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車でラブコメを書いてみた  作者: まるたん
二回目 バイト先の君と謎の車
9/33

【4】




 ★☆★☆★




「本当に何かの間違いではないのですか?」


 そうと答えたのは、隆太達の店長。


 香織の言葉だった。


 場所はスタッフルームの中。


 既に休憩を終わらせていた隆太や真は勤務に戻り、海は帰宅する形になった。


 一応、バイト採用の方はされたのだが、即現場と言う形にはならず、今日の所は帰る事になったのだ。


 ……最後の最後まで、真とギャーギャーいがみ合ってはいたが、隆太が海を宥める事に成功して、どうにか帰らせた。


 こうして、スタッフルームには誰もいなくなったのだが、間もなくすれ違う形で香織が室内に入って来る。


 やや筋肉質な男と二人で、だ。


「間違いであってくれたのなら、俺としては嬉しいんだがね」


 比較的背の高い、それなりに鍛えているだろう男は、こうと答え、


「あんたと、もう少しここにいれる」


 ニッと笑みを作って答えた。


「……そうね。あなたは人を探している。その上で、ここにいるんだったわね」


「そうだ。しかも、少し面倒な件で、だ」


「けど、本当にあの子が、あなたの言う犯罪者なのかと聞かれると、本気で耳を疑うわ……」


 答え、香織は視線を下に落とした。


「俺の担当は、別に一課の様な凶悪犯罪も取り締まる様な部署ではないんでね。場合によっては、一般人にしか見えない様な人間が対象になる時もある」


 そこまで答えた時、男はふと、思い出した様に言った。


「いや、違うか。相手は人間なんかじゃなく、車だった」



 


 ボチボチ、茜色の空になりそうな時間になった頃、隆太は帰宅の徒に着いた。


 現状、曲がりなりにも食いぶちが一人増えたので、可能なかぎりシフトに入れて貰った結果がこれである。


 そして、その食いぶちが増えたが故にふて腐れた可愛い後輩が、さっきからスペシャル不機嫌なまま、隆太の隣を歩いていた。


「……あれ? 家、こっちだっけ?」


「違いますが、何か?」


 じと目で言って来る。


「じゃあ、なんでこっちに……」


「用事があるからですよ、こっちに」


「そうか、そう言う事な」


 一応の納得を見せる隆太。


 その用事が何なのか分からないし、用事がある様には見えなかったけれど、完全に真の気迫に白旗をあげていたので、それ以上の追求を避けた。


「とりあえず、どんな用事があるのかわからないけど、頑張って」


 ついでに言えば、もう自宅には到着している。


 職場から徒歩三分なのだから、本当に早く自宅に到着してしまう。


 隆太は真から逃げる様にして自宅の玄関のドアを開けようとした。


 ……真に逆の手の服の裾を捕まれた。


「……用事があるんじゃ?」


「これが用事です」


 ああ、そう来たかと、隆太は心のなかで嘆息する。


「本当は、こんな強引な事とか、したくなかったんです」


 だったらしなければいいのにと、心の中でだけ言う隆太がいた。


「けど、でも……こんな形で、あの子に先輩をとられたら、絶対に後悔するから、いいます」


 真は意を決した顔になる。


「あなたが、大好きです」


「――っ!」


 しーんと、辺りが静まり返った。


 確実になにかして来るなと思っていたが、よもやこんなストレートな言霊を用意して来るとは思わなかった。


 不意に、心臓が加速する。


 正直、時間が欲しいと思えた。


 簡素に言うのなら、真は隆太にとって好みのストライクゾーンど真ん中と言えた。


 もう、この上ないと言える。


 悩む必要なんか全然ない。


 返事なんか『はい』か『イエス』のどちらかだ。


 なのに、なのに……だ。


 その言葉を口にしたい、そう思っているのに、隆太の口は自分の思う通りに動いてはくれなかった。


 その言葉を言おうと考えると、瞳に涙をいっぱいに溜めた水色髪の少女が脳裏によぎる。


 いや、よぎる等と言う生易しさではない。もう、支配されてるんじゃないかってくらいだ。


 どうして、こうなる?


「……返事、してくれないんですか?」


 強い葛藤の中にあり、数分程の無言状態が続いた所で、真がぽそ……っと、力ない声音を吐き出す。


 見れば、彼女は泣いていた。


 隆太の心がきしんだ。


 俺は一体、何をやっているんだと、自分の不甲斐なさを痛感する。


 目前の真は、精一杯の勇気を出して、かくも直情的な感情を見せているのに。


 素直に『はい』と言えない自分が、ただそれだけの言葉も口に出来ない自分が、とんでもなく情けない男に思えた。


 ……その時だった。


「隆太さん! 助けてぇぇっ!」 


 自宅から悲鳴が上がった。


「……はい?」


 思わず、隆太はポカンとなる。


 一体、なにが起きているのかわからないが、ともかく非常事態が起きている事だけはわかった。


「ごめん、ちょっと家に入らないと」


 言うなり、自宅のドアノブを回して、ガチャッと開けて見る。


 直後、真が隆太を引き留め様としたのだが、その手は止まった。


 私、先輩に絶対迷惑かけてる。


 ――思い、一瞬だけ行動が遅れた。


 その一瞬の遅れが、隆太を帰宅させてしまう。


 果たして。


「お、お前は誰だっ!!」


 自宅のドアを開けて、即座に悲鳴がした方へと向かうと、見知らぬ男が、海を捕縛していた。


 それは完全に捕縛と言うのが正しい。


 彼女の両手には手錠。


 そればかりか、手を後ろに回され、手首をロープで縛られているではないか。


「海ぃぃっ!」


 無意識に身体が動いていた。


 自分でも驚く程、脳内にアドレナレリンが放出された事が分かった。


 一体、何が起きてる?


 どうして、海が捕まっているんだ?


 謎しかない。


 しかし、それら一つ一つを聞く余裕もないだろうし、考えている余裕もなかった。


 がむしゃらに男へと向かって体当たりしてみせる。


 武道の心得もなければ、喧嘩慣れしてるわけでもない隆太には、体当たりで男を弾き飛ばす事くらいしか、出来ないと考えたのだ。


 だが。


 その考えすら甘いと言う事に、間もなく気づく事になる。


 ドカッ!


 ……と、派手にぶつかった筈なのに、男の身体は数センチ動いたかどうか。


 大柄で、筋肉質な体躯をしていた男は、どうやら見掛け通りの強靭な肉体の持ち主であったらしい。


 単なる一般人の隆太に、どうにか出きる相手などではなかったのだ。


「すまんな。これも仕事なんだ」


 男は隆太を簡単に払い除けると、両腕を縄で縛った海をヒョイと軽く担ぎ、そのまま自宅を後にしようとする。


「まってくれ!」


 刹那、隆太は叫んだ。


「せめて、海を連れて行く理由だけでも教えてくれ!」


「そうだな。じゃあ、一つだけ聞こう。今、この時代に車が人間になれるだけの技術があると思うか?」


 答えは必然と言えた。


「ないだろう? それが答えだ」


 答え、男は今度こそ隆太の自宅を出て行った。


 途中、真も男の行く手を阻もうとも思ったが、当然やるだけ無駄と言える。


 その歴然たる能力差は、彼が一睨みしただけで、真の顔が蒼白になってしまう程だった。


 まもなく、ぺたんと腰落としてしまう。


「………くそ」


 隆太は歯を大きく食い縛る。


 無力な自分がいた。


 自分の嫌な部分ばかりが、脳の中を縦横無尽に暴れ狂う。


 不甲斐なくて情けなくて力もなくて。


 自分への嫌悪感で頭が発狂しそうになっていた……刹那。


「後悔はするもんじゃない、やるなら、反省にしろ!」


 いきなり、自宅に見たことのない女性が入って来る。


 誰だろう? ふと、考えて見るが、全く覚えがない。


 そして、のんびり悩んでいる暇もなかった。


「急ぐぞ! のれ!」


 切迫した表情のまま彼女は叫び、隆太を自宅から引きずり出す感じで外へと連れ出す。


 直後、彼女は……車になった。


「………え?」


 それに驚いたのは、近くにいた真だ。


 当然ながら、はじめての体験だった。


『ああ、そういえば、アンタ以外に人間がいたな……ちっ、私とした事が、海の事で一杯になってたみたいだ』


「海を知ってるのか?」


『話は追いかけてる時に言う。とにかく今は乗ってくれ!』


 直後、車のドアが開く。


 どうやら、自動で開く機能もあるらしい。


 かくして。


 何がなんだかわからぬまま、隆太は謎の女性が変形した車に乗る。


 同時に真も。


「なんで、まこちゃんまで……」


「なんとなくです!」


「なんとなくかい!」


 かくして、隆太と真を乗せた車は、郡浜の街を軽快に突き進んだ。


 ……と言う所で、次回に続く。


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