コウちゃん
コウちゃんとの出会いは2年くらい前。
あたしは22歳で、コウちゃんは26歳。ちなみに、職業はOLと小学校教諭で…簡単に言えば、合コンで出会った。
人数合わせで生まれて初めて行った合コンのメンバーに、コウちゃんがいた。
良く言えば、これも運命じゃないかな。
「このまえ俺のクラスが合唱コンクールで金賞とったんだよ」
ねぇ、コウちゃん覚えてる?あなたがあたしに話しかけた最初の言葉。
初めて行った合コンに緊張していたあたしを、一気にほぐしたあなたの声。
酔ったあなたは、初めて受け持ったクラスの子達がやっとひとつにまとまったんだって嬉しそうでしょうがない感じだったよね。
あたしはそんなコウちゃんを見てこう思ったの。
『恭介も、成功したらこんな風によろこぶのかな』って。
コウちゃんはきっと知らなかったよね。
あたし達が出逢った時、あたしには一緒に住んでる彼氏がいたの。
「瑞穂、このあとカラオケ来る?」
親友のマサミに声をかけられたけど、あたしは口でこたえず首を横に振った。
「そっか。今日は付き合ってくれてありがとうね。助かった」
「うぅん。初めてだったし、楽しかったよ」
「それならいつでも誘うよぉ」
マサミはそう言った後で、おっと、と思い出したように付け加えた。
「瑞穂には合コンなんて必要ない、か」
彼氏にヨロシクね。そう言ってマサミや他のメンバーはカラオケがある方向に去って行ったけれど。
「あれ、みんなは?」
背中から声がして驚いたあたしは、すごいスピードで振り返った。
「わ!にらまないでよ、相田さん」
「…」
「相田…さん、だよね?あれ?確か…」
そこには顔が真っ赤になったコウちゃんがいて、あたしは思わず笑ってしまったの。
「えぇ、相田です。相田瑞穂。高倉さん、だいぶ飲んじゃったみたいですね。顔が真っ赤」
「え、ホント?みっともないな、俺。そんなに強くないのに、今日はなんだか嬉しくて」
「合唱コンクールのこと?」
「え!そうそう!!…なんで相田さんが知ってるの?」
「も〜何言ってるのっ!さっき自分で言ってましたよ」
「げ!俺、結構酔ってるかも…」
その言葉に、あたしもコウちゃんも二人して大笑いしたよね。
おおらかで、優しい高倉航太さん。
その時からうっすら感じてはいたの。
コウちゃんという人の、居心地のよさとか。
「ただいま〜」
そっと開いた玄関の奥、ドアのすりガラスにうっすらと明かりが見えた。
この部屋に引っ越した日に買った、テーブル用の小さなランプだろう。
「…恭介?」
池上 恭介。あたしの彼氏。
同い年で、20歳のあたしの就職を機に一緒に住み始めた1DKのこの部屋が、あたしと恭介の生活の全てだった。
ガチャ。
「恭介…起きてる?」
敷布団に横たわる彼氏をのぞいてみた。
「寝てる」
「…起きてるじゃない」
そう言うと、恭介は突然ガバッと布団の上に起き上がり、あたしを抱きしめた。
「遅い!心配で先に寝てられるわけないだろう!」
「大げさだなぁ。今日はマサミに頼まれた飲み会だって言ってたでしょ?」
なだめながらも、あたしは嬉しくてにやけてしまう。
「合コンなんて〜危険すぎる!!」
抱きしめる腕に力がこもるのをあたしは幸せに思ってた。
「俺も行けばよかった!!」
「とか言って、飲みたかっただけでしょ〜」
「それは…なきにしも、あらず」
「もぉ。それより、明日朝早いんじゃない?」
「ん…朝イチでバイト入ってる」
ウトウトしだす恭介を横になるよう促しながら、あたしは続けた。
「大変!!じゃぁ早く寝よ!あたしも早くお風呂入ってく…」
離れようとするあたしの腕を引き寄せて、恭介があたしにキスをする。
いつもの、何気ないひとコマみたいに。
「おかえり。ゴメン、俺もぅ寝る…」
「…うん、ありがと」
そう言って早くも半分眠りについた恭介にキスをした。
今思えば『あたしは恭介に愛されてる』そんな自負があったのかもしれない。
もちろん、あたしも恭介を誰より好きだったけど。
その分ショックが大きかったんだろうな。
君に何の相談もされなかったこと。