【4】
「効果だけを先に言うと、前世に還る薬です~」
「……なぬ?」
流石に驚いた。
「正確には脳内中枢の記憶を半ば強引に引き出す薬なのです~」
「そんなバカな薬があるのか……?」
「記憶ってのは、根本的には色々書き換えられて、残して行く記憶と消してもい記憶に分けられてるのですが、実はちゃんと全部残ってるのです」
愕然となるツイストを前に、ミキは説明口調のまま述べて行く。
「脳の中には、様々な引き出しがあって、この引き出しの手前にあるのが、すぐに記憶として引き出せる部分。逆に奥にしまってるのが、記憶として引き出しにくい………つまり、残らない部分です~」
「今回は、奥の引き出しをこじ開ける、と?」
「ですです! この記憶は魂レベルでも同じで、かつての記憶の一部が、ちゃんと脳のどこかの引き出しに眠っていたりするのです」
「………」
ツイストは無言になってしまった。
未来人である彼ですら、未知の劇薬だった。
「残念ながら、ちゃんと作用するのかまでは、確認する事ができませんでした」
正確に言うのなら、確認のしようがなかった。
モルモットの様な小動物では、前世の記憶が例えあったとしても、ちゃんと甦っているのか分からない。
また、モルモットの方に人間だった過去があったりしたら、それはそれで面倒な事になる。
結果、実験する事はなかった。
「でも、一応、計算上は問題なく前世の記憶が甦る筈です~」
「なんでそんな薬を作る必要があったんだ……」
ツイストは苦い顔になった。
「一つ、これは智也お兄の戦いでもある事。それともう一つ……多分、今の隆太さんでは、三秒もたずにあの世行きだからです~」
「……否定はしないが、それはそれで隆太に失礼な気もするな」
「智也お兄になったら使える装備は、これから渡す予定です~。備えあれば憂いはないのです~」
「……そんな物まで持って来たのか」
話しがついて行けない……などと、思わずツイストは胸中でのみ毒吐いた。
「竜也は甘くないのです~。準備はどんなにしても足りない位なのです!」
ミキは気合いを入れて叫ぶ。
「……ともかく、対抗手段はこれで揃ったと言う事か」
軽く反則的なワードを入れてはいるが、チートレベルの事をしないと対抗出来ない事もまた納得出来たせいか、それ以上の言及をしなかった、
そこで、ツイストはゆっくりと腰を上げる。
「とりあえず、一旦帰る事にする。何か起きたらすぐに連絡をくれ」
役に立つかは分からないがな、と心の中で付け足して。
「はい~。その時は頼りにするです~」
立ち上がり、玄関に向かうツイストに、ミキは笑顔で頷いてみせる。
それが本音なのか、社交辞令なのかは分からないが、頼りにしていると言う一点だけは本音に聞こえる。
変なお嬢ちゃんだ。
ツイストは苦笑しながら、胸中で呟いた。
見た目は小学生程度にしか見えないのに、三姉妹の中では一番しっかりしている。
少なくとも、真ん中より全然しっかりしていた。
まさに、外見で物を判断してはいけない、典型なのかも知れない。
「さて………どうしたものか」
マンションから降りて来たツイストは、夜空を軽く眺めながら言い、軽く息を吐き出した。
相手は特殊部隊の人間ですら殺されかねない程の猛者。
自分がどうにか出来る相手ではない。
しかし、彼は彼なりに今の仕事に誇りを持っていた。
時空を勝手に飛び越える相手を、時空警察が見逃す分けには行かないのだ。
「まぁ、俺は俺が出来る事をするだけだな」
時空を取り締まる時空警察。
彼の仕事に対する態度は、同僚も脱帽してしまう位、立派な物であった。
……と、こんな感じで翌朝を迎える。
回想シーンが長くなってしまったが、ここからようやく本編だ。
まぁ、その………ごめんなさい。
閑話休題。
朝日をバックにベットから起き上がった隆太は、自分で寝ていたベットを軽く見る。
そこには海がやすらかな笑みを作って、すぅすぅ……と寝息を立てていた。
どうやら、しょうこりもなく今日も隆太のベットに潜り込んでいた様子である。
プリウは流石に今日はいなかった。
ワインボトルを口に突っ込んだまま、リビングで伸びていた彼女を自室に運んで寝かせたのだが、恐らくそこからまだ目を覚ましていないと思われる。
他方の海は、途中で目を覚まし、ちゃっかり人のベットに滑り込んで来たわけとなる。
「全く……これじゃ、海のベットを買った意味がないじゃないか」
嘆息気味に言う。
余談だが、数日前にプリウと海のベットを購入していた。
その結果が、これだ。
もしかしたら、新品のまま一度も使用していないかも知れない。
本当、なんの為に買ったのか……呆れて物も言えない。
しかし、だ。
「今日だけは、海と一緒に寝れて良かったかも知れないな」
苦笑混じりの独白。
今日は少しだけ特別だった。
多分……否、確実に来る。
理由もない、根拠もない。
けれど、どこか確信めいた物を不思議と感じていた。
ヤツは……竜也は、最低でも今日中には現れると。
もし、この勘が当たったとすれば、あるいは明日の朝日を浴びる事が出来ないかも知れないのだ。
故に、思う。
人生最後の就寝になってしまうのなら、その時位は可愛い子の隣で寝ても良いのではないか、と。
海と一緒に寝ても良いんじゃないか、と。
「……行くか」
寝息を立てる海を一瞥し、表情を引き締めた隆太は、そのままゆっくりとリビングの中に入って行った。
「おはよう、隆ちゃん」
リビングには先に起きていたのだろうノースがテーブルで朝食を取っていた。
見れば、ミキも既に起きていたらしく、キッチンで朝食の準備をしている。
見た目は小学生なのだが、普通に慣れた手つきで食事を作っていた。
「あ、隆太お兄~。おはよ~です~」
隆太に気付いたミキは、トタトタと小走りで近づき、朝の挨拶をして来る。
「昨日、渡しそびれたのですが、実はもう一つ隆太お兄に渡す物があったのです~」
言うなり、ミキは右手をかざす。
ピポッ!
同時にミキの目前に画面が出現し、
ジ…ジィ……ジジジ…………
ノイズともスパーク音とも言えない小さな音がミキの右手に生まれた。
「………?」
隆太はハテナ顔になる。
はっきりいって、何が起こってるのか分からない。
その答えはノースからやって来た。
「武器よ」
「武器?」
「………そう。亜空間から武器を転送させる為の道具があるのだけど、その道具を、今の隆ちゃんに引き継いでる」
未来人って、実は魔法使いなんじゃないかって思った。
「もはや、ファンタジーだな」
「この時代からすればね。私からすれば、まだ常識の範疇内よ」
こんな物が常識になる百年後の世界。
現代人の隆太には苦笑する事しか出来ない。
「それは相手も同じ。これが常識の世界の住人と、あなたは命の駆け引きを強いられる」
「………」
隆太は無言になった。
改めて言われると、それは脅威以外の何物でもない。




