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車でラブコメを書いてみた  作者: まるたん
最終回 智也と隆太と海
27/33

【7】

 当然、逃げる分けにはいかない。


 いかないけど、じゃあ………どうすればいいんだ!


 思わず、途方に暮れた顔を無意識に作り出していた隆太を前に、ノースが助言する形で言って来た。


「まずは、その黄色の薬を服薬して。状況次第では青も………そして、今日の夜はホテルで赤いのを飲んで」


 すごい真剣な顔して、近くのラブな宿を指差していた。


「最後のは明らかに違いますけど、わかりました」


「分かってくれたの! 嬉しいわ!………きっと、来年には玉の様な可愛い我が子が………」


 ノースは違う世界にトリップしていた。


 きっと、最後のホテルで赤い薬を飲む事に許諾したと勘違いしていたのだろう。なんて残念な少女だろうか。


「いい加減、始めてもいいか?」


 目前で展開する茶番劇を前にして、イライラが募ったのだろう竜也は、更に眼光を強めて隆太達に口を開いていた。


 ひぃぃぃぃぃっ!


 マジでおっかねぇんだけど!


 隆太の額から大量の冷や汗が流れた。


 真面目に勘弁してくれと、悲鳴を上げたい気持ちで溢れた。


 と、とにかく落ち着こうか………まずは、黄色の薬を飲もう!


 思い、ミキから貰っていたケースを開けて、そこから一錠の薬を口の中に押し込む。


 一言で表現すると………宇宙が見えた。


 何が起きたのか分からない。


 薬を強引に飲み込んだ瞬間、視界が変わった。


 突然、宇宙の様な謎の闇色空間の中に身体のすべてを持って行かれ、周囲がとてつもない勢いで流れて行く。


「………な、なにが起こって………?」


 困惑する隆太がいる中、闇色空間の果てに、一人の男がいた事に気付いた。


 男は………


「………俺?」


 自分に酷似している青年だった。


 ただ、どことなく違いがある。


 飽くまでも似ているだけであって、その内情は似て非なるモノと表現出来た。


「………まさか、こんな方法で俺を起こしに来るたぁ………な。恐れ入ったぜぇ」


 男は、ニヒルな笑みを色濃く作った。


 正直、なんだか物凄く格好が良い。


「この世代の俺、よく頑張った。後は任せろ」


 ニッと快活に………しかし、みなぎる自信を無言で感じさせる力強い声だった。


「あんた………誰だ?」


 隆太は聞いて見る。


 なんとなく相手が分かったけど、それでもやっぱり確認したくなった。


 すると、彼は再びニッとエネルギッシュな笑みを快活に作って言う。


「俺は、前世のお前。斎藤智也さ」


 ああ、やっぱり。


 納得がいってしまった。


 そして、同時にもう一つ納得してしまう事がある。


「あんた見たいなヤツなら、海もノースもゾッコンになるだろうな」


 それだけ、良い男してるよ、アンタは。


 苦笑混じりに胸中で呟いた。


 すると、彼は言う。


「俺はお前だ。安心しとけ、お前も俺と同じになる。その内な」


 彼………智也は、またも快活に笑った。






「…………」


 両腕を組みながら、竜也は無言でその場に立っていた。


 隆太が黄色の薬を強引に押し込んだ直後、実際の世界では隆太が固まっていた。


 完全に目が白目を向いていた。


 一応、立ってはいるが、意識は確実に飛んでいる。


「り、隆太………? ちょっと、大丈夫なの?」


 どう考えても様子のおかしい隆太に、思わずノースも焦りの色を見せた。


 隆太の中で、なにかが変わったのは、この直後の事だった。


「………ほう」


 ピクリと、眉だけ動かす竜也。


「またせたな」


 程なくして、隆太が答える。


 竜也の口許が緩んだ。


「ああ、待ったよ」


 自虐的な笑みを作り、そこで竜也は返事をして見せる。


 この時の彼は、なんとなく気づいてた。


 何かしら、反則的な方法を使って、智也をこの世界に引き摺り出して来る事を。


 そして、彼は敢えて待っていたのだ。


 理由は素朴にして、シンプル。


 たら・ればを相手に与えての勝利に興味がなかっただけ。


 ここで、こうしてい『たら』


 ここで、ああしてい『れば』


 あるいは勝てた。


 ………が、一切ない条件で戦い、それでも勝利する。


 それこそ、今の竜也が望む完全勝利だったのだ。


 ただ勝つだけではダメなのだ。


 そんな勝利など、生涯の中で偶然手にしたマグレに過ぎない。


 それでいて、勝利は格別でなければならない。


 何故なら、これが兄と戦う最後の勝負になるのだから。


「ぼっこぼこにしてやるぜ………糞兄貴ぃぃぃっっっ!」


 今にも憎悪の波動がほとばしりそうな強烈な眼光を放ちながら、彼は周囲にテニスボール程度の玉を出現させる。


 妙にマシン然とした玉は、竜也を中心にしてフワリと宙を泳いでいた。


 数は二つ。


 ほぼ同時に、隆太………否、智也となった彼の周囲にも同じ様な球体が宙に浮き始める。


 数は三つだ。


「………三つだと?」


 驚いたのは竜也だ。


 この、謎の機械チックな玉は、主に持ち主を補佐する役割をもっている。


 今回に限って言えば、戦闘をする上での忠実な味方だ。


 別名、オプションと言う。


 通常、このオプションは持ち主の脳と波長を合わせないといけない為、扱いが非常に難しい。


 常人なら、一つだってまともに扱う事が出来ない代物。


 様々な訓練を経て、一つのオプションを操る事が出来たのなら、それで十分な成果であり、脅威だった。


 その上で行くと、二つ所持している竜也の実力は天才の域に達している。


 だが………世の中、上には上がいる。 

 

 もはや超人的な能力を持つ智也は、常人なら激しい訓練を年単位で行ってようやく一つ会得可能なオプションを、同時に三つも併用する事が可能だったのだ。


「やる気になれば、もう一つ増える………まぁ、必要はないだろうがな」


 小粋に笑う。


 瞳が意図するものは、明らかな余裕だった。


「この………っ!」


 怒りに任せ、竜也が攻撃体制に入る。


 その瞬間、二つのオプションから強烈なレーザーが発射される。


 文字通り光の早さで突き進むレーザー光線は、しかし、智也の眼前で掻き消える。


「やる気あんのか? こんなちっぽけな光線しか出せないんなら、奥の手はいらんぞ」


 言うなり、智也は右手からミキの薬箱を手にする。


 その中にあった青い薬を竜也に見せてから、再び口を開いた。


「これは、俺の身体を一時的に強化する薬らしい。リスクもあるが、追い込まれた時は使うしかない」


 ニッと不敵な笑みを色濃く作る。


「どうやら、いらんな」


「ほざけっ!」


 次の瞬間、


 ドンッ!


 竜也は物凄い勢いで地を蹴る。


 足で地面を蹴っただけなのに、まるで巨大ハンマーで叩いたかの様な音を出す。


 同時に砂煙が周囲に舞い上がった。


 この瞬間、数メートル近くあった間合いが一秒掛からずして数十センチ程度まで縮まる。


 刹那、竜也の両手に自分の身長と大差ない巨大剣が収まった。


「くたばれぇぇぇっ!!!」


 激昂にも似た叫びと同時に、巨大剣を下から上へと振り切る。


 その瞬間、智也の周囲にいた三体のオプションが素早く大剣に反応し、光で出来たシールドを展開する。


 このシールドは、弾丸はおろか戦車の大砲すらビクともしない、驚異的な防御力を保持していた。


 ………筈だった。  

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