【8】
「………っ!」
サクッと、まるで抵抗がなかったかの様に、シールドは切り裂かれる。
同時に素早く後ろに飛んで、竜也の斬撃を紙一重でかわした。
いや、違う。
鮮血が、右肩から吹き出た。
「………ぐぅ」
智也は思わず顔を歪ませ、地に片膝を付く。
「くくく………これだよ。これが見たかったんだよ、俺は!」
残忍な眼光を露骨にしながら、含み笑いと言う名の嘲笑を口から思いのままに放った。
心が満たされて行くのを感じる。
やっと………やっとだ!
「くくくく………これで、ようやく復讐出来る。ぶざまに血ヘドを巻き散らず糞兄貴の姿を………夢にまで見た俺の悲願を、やっと果たせる!」
「もう、勝った気でいるのか?」
狂喜乱舞の竜也を前に、智也はやはり笑みを絶やさない。
数秒後、智也の周囲にいたオプションが瞬く間に右肩の傷を癒して行く。
「…………」
いや、嘘だろ?
思わず唖然となった。
一応、オプションには治療を目的としたオプションも存在する。
しかし、治療専属のオプションである為、戦闘には参加出来ず、かつまた、そこまでの治療能力はない。
現代からすれば、それでも驚異的ではあるのだが………しかし、明らかな致命傷に値する肩の傷を完治させるには、一時間は必要とする。
ところが、どうだ?
目前の兄はモノの数秒で、傷跡すら残す事なく、綺麗に完治しているではないか!
「この、チート野郎が………」
「それは少し違うな。実は俺も驚いてる。流石は天才少女。やる事がイチイチ規格外だ」
そこから、智也は薬箱から青い薬を手にし、口に押し込む。
程なくして、ゴクリと飲み込んだ。
「………とは言え、流石にその武器には勝てそうにない。シールドがバターの様じゃ、避けるしかない」
よって、身体能力の上昇は必須となった。
ここで攻撃する気になれば、当然攻撃も可能だった竜也だが、普通に智也の服薬をみるだけに留める。
理由は前回の通り。
たら・れば無しの勝利が欲しいだけだ。
「第二ラウンドだ――行こうか」
小粋に笑う智也。
自分でもわかる。これはスゴい。
「正直、薬の力に頼るってのは、気が進まないが、凄いな。力が無駄に出て来る」
「武器も使えますよ~っ!」
思わぬ角度から、声が転がって来た。
視線を声がした方向に移すと、
「天才がいるな」
「海さんもいるぞー!」
「阿呆もいるな」
「うーーーーーーっ!」
智也にとっての日常的な二人の姉妹が、そこにいた。
ちょっとだけ、口がほころんだ。
刹那、竜也が激しく歯を喰い縛る。
「なんでだよ………なんで、いつも兄貴、お前ばっかり………もう、うんざりなんだよぉぉぉっっ!」
次の瞬間、竜也は両手の大剣を振り上げ、瞬時に智也の脳天めがけて降り下ろす。
ズドォォンッッ!
大剣は………止まった。
激しい衝突音と共に止まった先にあったのは、智也が手にしていた長い槍によるモノだった。
「ミキ特製! 光粒子大槍! 名付けて、ミライ!」
ミキは無い胸を大きく張って、得意気に叫んだ。
「光粒子大槍………だと?」
またもポカンとなる竜也がいた。
光の集合体、光粒子。
当然、これだけでは物質として存在しない。
所が、この光粒子を尋常ではない密度にすると、質量が発生し、更に物体に変わる。
素粒子の更に小さい密度で物質が再構築されたプラズマの集合体は、そこらで発掘された天然の合金や鋼鉄など、塵芥にも劣る。
百年後の未来ですら、未知の領域だろうハイパーテクノロジーが、そこには多数組み込まれていた。
「正直、ちと燃費の悪い武器なのですが~………ま、五分はもつかもです~」
そして、五分もあれば、余裕で竜也を粉砕する事が出来た。
「はは…………」
乾いた笑いを見せる竜也。
戦わなくてもわかる。
あの槍は破滅的だ。
銃や光線を駆使して戦う時代から更に進歩すると、まるで退化したかの様に過去の様な武器に戻る。
ただし、それは飽くまでも見た目だけの話しだ。
結局、人間が武器を武器として扱う場合、根本的には先人の知恵を拝借するのが簡単だった。
武器を手にとり、振り回したら良い。
この行為だけを見れば、下手なハイテク装備より、使い勝手がシンプルなのだ。
そこに、様々な工夫を加える事で、より使い勝手が良くなり、一瞬の攻防を必須とする命のやりとりで大きく重宝する。
様は、死なない事。
これを重点とした時、光線を弾き飛ばし、弾丸を防げる武器を工夫したら、過去の遺物と出会った。
果たして。
竜也の持つ大剣は、温故知新から生まれた、全く新しい現代兵器の一つでもあった。
だが、しかし。
それと同じ観点から産み出されたろう、智也の槍は………まさに未来の兵器ですらあった。
「まだだ…………まだ、やれる」
明らかな敗戦色が見えた時、しかし、竜也は呟き………その闘志をみなぎらせる。
瞬間、竜也は物凄い勢いで地を蹴り、真直角に飛んで見せた。
一気に高度百メートル付近まで跳躍する。
すると、今度は大剣を銃に見立てるかの様な体制を取り、狙いを定める。
その先にいるのは、地上の智也だ。
「いくら、兄貴が反則紛いな事ばかりしてたとしても、これは防げない筈!」
剣に光が集まる。
ヒュゥゥゥ…………ンッ!
大剣の穂先から、超巨大な光の塊が出現する。
竜也が持つ奥の手が、これだった。
ミキの作った槍とは違い、大剣そのモノは合金で出来た物ではあったのだが、そこはそれ、未来のテクノロジーはもちろん装備されている。
大剣から集まった光は、間もなく………その全てのエネルギーを放出しようとしていた。
「あばよ、糞兄貴」
放てば、あるいは周囲にいる彼女達も危害が及ぶかも知れない。
海だって、無事ではないかもしれない。
だが、今の彼は完全に勝利の二文字にのみ固執していた。
もう、なんでも良かった。
ただただ、兄に勝つだけだった。
「大盾です! 構えて!」
竜也最後の攻撃が放たれ様としていた直後、ミキが智也に叫ぶ。
「構えるのか?」
今一つよく分からないが、一応、盾があるものだとして、ガードのポーズなどを取ってみる。
すると、槍が消え、変わりに智也を覆い尽くす程の巨大な盾が出現した。
同時に、竜也の大剣から超極太のレーザーが飛んで来る。
もはや普通の光線ではない。
ちょっとした戦艦が放つ大砲の様な光線だった。
「うぉぉわぁっ!」
思わず智也は叫んでしまう。
当然だ。
想像してみよう?
自分が海上で平泳ぎしてる所に戦艦の主砲が飛んで来たら、誰だって悲鳴を上げるに違いない。
比喩で述べたが、現状の智也を簡素に別の物で言い表すと、そんな感じになる。
思わず目を覆いたくなる衝動にも駆られるが、
「…………は?」
ポカンとなったのは、智也の方だった。
ズバリ言うのなら、防げる自信など全くなかったのだ。
しかし、結果は想像を絶した。
なんと、アッサリと極太レーザーを吸収してしまった。
「………反則すぎるだろ、これ」
助かった本人が言うのも気が引けたけど、思わず智也は呆れた。




