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車でラブコメを書いてみた  作者: まるたん
最終回 智也と隆太と海
29/33

【9】

「………バカ過ぎるだろ」


 他方の竜也は愕然と唖然を合わせた様な顔になってしまう。


 彼にとってみれば、とっておきの最終兵器でもあった筈なのに………しかし、かくもアッサリと無力化されてしまうとは予想だにしなかった。


「…………」


 無言。


 まさに絶句だ。


「くくく………」


 何をやっても勝てない物は勝てない。


 今までも、これからも。


 絶望が見えた気がした。


「くっそぉ………ちくしょうぅ………」


 悔しさが滲み出てしまう。


 もう、どうする事も出来なかった。


 しばらくして、竜也は地上にすぅ………と、ゆっくり降りて来る。


「まだ、やるか?」


「………いや、もういい」


 軽い口調で言う智也に竜也は目線を下に落としたまま力無く呟いた。


 




 戦い終わって。


「時空法による現行犯が適応される為、これより貴方を逮捕する。黙秘権は認めるが、拘束中の抵抗は認めない」


 言うなり、ノースは近くにいた竜也の両手に手錠を掛けた。


 そして、外した。


「………は?」


 唖然となったのは竜也だ。


 完敗により精根が尽き果て………抵抗する余裕もなく、大人しく観念した彼であったが、余りにも想定外な出来事が起こってしまい、思わずポカンとなってしまう。


「なんて事! 手錠を外されてしまったわ!」


「お前が勝手に外したんだろうがっっ!」


 大仰に驚くノースを前に、竜也もツッコミをいれてしまう。


 一体、何を考えてるんだ?


 全くもって意味不明な事を普通にやって来たノースを前に、竜也は動揺の色を濃くしてしまった。


「く…………流石は智也の弟ね。まさか、こんな強大な力を隠し持っていたなんて」


「だから、俺が何したってんだよ!」


 間もなく、芝居掛かったと言うか、芝居その物としか言えない事までやり始めたノースに、竜也は困惑する事しか出来なかった。


 間もなく、ノースは右手で『向こうにいけ』とアピールして見せる。


 直後、顔でも言っていた。


「さっさと消えろ」


「声に出てるし!!!」


 本当に何がしたいんだよと、思いきり叫んでやりたくなる。


 だが、見る限り、竜也を捕まえる気がない事だけはわかる。


 簡素に言えば、この場を見逃してやると言ってるわけで。


「………お前が何を考えての事か知らないが、俺を捕まえる気がないなら、それでいいさ」


 気に入らないが、受け入れてやっても構わないと思った。


「ただ、今の俺を逃がした事を、後で後悔するんじゃないぜ」


 完全な捨て台詞を残し、竜也はその場を立ち去った。


「よし!………いや、そうではなく、残念ながら竜也を取り逃がした」


 程なくして、右手でグッジョブした後、ハッとなり形だけ申し訳ない顔したノースがいた。


「………相変わらず変なヤツだな」


 それら一部始終を見てた智也は呆れ顔になって見せる。


 しかし、彼も止めはしなかったのだから、同罪と言えば同罪だった。


「貴方には負ける」


「ご挨拶だな………少なくとも、俺は現行犯で捕まえた相手を三秒で逃がす真似なんかしないぞ?」


「仕方ないでしょ………こうでもしないと、この時代に居座る理由がなくなるもの」


「………まぁ、そんな事だろうと思ったよ」


 嘆息混じりに言うノースに智也は更に呆れた口調で声を返して見せた。


 ここで竜也を捕まえた場合、諸悪の根元を無くした事になる為、任務が終了してしまう。


 簡素に言えば、未来から帰還命令が来る事になる。


 しかし、ここで竜也を捕まえなかったとすると………どうなるだろう?


 任務はまだ途中となり、当然、続行と言う形になる。


 当然、ノースもこの時代に残留と言う事になるわけで。


「あっちの時代に未練はないわ」


 何より、こっちには智也がいる。


 ………とは、少し恥ずかしかったから言えなかった。


 相手が隆太であれば、あるいは言えたかも知れない。


 しかし、これが智也だと、どうにも上手に自分の気持ちを伝える事が出来なくなってしまう。


 どうしてそうなってしまうのかは、自分でも不思議なのだが、こればかりはどうにも直す事が出来なかった。


 結果、かつてのノースは海よりも早く智也と出会っていたにも関わらず、彼の意中の人になる事は叶わなかった。


 隆太に対しては素直に色々と言う事が出来るのは、この辺に理由があるのかも知れないが………余談である。


「これでも私、この時代が気にいってるのよ」


「まぁ、そう言う事にしておいてやる」


 やっぱり、何処か素直になれないノースがいる中、智也はちょっとだけ苦笑して見せた。


 ――刹那。


「智也っっっ!」


 いきなり海が飛び込んで来た。


「うわっぷ!」


 やや不意を突かれた智也は、驚いた顔のまま、少しだけよろめいてしまう。


 しかし、青の薬により身体能力が高まっていたからか、少しよろめくだけに留まる。


「い、いきなりかよ………」


「いきなりじゃないもん! なんか戦ってるから、少し待ったんだもん!」


 そして、終わったのをみて、即座に飛び付いて来た。


 間もなく、大声で泣き始める。


「もう………もう、会えないと思ったよぅ………本当に本当に寂しかったんだから! うぁぁぁぁんっ!」


 自分の感情を実直に叩きつけていた。


 かつてあった温もりが、そこにあった。


 ほんの少し前までは、なくなるなんて思わなかった、至極当然の温もり。


 その価値の高さを、今………実感していた。


「泣くな………お前は、笑ってろ」


「だってぇ………だってぇ………えぐ………」


「いいか? お前の良い所は、その笑顔だ。誰にも負けてないんだぜ? 例え女神が相手でも、だ」


 だから笑っていて欲しい。


 その笑顔が、智也にとって何よりの宝物なのだから。


「………ミキにも迷惑かけたな」


 視線を少しずらすと、そこに半ベソのミキがいた。


 姉に触発されたのか? こっちも貰い泣き状態だ。


「迷惑だとは思ってないよ~。けど、もう死ぬのは勘弁してくだしゃ~」


「………はは。まぁ、そこは俺ではなく、この時代の俺にでも言ってくれ」


 智也は苦笑混じりに言う。


 所詮、彼は前世の存在。


 この時代の彼は別の人間として、既に違う人生を歩んでいたのだ。


「………まさか、また消えるの?」


「消えはしないさ。ただ、また隆太と一緒になる。それだけだ」


「…………」


 海は無言になる。


 正直に言うのなら、彼女にとって最愛の人は、眼前の智也だった。


 隆太は飽くまでも智也の前世だから、好意を抱いている。


 当然、智也がこのままであってくれれば、海はこの上なく嬉しい。


 けど、だ。


「隆太さんも、智也なんだよね」


 実際に何日か一緒に生活して分かった。


 間違いない。隆太と智也は同一人物だ。


 故に、思う。


「たまには、智也になってね。海は智也も好きなんだから」


 やや、強がる様に笑った。


「うん、やっぱりお前は笑ってる方が良い」


 智也も笑った。


 間もなく、ポンと軽く海の頭をなで、愛情を込めて海を抱き締めたのだった。




 エピローグに続く。  

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