なんだな。期待しちゃうもんだな。
「じゃあそれで」
そんな親心に息子は気づくこともなく、セイヴはノア同様、あっさり自分の戦闘職を決定した。
楽しいが、タケトン先生だけがすごいノリノリなかんじもする。
二人とも素直に言うこと聞いてくれたからな。
あとはイグアスだけか。あの子だけは経験者だから、また違った進路相談になりそうだ。
ただならぬ意気込みのなりきりガチ勢だからな。
「あ、そーだ親父」
「ん?」
部屋を出る前に、セイヴがドアの前で思い出したように振り返った。
「イグの奴、この進路相談めちゃくちゃ張り切ってたぞ」
え……ええー?
そんな気の利いたことは言えないよ……?
父さんプレイしてるけど、実際のとこ独身だし……。
「あんなクエストの受注条件を見つけてくるなんて、親父は本当にすごいって。絶対すごいプレイヤーだって。興奮してたから、頑張れよ」
うそん。
プレッシャーをかけるだけかけて、セイヴは部屋を出て行った。