【5】
なんでこんな事になってしまうんだろうかと、心からのぼやきを言ってしまいたくなる。
だが、言った所で何が変わるわけでもない。
「世の中の理不尽を噛み締める事が出来るな」
「気付かなかったの? 世の中なんて理不尽で世界が成り立っている様な物よ?」
にこやかに言う。
後ろ向きなのか前向きなのか分からない台詞だが、ノースなりの冗談も込めての嘯きなのだろう。
つまり、気が滅入っている隆太を笑わせる事で、少しでも励まそうとした。
「……良い女だな、ノースさんは」
「それも気付くのが遅すぎね」
二人は笑った。
「よし~。データ送信おkです~」
他方、そこでミキは言うと、右手を隆太のおでこに付けてみせた。
瞬間。
隆太の額に小さい光の様な物が生まれ………消えた。
「………今のが武器か?」
「そうです~。とりま今のままだと使えないかもですが、昨日の夜に渡した黄色い薬を飲めば使える様になるです~」
説明する形で言い、そこから得意に笑う。
「装備は、ミキが更に改良させた特注品なのです~。これで竜也だって怖くないのですよ~」
ミキの顔には、確固たる自信が溢れんばかりに作られていた。
「ありがとう」
実際、どういう風にお礼を言うべきかで迷ったが、隆太はともかくお礼だけを軽く口にして、同時に頭も下げて見せた。
どこをどんな風にしたのかは知らないし、聞いても分からない。
だから、専門的な苦労をしっかり口にしての、ちゃんとしたお礼の謝意を口にする事はやっぱり不可能ではある。
しかし、これだけは確実なのだ。
「俺の為に、とっても努力してくれたんだよね」
そう考えると、感謝の気持ちで涙すら出て来る。
「本当………俺なんかの為に。ありがとう」
「そこまで感謝されると、用意した甲斐ありますねぇ~。あはは~」
ミキは気恥ずかしそうに笑った。
そこから、何かを思い付いた様な顔になる。
「ほじゃ~(それじゃ)、一つお願いするです~」
「………? なんだい?」
キョトンとした顔になった隆太を前に、ミキはちょっぴり、ホッペを赤くさせて答えた。
「ミキの頭を撫でてくだしゃ~」
★☆★☆★
「…………」
ずぅっと、むっつりした顔のまま、不機嫌に横を歩く銀髪少女がいた。
「あのぅ………なにかありました?」
隆太はちょっとだけ口許をヒクヒクしながら聞いて見る。
良く分からないが、マンションを出てからずっと、この有り様なのである。
朝食も終え、バイトの日だった隆太は、軽く準備を済ませた後、すぐに自宅を出た。
引っ越した関係上、バイト先のコンビニが遠くなってしまったが、それでも徒歩十分も歩けば辿り着く。
簡素に言えば、そこまで遠くはなかった。
よって、特に車を使う必要もない。
………てか、マイカーは絶賛睡眠中だったので、どのみち起こすのも忍びなかったのだ。
それより何より、今は不機嫌なノースの方が気になって仕方がない。
竜也がこの時代にいる関係もあり、警護を目的として隆太について来ているのは嬉しいのだが………。
「隆太に足りない物がある。平等だ」
「はい?」
いきなりおかしな事を語り出したノースに、思わず隆太は眉を寄せた。
「不平等。不公平。一人だけにするのは良くない」
言うなり、ノースは人差し指で自分の頭を指差した。
つまり――
「私の頭はおかしいです」
「ちがうっ!」
速攻でダメ出しを食らった。
「私の頭はパーです」
ガンッ!
グーで頭を叩かれた。
パーの返事はグーだった。
「幾ら隆ちゃんでも言って良い事と悪い事がある。終いには殴る」
「殴ってから言ってるんですが………」
「もっとストレートに言わないと分からないの? 仕方ない子。じゃあ、言う」
再び、頭を指した。
「撫でなさい」
「………はい?」
真剣な目のノースに、隆太は惚けた顔になってしまう。
「二度も言わせないで」
はにかんだ顔になった。
なんだかんだで恥ずかしいのだろう。
しかしながら、目前で別の女の頭を撫でてる姿を見るはめになったのは面白くない。
何より自分の頭は全然撫でてくれてないのが、もっと気に食わない!
「頭を撫でてくれないなら、竜也に襲われても助けない」
もう、意地になってた感もあった。
「大人げないですね………」
一応、社会人の筈なのになぁ………と、胸中でのみぼやく。
「隆ちゃんに一言だけ教えておく。女子はいつの時代も好きな男には優しくして貰いたいの」
「そう言う物なんですかねぇ………」
「そうだ!」
一秒の間もなく、キッパリと言いきって来た。
しかたないので、頭を撫でてみせる。
「………ん。ふぅ………ああ、隆ちゃんってば、とってもテクニシャン」
誤解を招く台詞を恍惚の笑みで言ってきた。
「バカですか!」
「真剣よっ!」
二人の会話は今日も安定のおかしさを保っていた。
「あのぅ、すいません」
二人の後ろから声がした。
「………っ!」
刹那、ノースの顔が引き締まる。
さっきまであった、変人の様な顔が嘘の様だ。
「はい、なんですか?」
他方の隆太は特に気にも止める事なく、声がした方向へと顔を向けた。
「………?」
なんだろう?
どこかで見た顔がそこにあった。
どこだろう?
思い出せそうで、思い出せない。
ひとしきり、頭を捻らせていた所で、声を掛けて来た人物は言った。
「………ちょうど人探しをしていたのですが、見つけました。偶然って凄いですね」
にぃ………と、背筋が凍る笑みを作り出す。
「離れて!」
ノースが言いはなった瞬間。
バチッ!
何かが飛んで来た。
全く見えなかったが、何か得体の知れない物が隆太の目前で小さく爆発した。
「まさか、ノースがお守りしてるとは………くく。この時代に来てもアンタは女を好き勝手に使っているみたいだな」
「あんたと一緒にしないで」
明らかな敵意の目で――それとは別に、狂った瞳を暴走させる様に光らせて………彼は言う。
直後にノースが睨みつけた。
「………竜也か」
他方、隆太は悟った。
間違いない、こいつだ………と。
「くくく………気付いたね。思ったよりも勘が良くて嬉しいよ。ぶっころしたい位ねぇ………」
男………竜也がここにいたのは、紛れもない偶然だった。
そう。
彼は、自分が持っていた少しの情報を頼りに、この道を歩いていただけ。
この時代の郡浜と言う町にある、コンビニでバイトをしている………これだけしか、彼はわからなかったのだ。
よって、街にあるコンビニを回って、地道に隆太を探していたのだった。
どうやら運命は、とんだ悪戯者だったらしい。
ちょうどコンビニへとバイトをしに行こうとしていた所に、偶然鉢合わせしてしまったのだから。
「さぁ…………はじめようか」
竜也は誰にでも分かる程に嫌悪感を抱かせる笑みを色濃く作り、隠すつもりなど微塵もないのだろう殺意の感情を飛ばしながら、ゆっくりと口を動かして行った。




