騒々しい日常
酷い目にあった。
………とは、隆太のぼやきだ。
青い薬の副作用は隆太を激烈筋肉痛地獄に追いやったからだ。
はっきり言って、痛いとか言うレベルではない。
全身筋肉痛が原因で、最初の一日目は動く事すら出来なかった程だ。
あの薬を口にしたのは隆太ではなく智也であったのだが、自分の意思では絶対に飲まないと、この時の隆太は心に誓った。
そんなこんなで、数日程度の時間が過ぎる。
数日後。
ようやく身体が自由になって来たその日、鹿苗代にある時空転移ポイントに、隆太はやって来た。
見れば、そこには海とプリウ、ミキの三姉妹にノースを入れた四人と、後輩の真までいる。
その中央にいたのは、ツイストだ。
竜也は逃走してしまった物の、一連の事件に一応のピリオドが打たれ、上層部と話し合った結果、ツイストの帰還が決定した。
この時代に留まりたいノースとは対照的に、ツイストは未来となる己の現代に戻る事を希望していたのだ。
彼には三歳になる娘と、去年生まれたばかりの息子がいた。
何より最愛の妻もいる。
仕事はキッチリやろうとするし、見た目がゴツい事もあって余り知られていないのだが、こう見えて家庭的なパパさんであった。
「お別れだな」
「本当、お世話になりました」
やんわりと微笑み、隆太と握手を交わすツイストがいた。
がっちりとした握手だった。
ちょっと、隆太の手が痺れた。
しかし、流石に空気を読んだ隆太は笑顔でお礼を言う。
「俺、ツイストさんのお陰で、少し強くなれた気がします」
この言葉通り、ツイストに簡単な護身術を幾つか教えて貰った。
簡単な護身術と表現したが、あるとないとでは大違いなのだ。
「元気でね、ロリコン」
「最後までそれですか………ロリコンではないですよ、俺は」
ある意味、普段通りの能面状態で言うノースに、ツイストは苦笑して見せる。
内心では、最後くらい普通に名前で呼んで欲しかった気もしたのだが、これはこれで彼女らしいとも思えた。
「所で、いつも気になってたんですが、何でツイストさんをロリコンって呼ぶんです?」
「そうか、隆ちゃんは知らないのか、ツイストの嫁を」
ノースは『なるほど』と手を叩いた。
そこから、虚空に映像が現れる。
一枚の写真なのだろうそれは、ツイストと一人の幼女。
「これが、ツイストの嫁」
「………なるほど」
隆太は納得した。
「いや! そうだけど、違う! 大体だな? 俺の嫁さん二十五だぞ? 俺とそんなに違わないんだぞ!」
「問題は年齢ではない。外見だ」
物凄い勢いで狼狽しまくるツイストを前に、能面のままノースは口だけを動かした。
実際、凄い説得力があった。
「それにしても、これで二十五歳とは………」
「未来は平均寿命も上がっているせいか、稀に超特殊変異ロリ女がいる。こんなのに手を出すヤツは少ないが、これまた稀に超特殊性癖を持つ男もいる」
それがツイストとなる。
「だ、だから違うんだ! こいつと俺は幼馴染みで! なんか、色々あってこうなったんだ!」
その後、ツイストは未来に帰るその時までずぅっと言い訳がましい事を言っていたが、誰も聞く耳は持たなかった。
そして。
「バイバイ、ロリコンおじさん~!」
「達者でな、ロリ~」
「えぇと、私はロリコンでも愛があれば良いと思うので、その………頑張って下さい!」
みんなから暖かいロリロリメッセージを受け、未来に旅立って行った。
ちなみに、ミキ・プリウ・真の順で言っていた。
ツイストは違う意味で泣きたくなっていた。
最後に海が元気一杯のお日様笑顔で叫ぶ。
「ロリは正義です! 胸を張りましょう! ロリコン万歳! イエス・ロリコン! 超タッチ!」
手を出してるからノータッチではなかった。
「誰が言うかぁぁぁぁぁ! だから、俺はロリコンじゃねーーーーんだぁぁぁぁっ!」
ツイストの喚き声は、夏を迎えた鹿苗代の入道雲へと響き渡った。
私の恋模様は平々凡々から波瀾万丈へと豹変した。
………とは、真の台詞だ。
この十日間余りで、意中の先輩の間に劇的な変化が、いたずら強烈に起こっていた。
ほんの少し前までは、一緒に学校で会ったりバイトで顔を会わせたりする自然な流れから恋が愛に発展して、それで仲良くなれたら付き合えるんじゃないかなぁ………と、軽く思っていた。
それが砂糖水より甘い妄想に過ぎないと言う現実に直面しようとは、流石に思わなかった。
車になれる不思議な女の子に、未来の少女………この二人だけでも強敵なのに、この上更に増えそうだと言うのだから始末に置けない。
もういっそ、他の男にしようかなとも考えてしまうが、やっぱりそこはそれ。
このまま負けてお仕舞いとか、自分が許せない。
何より、誰よりも先に先輩と仲良くなれた筈なのに、気付けば二番手、三番手。
もう、ぼやぼやしてる余裕はない。
なんとしてでも、先輩のハートは私がゲットして見せる!
真は、今日も元気に恋する乙女をやっていた。
朝が来た。
今日も今日とて東から太陽が登る。万物が流転している以上、変わる事のない世の理だ。
変哲知らずのお天道様は、今朝も元気にその姿を見せていた。
「う~ん………」
電線に止まる椋鳥の合唱をBGMに、今日も少しずつ意識を覚醒させて行く。
緩やかに意識を回復させて行くと………まるで万物流転と同じだと言うばかりの自然さで、海はすぅすぅ寝息を立てていた。
見れば、ノースも寝てる。
もう、ここ最近ではちゃめし事だ。
最初は注意もしたし、怒ったりもしたのだが、最近ではどうでも良くなってしまった。
不本意混じりではあるが、見慣れた光景になりつつある二人の少女を起こさない様にベットから起き上がる。
ガチャ
「あ、お兄~。おはよ~」
部屋から出て、リビングに向かうと、キッチンで朝食を作るミキの姿が。
ここ最近は、ミキが食事を作っていたのだ。
花丸笑顔を快活に作ったミキは、今日も変わらぬ朗らかさで、隆太に朝の挨拶をしていた。
「おはよう。いつも悪いね。たまには手伝おうか?」
「大丈夫ですよ~。ミキは料理が趣味なんで。好きでやってるのですよ~」
再び笑み。
衝動的に抱き締めたくなる愛らしさがあった。
「ツイストさんの気持ちが分かった気がする」
「………およ?」
「いや、なんでもない」
キョトンとなるミキを前に、隆太は誤魔化し笑いをしながらリビングのテーブル前に腰を降ろす。
程なくしてプリウも部屋に入って来た。
「おはよう二人共。今日も元気そうで何より何より」
そう言う貴女もなと、思わず言ってやりたい様な声がやって来る。
………と、この様に。
結局、三姉妹は隆太の自宅に居ついてしまった。
ついでにノースのオマケつきである。
最近は見事に騒々しい。
しかしながら、それはそれで良いのかな、と思う隆太もいる。
なんだかんだで楽しい毎日ではあったからだ。
相変わらずノースはおかしい台詞を臆面もなく言うし、プリウは悪気もなく隆太を振り回すし、ミキもミキで可愛過ぎて………日々、ロリ道との戦いである。
極めつけは海で、怒る必要もない場面でも、やっぱり怒鳴り散らすハメとなる痛烈なボケを幾度となくかまして来る。勘弁してくれと言いたい。
それでも、いつしかこれが平凡になるのだろう。
あるいは、別れが来て………最悪独りになってしまうのかも知れない。
だけど………否、違う。
だからこそ、思う。
今と言う、この時間を楽しもう………と。
ガチャ!
その時、海とノースの二人も起きたらしく、リビングにやって来た。
「おはようマイダーリン。今日もノースは貴方の虜」
朝からおかしな事を言ってた。
文字通り挨拶代わりだ。
「隆太さん! おはようを返しては行けないです! 海のマイダーリンだから、そこは頑に拒否しましょう!」
直後、大声で喚く海。
最近の朝は、大体いつもこんな感じだ。
騒々しい事、これ極まりだ。
そして、平凡の中にあるとっても貴重な日常になりつつあった。
きっと、しばらくは続くのだろう。
この、非凡で変哲で大概な――楽しい時間が。
退屈がそっぽを向く様な時間が。
鈴木家は、今日も騒がしい朝を送っていた。
車でラブコメを書いて見た-了-




