【6】
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一方、その頃。
「う~………頭いたいぃ………」
青ざめた顔でしかめ面を見せながらリビングのドアを開ける海がいた。
どうやら、昨日は飲みすぎた模様だ。
酔いすぎて、そのまま四ツ守峠まで暴走したくらいなのだから、考え方によっては予測通りなのかも知れない。
「およ? 海姉。おはよ~」
「ぐ………なんでおまーがここにいる? てか、しれっと爽やかにお姉様をアホ呼ばわりしないでくんない?」
元々苦い顔してた海が、更にしかめ面になった。
「まぁ、こっちもこっちで色々あったわけだし、最初からこっちに来る気でいたわけだし~? そもそも竜也が来てるから、ミキがこっちに来ないわけがないし~」
「ああ、あのバカがこっちに来たのか」
ミキの言葉に、海は軽い口調で返答する。
そこから、きっちり三秒後。
「えええええええーーーっ!」
思いきり驚いた。
「流石は姉。驚く程の一人時間差ボケを自然とかますです」
ミキは少し感心してた。
「だから、当然の様に人の事をアホアホ言うんじゃないよ! もう少し姉に思いやりを持ちなさいよぅ~!」
海は半べそになって喚いてた。
昔からそうなのだが、妹は姉を姉として見ていない傾向にある。
見事にディスってるのが日常なのだが、長女のプリウに対しては逆にリスペクトしてたりするのだから、決して姉達を完全にバカにしているわけでもなかった。
簡素に言うのなら、海をバカにしたいだけだったのである。
なんだかな。
「な、なして竜也のヤツが………」
「いや、お姉。それは前々から予想出来たでしょ~?」
顔を蒼白にし、ワナワナと手を震わせていた海に、ミキはちょっとだけ呆れた目を作っていた。
実際問題、ミキが色々と準備していたのは、竜也がやって来る事を想定していた為。
そして、それらの事情をちゃんと海にも説明していた。
けれど、はじめて聞いたかの様な驚き方なんぞをして見せる。
だからこそ思うのだ。姉と。
ジリリリンッ!
その時、かなり古風な電話の呼び出し音が鳴る。
「? これは?」
「隆太さんのスマホかな?」
今一つ良くわかっていなかったミキを尻目に、テーブルにおかれていた隆太のスマホを軽く手に取る。
どうやら、うっかりテーブルに忘れてしまった見たいだ。
「相手は、香織さんか。なんだろ?」
不思議そうな顔をして、スマホの通話を許可してみせる。
「はい、もしもし?」
『あ、海ちゃん? 今日の鈴木君、どうかした?』
「………?」
今一つ、わからない事を言われた。
刹那、ミキは何かを悟ったかの様な顔になり、即座に海からスマホを奪った。
「あ、すいません~。今日の隆太お兄はちょっと風邪をこじらせてしまったんですよ~。申し訳ないのですが、今日だけ休みを頂いてもよろしいですか~?」
そこから、にこやかに嘘八百を綺麗に並べ立てた。
『……えと、おたくは?』
「はい~。私は鈴木隆太の妹で、鈴木ミキと言います~。兄がいつもお世話になっております~」
少し訝しがる香織がいる中、尚もミキは笑顔で嘘を吐きまくっていた。
演技派女優顔負けである。
あるいは、一流の詐欺師か?
なにはともあれ、常人には出来ない。
『そう、鈴木君のね。しっかりした良い妹さんがいるのね』
「とんでもないです。えと、では、そう言うわけなので、今日の所は失礼させて頂きます」
『はい、わかりました。お大事にね』
「はい!」
………ツーツー
「どうにかなった」
「いや、妹。おかしい会話してなかったか?」
笑顔で頷いた後、軽く息を吐き出してみせるミキを前に、今後は海が怪訝な顔になってみせた。
「ま、あれだよ。姉に説明するより、自分でやった方が早かっただけ」
「またアホって言う!」
海はガーンって顔になった。
「大体、わかるでしょ? こんな事は言われなくてもさ?」
「わかんない」
「わかれアホ! もういい。とりまサーチして、お兄の現在地を見てみる」
ミキは言うなり、両手に精神を集中させる。
それにしても海には手厳しい妹である。
「………なるほど」
しばらくして、ミキが納得加減の声音を吐き出した。
「もう竜也と鉢合わせしてるのか………」
思いの外早かったなぁ………と、ミキは心の中で付け足した。
「!!!」
海の顔がビックリで埋まった。
「あいつは、どこに?」
「麓山公園にいるね。隆太お兄も一緒にいる」
「…………」
海は絶句した。
完全に思考がフリーズしてしまい、愕然とした顔のまま固まっている。
その直後。
「隆太さんは………智也は、絶対に死なせないんだから」
ふつふつとした闘志を口にして、一気に玄関に向かう。
もういやだった。
あんな寂しい思いをするのは。
絶対に無くしたくなかった。
あの温もりを………。
いても立ってもいられなくなった海は、玄関を飛び出し、そのまま全力で近所にある公園、麓山公園へとひた走った。
郡浜の中心市街にある、比較的大きな公園。
市民の憩いの場でもあり、休日になると親子でキャッチボールをしたり、犬の散歩をしに来たり、スマホでポケットなモンスターを捕まえに来る人がいたりする。
ここ最近だと、最後のは少なくなりつつあるが、しかしながら市民に愛されてる公園である事に変わりない。
そんな場所に、隆太とノース………そして、その二人に対峙する形で、竜也の三人がやって来ていた。
「ここならいいか?」
確認する形で竜也が聞いて来る。
周囲の迷惑がなるべく掛からない場所に移動させてくれと言う提案を飲んだ事で、三人の現在がある。
実際問題、殺す気でかかって来る竜也と、普通の市道でバトルなどとなったら、確実に周囲に大きな迷惑が生じてしまう。
場合によっては怪我人やら死人やらが出かねない。
それは、竜也の方も本意ではなかったらしく、隆太の提案を素直に受け止めた。
こうして、近所では一番迷惑が掛からなそうな場所を模索し、行き着いた場所が麓山公園だった。
「もういいだろ? 早くやろうぜ? こっちとしては、さっさと終わらせたい所なんだ」
正確に言うのなら、一秒でも早く智也を叩きのめしたかった。
「そうだな………」
隆太をボコボコにしたくてウズウズしていた竜也を前に、隆太は落ち着き払った頷きを返した。
だが、しかし。
その内心は全くの逆だった。
え? まじでやるの? てか、なんでそんなにやる気なの? 目とか血走ってるし! いや、勘弁して欲しいんですけど!!
頭の中では、闘争心ではなく逃走心で一杯一杯!
正直に今の心境を言うのなら、一秒でも早く遠いどっかに逃げたい気持ちで溢れかえっていた。
もう、完全に恐怖で精神がコントロールされてる言っても過言ではない。
ないが………だ?
「頑張って隆ちゃん………大丈夫、貴方は絶対に死なせないから」
………とか、シリアスしてる銀髪の美少女を前にして逃げるとか出来ない。
やったら、ここ一番の正念場で少女を見捨てた男として、一生モノの重い十字架を背負う羽目になる。それだけは避けたい!




