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第十六話 オニギール一家、ブロガーに目をつけられる

「ブロガーかぁ……僕も大学の頃、目指したことあるんだよね……」


 僕の呟きに、当然セイヴが白けた目を向ける。


「人気ブロガーになったら、就活しなくていいかなと思ってさぁ」

「……一応訊くけど、なんの?」

「うん。毎日違うテーマで、100人に街頭インタビューをして、統計を取る《毎日100人斬り!》っていう……」

「毎日100人なんてすごいですね……!」

 ノアが目を見張る。僕は遠い目をした。

「うん、すごいよね……出来てたらね……一日たりとも記事が出来なかったよね。60人くらいは訊いたんだけど、『最初に踏み出す足は、右? 左?』って。右が多めだったかな」

「くそどうでもいいし、すでに何かで集計取られてるだろそんなの」

「60人でもすごいと思いますけど、毎日なら10人斬りくらいから始めたら良かったですね……」

「なんでいきなり達成不可能な壮大な計画を立てるんだよ。夏休みの自由研究にチャリンコで日本一周するとか言い出す小学生か」

「ボクは動画のほーが好き」


 ボロカスに言われるお父さんの昔の夢。


「……とまあ、お父さんでさえ一日たりともまともな記事がかけずに、時々読んで面白かった漫画とか感動したアニメの最終回の感想なんかを時折衝動に駆られて書き殴ることに使われていたブログも、先日サービス終了に伴い消滅したわけだけど」

「残念ですね……」

「良かったな」

「ボク見たかったー」

「そのぐらい、ブロガーってのは売れなくても大変なことなんだ。分かったかい?」

「ほーい」

「例えが悪すぎだろ」


「そのブロガーさんが、何でわざわざリアルの素性をばらしてきたんだい?」


 僕が尋ねると、ヴェリルはさっきまでと違う、明るい口調で言った。


「ええ、現実リアルでは『もちもちきなこもち』って名前で、フルダイブ型VRMMOゲーム関連の記事をずっと書いてたんすけど、あまり読者が増えないんで、今年はこの大型新作《worldワールド・ ofオブ the・ザ breeze・ブリーズ》の記事一本でいこうと思ってるんす!」


 これがヴェリルの、リアルの喋り方か……。陽気なデモンズ……。浅黒い肌がチャラく見えてきた。下っ端ホストみたい。


 しかし、〈もちもちきなこもち〉……僕が愛用してた〈ころころおにぎり〉に通じるセンスがある。


「こうして面白そうな事件を張ったり、面白そうなプレイヤーにインタビューしたり、たまに一緒にパーティーを組んでもらったりして。でもワーブリのブログはもうたくさんあるし、攻略じゃ《ワーブリ最速攻略掲示板》が一番でしょ? 他にも《ワーブリタイムス》とか《まったりワーブリな日々》とかあるけど、人気ブログと同じことやっても勝てないっていうか」

「……まあそうだろうけど」

「だから、もっとプレイヤーに密着した企画も色々考えてて。面白そうな、目を惹くプレイヤーを何人か追ってるんですよ。その様子や活躍を記事にして……」

「ちょっと大げさにして?」

「ま、そこはエンターテインメントの味付けっていうか」

 ヴェリルがにんまりと笑う。

「それで、なんでそこまで話を僕らに? あ、可愛いうちの子達を記事にしたいなら事務所を通してくれる?」


「なんの?」

「どこにあんだよ」

 イグアスとセイヴが同時にツッコんだ。


「いや、組み合わせがいいな、と思って。さっき見て、一目でピンときたっていうか。仲良さそうだけど、ほんとの家族とも違う、でもただの歳の離れたゲー友でもなさげだし」

「いやいや、リアルが充実してないから、子供とばかり遊んでイキッてるだけですよ……」


 ははは、と頭を掻きながら、僕は話を終わらせようとした。


《カリスマボランティアに一日密着! ドワーフ先生がなりきり家族プレイでハートフルに教育改革♡》

 という記事の見出しが僕の頭をよぎる。


「えーと、僕達は初心者なので、別に密着されても面白くないので……」

「密着するとはまだ言ってないですけど……良かったらちょっと一緒に鉱山入ってみますか? 中の案内も出来るし」

「ううん。要らない。ボクらまだ始めたばっかだから、自分たちで攻略してく」


 めっちゃキッパリ断ってくれるイグアス。

 おおう……父さん断りにくい性格だから助かる。


「オレたち、ガチ勢とかじゃねーんだ。だから最速攻略とか興味ねーし」


 セイヴも助け船を出してくれた。


「そっか。オッケー!」


 ヴェリルはあっさりと了承した。軽い。軽いなー。ちょっと僕に近いところもあり、嫌いなタイプではないのだが。


「じゃあ、良かったらフレ登録いいすか?」

「この子達は未成年だから、保護者がいるときしかプレイしないことになってるんだ。いつも僕と一緒だから、僕だけでいい?」

「あ、お願いしまーす」


 それぞれのフレンド登録ウィンドウを出し、互いにタッチする。これで僕はヴェリルくんとフレンドになった。フレンド同士だと、ゲームにログインしてるかどうかが分かるのだ。フレンドにも教えたくないときは非表示にも出来るが。


「それと君、ミスタコン出るときは声かけてね! 元々ミスコンメインで取材に行くつもりだったけど、出るなら大会の間密着させてよ。ブログにスクショとか上げて応援もするし、見栄えの良い装備とかも調達するし」

「へ……? はぁ……」


 ぽんぽんとノアの肩を叩く。


「マジな話、絶対にいいセンいけるよー、いかにもアバターっぽいイケメンさじゃなくて、めちゃくちゃナチュラルだからさぁ。それまでにクラスも上級職くらいにはして、良い狩り場も教えられるし。とりあえずエントリーだけでも。心細いなら兄弟のみんなで一緒にやってみてもいいし」

 ホストのキャッチかお前は。

 息子が困っているので、こりゃいかんと僕はずずいっとその間に入り、自慢の黒もじゃお髭ナデナデしつつヴェリルに尋ねた。


「ふぅむ……ミスタコンにドワーフ部門はあるかね?」

「コミカル部門はあるっすよ」

 

 おいィィ! 本人を目の前にしてコミカル部門とか言うな!


「親父ー、オレらあんま時間ねーんだから、早くダンジョン入ろうぜー」

「はいろ、はいろ! ずっとレベル1やだよー!」


 セイヴとイグアスが、いかにもゲームしたくてたまらない子供ってかんじで急かす。


「おっと。分かった、分かった。まったくゲーム大好きっ子達で困るぞい……」

「あ、待って。良かったら、情報を提供しますよ」

「情報?」

「いきなりブロガーとか声かけられても、そりゃ気味悪いと思うから。けっこう騙し騙されみたいなとこあるし。大したもんじゃないんで見返りとかは不要なんで。今から出す情報が役に立ったら、以後お見知りおきをってことで」


 と、ヴェリルが何やら小銭入れのような物を取り出す。そこには折り畳まれたメモがぎっしり入っていた。


 うち一枚を取り出し、僕の手に握らせる。


「これは?」

「グラムストン美味しい店10選……じゃなくて」

 ヴェリルが僕の耳元に顔を近づけ、小声で言った。

「……グラムん中で今んとこ悪名高いプレイヤーリストっす。この名前には要注意ってね」


 せちがらいなぁ……。

 僕は子供達と楽しく遊びたいだけなのに、初日からこんな……。

 いや鉱山の鍵を隠し持ってますけどね。


 名前は最初に決めたら変えられない。

 問題行動を起こしたプレイヤーの情報は、ネットで共有されたりしているようだ。

 でもそれなら、逆もあるかもしれないな。

 悪いプレイヤー同士が、闇の掲示板でカモの情報を共有なんて……。


「ありがとう。使うかどうかは分からないけども」

「はいはい、そこはご自由に」

「では、またいずれのう、ヴェリル」

「早く早く!」

 イグアスに腕をぐいぐい引っ張られながら、僕達は鉱山の入り口に向かって行った。


 バタバタと鉱山の中に駆け込む。

 ちらと背後を見ると、ヴェリルは軽く手を振っていて、ついて来たりはしなかった。


 なんかチャラそうなブロガーだなぁと思ったけど、そんなに悪い奴じゃなさそうだ。


「ちょっと親父は演技過剰なんだよ!」


 鉱山の中に入ると、セイヴに小声で怒られた。


「えっそう!?」

「喋れば喋るほどなんか隠してるかんじすっから!」

「ええ……」

「なんでいきなりドワーフキャラっぽくなんの?」

「おおう……」

 イグアスに青銅の兜を揺すぶられる。

「……あの、父上」

 ノアに肩ぽんされた。 

「さっき……ありがとうございます」

 ぺこっと頭を下げてくれる。


 日頃ただ働いてるだけで、それが当たり前なので、お礼を言われる機会ってそんなにない。自分よりずっと若い子に心からお礼言われるのは、ちょっと照れくさい。


 父さん、コミカルと言われながら息子を守った甲斐があったぜ。


「――はっ。なんだかんだでダンジョンの中に入ってしまった!」


 僕ははっと口に手を当てた。

 

 外はあんなに明るかったのに、中は薄暗い。僕達のようにきょろきょろしながら入って来るパーティーもいれば、ソロでも慣れた様子で堂々と入っていくプレイヤーもいた。


 一つ言っておくと、うちの子達みたいにみんな初期装備って来ているプレイヤーはいなかった。そら目立つわな。もう少し平原や森の入り口あたりでレベル上げしてから来る場所なのかもしれない。


 ……不安になってきたが、イグアスがいるから大丈夫かなぁ。


「とーさんとーさん! 早くいこーよ!」

「ログアウトの時間になるから、とっとと進もうぜ」


 全く臆してない二人。まあこの子達はなぁ。平気か。


「大丈夫だからね。浅い場所はそんなに敵強くないから、ゆっくり動きに慣れていこう」


 僕は自分と同じく前衛職タンクのノアを、元気づけるように背中に手を当てた。ノアはちょっと緊張した面持ちだが、こくんと頷いた。

 これが後に王国一の騎士となる彼の、最初の第一歩である――……とそれっぽいナレーションが頭の中で流れた。どんなゲーマーも最初は初心者だからな。がんばって!


「よーし! オニギール一家、初ダンジョンだ!」

「えいえいおー!!!」

「やめろぉ!」


 僕とイグアスが拳と声を張り上げ、周囲にくすくすと笑われ、セイヴが顔真っ赤にするお約束も済ませ。


 僕達はとうとう、初めてのダンジョンに入ったのだ。

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