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車でラブコメを書いてみた  作者: まるたん
二回目 バイト先の君と謎の車
7/33

【2】

 平凡と平凡をそのままくっつけても足りない位、極々オーソドックスなコンビニ。


 それが、隆太の職場であり、これから向かう予定の場所でもある。


「いらっしゃいませ、お早うございます」


 店内にお客が入ると、朗らかな声を出すスタッフ。


 普通に営業スマイル0円で接客していたのは、この店のスタッフである、菊地香織の声だ。


 やや赤みのある短い髪を綺麗に切り揃えていた、中々の美人だった。


 年齢は27歳。


 ……なのだが、実際は年齢を聞かない限りはその答えに到達する事は難しいだろう。


 彼女は、自分以外の全員が認める超絶ロリ……もとい、童顔だったからだ。


 はっきり言えば、どっかの高校……いや、中学の制服を着ていても、何の違和感もないだろう。


 もはや、大人の女と言っているのは、自分だけと言う自称お姉さんであった香織は、しかし実際は本当に成人だった事もあり、今日も今日とて社会人のはしくれらしく、元気に仕事を続けるのだった。


「お早うございます」


 程なくして、香織の耳に聞き慣れた声が転がり混んで来た。


 今から約1年程度前に入って来たスタッフ……隆太の声だった。


 故に、香織もまた、軽い口調で返事を返そうと口を動かして見せる。


「あら、おはよう鈴木君。今日は少しおそか………」


 ……が、言葉はそこで止まってしまった。


 いつもなら、店の裏側にあるスタッフルームに向かう彼が、いきなり店内に入って来た時点で、若干の違和感を抱いていた香織ではあったのだが、挨拶をして来た隆太へと視線を向けて、その違和感は明らかな異変へと変わっていた。


 挨拶をして来た彼――隆太の後ろにしがみついている、水色髪の少女がそれだ。


「えぇと……その子は?」


「すいません。本当は振り切るつもりでしたが、その前に到着してしまいました」


「あ、あの……そう言う事が聞きたいわけじゃなくて……」


 取り敢えず、当たり障りのなさそうな所から訪ねた香織だったが、答えになっていない答えがやって来た為、どうして良いか分からなくなった。


 そもそも、どんな経緯があると、今の様な状態になると言うのか?


「……ほぅむぅ……貴女ですか。私の隆太さんにちょっかい描けてる悪女は!」


「あ、悪女ぉっ?」


 根本的におかしい状況に、思わず小首を傾げていた所で、隆太にしがみついていた水色髪の少女――海が敵意の塊を言霊に込めて言い放って来た。


 思わぬ言いがかりに、香織は思いきり面食らってしまう。


「だ、だから違うって言ってるだろ!」


 直後、本気で焦っているだろう隆太が海へと思いきり捲し立てる。


 そこから、二人の痴話喧嘩っぽい会話が数分程続いた。


「………」


 他方の香織は無言のまま、口元だけをヒクヒクさせていた。


 心の中では言っている。


 近頃の若い子は………と。


「……やる気あるの? 鈴木君。ここは職場なのよ? まだ学生だからって、仕事と私生活の区分け位は付けてもらわないと……」


 大方、痴情のもつれ辺りだろう……全く、私だって正式な彼氏がほしいと思ってるのに。


 ……とか、半分位は八つ当たり風味に、内心でリア充爆発しろと叫んでいた香織。


「す、すいません! 今スグ帰らせますんで!」


「そして、私をのけものにして、そこの女とイイコトするつもりしてるんですよねぇ? う~~~っ! そんなの、天も神様も海さんも許さないです!」


「アホかっ! どうしてお前の思考は、常にソッチにばっかベクトルが傾くんだよ!」


「いつも、そ~ゆ~事をやりたいと思ってるからじゃないですか!」


「滅茶苦茶ストレートなビッチコメントをありがとうっっ!」


 二人の会話は遅々として先に進まなかった。


「………」


 途中までは苦笑してた香織も、これにはげんなりした顔になってしまう。


 しばらくして。


「……はぁ。仕方ない」


 諦めにも似た嘆息を吐き出すと、香織は海に向かって声を出した。


「えぇと、鈴木君の彼女さん……で、あってる?」


「はい、合ってます!」


「正確には、彼女ではありません!」


 直後、香織の言葉に海は速攻で頷いて、隆太は否定する感じの台詞を口にした。


 香織の眉が地味によじれた。


 内心では思う。


 鈴木君って、私が思ってるよりタラシな奴なのか?……と。


「鈴木君。君はもう少し女の子に対する思慮と言うモノを学んだ方が良いと思うわ」


「おおおおおっっ! も、もしかして、貴女……実はスゴくイイ人なのですか?」


 呆れにも似た顔して言う香織がいた直後、海が感嘆の叫び声を上げた。


「イイ人なのかは分からないけど、恐らく、アナタの敵ではないわね。むしろ味方かな?」


「ま、マジすか! 半端ないサッカーする人くらい、マジすか!」


 苦笑混じりの香織に、海は瞳を凛々と輝かせた。


 口調も、何故かいつもと違った。


「そうね、半端は嫌いだから、大迫さんには負けるかもだけど、半端な気持ちでは言ってないと思う」


「おおおおおっっっ!」


 にっこりと笑みを作った香織に、海は大興奮だ。


「あ、あのぅ………」


 そこから、ワンテンポ置いて、隆太が反論混じりに何かを口にしようとしたが――


「鈴木君は、少し黙っててくれない?」


「………はい」


 あっさり、撃沈。


 笑みは作っているけど、瞳は全然笑ってなく……むしろ、怒りにも似た妙な感情がぐおぐお言ってた香織を前にして、即座に頷く事しか出来なかった。


 軽く、ヘタレだった。


 思いきり、意気消沈してた隆太をよそに、海は反比例するかの様なハイテンションで香織を見据える。


「申し訳ないです。どうやら、海の勘違いだったみたいです……えへへ」


「大丈夫よ。気にしてないわ。それより、海さん……でいいのかな?」


「はいっ! 海と言います!」


「あなた………ここでバイトをして見る気はない?」

 

 香織は柔和な笑みを作りながら言った。




 ★☆★☆★




 一時間後。


「う~ん。こんなモノでいいですかねぇ?」


 などと答えながら、コンビニの裏手にあるスタッフルームで履歴書を書く海の姿があった。


 ……あれから。


「え! あ、あたし、ここで働いてもいいんですか?」


「ええ、もちろんよ。歓迎するわ」


「で、でも、そう言うのはまず店長さんとかに会わないと……」


「もう会ってるでしょ?」


 言うなり、香織は自分のネームを指差す。


 そこには、確かに書いてあった。


 店長・菊地香織――と。


「………え?」


 海は鳩が豆鉄砲を喰った顔になった。


 見る限り、隆太の先輩スタッフなのかなとは思っていたのだが、まさか店長だとは思わなかった。


「え? えええ! て、てんちょ~? こ、ここの店は中学生が店長してるのですか?」


「なに? 採用を取り消して欲しいって?」


「おうふ! い、いいえ! お代官様! 滅相もありませぬぅ!」


 海は、なんか役者掛かった感じで平服してた。


 ………と、まぁ。


 この様な小話を経て、現在に至る。

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