なんて事のない、海の日常【2】
「隆太さんは知らないでしょうが、夏場のおっぱいはムレます!」
なんか、気合いそのままに、スゴく恥ずかしい事を叫んでた。
そこから眉をよじりつつ、忌々しいと言わんばかりの顔になる。
「外の街頭を歩いてる時、何回むず痒い思いをしてるか! 何度、その場でブラ外して、おっぱいを持ち上げたくなったか!!」
本当に、言ってて恥ずかしくないのだろうか?
「しかし! 流石に街のど真ん中でブラ外して、おっぱいをタオルで拭くとか出来ないのです! これでも乙女なのだから!」
乙女は、きっとこんな事を暴露しないと思う。
「結果、胸の下には見るも無惨なアセもが出来てしまうのです……くぅ………夏なんか大嫌いだ!」
「まぁまぁ。俺は好きだぞ。海の胸」
一応フォローのつもりなのだろうが、ただのおっぱい星人にしか聞こえない台詞だった。
「本当! ならよし!」
でも、なんか海は喜んだ。
お似合いのカップルなのかも知れない。
「その他にもですねぇ………ブラが超高いのです。CとかD位までなら、それなりに可愛くてお値段もそこそこなのがあるのですが、これが……ねぇ」
とほ~って顔になる。
「Fとかになると、もう良くわかんない柄のケバいブラで、お値段スカイツリーとかザラなのです。せめて東京タワー位になって欲しいのです」
どの道、それなりに高い気もしたが、敢えて隆太はツッコミを入れなかった。
「Yシャツも、本当のサイズより一回りか二回り大きいのじゃないと、胸元のボタンが止まらないし、止まっても、ボタンとボタンの間からブラが見えてしまうと言う残念な仕様に! あたしゃ、好きな人には見られたいけど、他の男に見せる気はないんだよぉっ!」
もう、なんか次から次へとポンポン出て来た。
取り合えず、苦労してるんだなと言う事だけは分かった。
「シャツも裾が全然合わないから、いつもダボダボ……なにそれ? 彼氏のシャツ? とかってイジられる様なのしか着れない悲惨さ加減。もはや鬱になるのです!」
ぐぬぬぅ!………と、海は右手をフルフル震わせる。地味に半べそになっていた。
「そんな訳で、巨乳本人はあんまり良い物だとは思ってないのです」
「なるほどねぇ……」
いっそ、平らな方が良いのだろうか?
ふと、そんな事を考えてしまう隆太。
同時に思った。
「そう言えば、ノースってBなんだな」
もっと、こうぅ………慎ましやかだと思っていた。
「ほむ、これはですねぇ……まぁ、あれです。最近のはパッドが入っていたり、ワイヤーが結構丈夫だったりで、少し見栄を張ってもバレないのです」
「そ、そうなのか」
なんとなくだが、聞いては行けない物を聞いている気もした。
「ノースのはシリコンやエアーパッドとかの、結構な本格派なので、普通にブラの性能以前にバストアップされてますねぇ」
「なんだ……と?」
あれでか?
隆太の思考に激震が走る。
プリウや海の様な山脈地帯に目が慣れてしまったからなのかも知れないが、仮に二人のバストをエベレストとするのなら、ノースの胸元は高尾山より低い。
しかし、それですら、パッドで水増しされていたとすれば……真の姿はいかほどなのか……?
「うーん………」
大した意味もない事だったが、思わず腕組して悩んでしまった。
そんな時だった。
「何をそんなに悩んでいるの?」
ノースの声がした。
どうやら、帰宅して戻って来た模様だ。
「あ、えぇと………いや、なんでもない」
隆太は全力で空惚けた。
でも、根が正直だから、とっても演技が下手くそだった。
「?………何を隠してるの?」
怪訝な顔になる。
「ノースの胸が実はパッドで、真のバストは潰れあんパンと同じって話しをしてたです」
「なんて話しをしてるのぉっ!」
ノースは顔をスペシャル真っ赤にして怒鳴った。
最近は結構、顔に感情が出る場面も多かった。
「い、いや、違うんだノース!」
直後、隆太はアタフタして叫んだ。
「何が違うの?」
ギロッと睨んで言う。
確実に怒りで精神を支配してるって顔だった。
「ノースの胸はパッドでも俺は可愛いかなって。平でも全然問題ないと思うし」
間もなく、隆太なりのフォローを入れる。当然フォローになってなかった。
グサッグサッ! とノースの頭に隆太の吹き出しが刺さる。
しかし、それでも彼なりに気を遣ってるんだと思い、怒る事をなんとか堪えていたノース。
しかし。
「けど、色気はないよね?」
「まぁ、流石にそこはないかもな」
何気なく質問して来た海の問いに、うっかり本音を暴露してしまった事で、ノースの怒りメーターが臨界点を突破してしまった。
「隆太ぁぁぁぁっ!」
完全にブチ切れたノースは、その後、隆太を完膚無きまでボコボコにしたらしいが、後日談である。
~おしまい~




