表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
車でラブコメを書いてみた  作者: まるたん
最終回 智也と隆太と海
23/33

【3】

 とうとう、海が心を完全に閉ざしてしまった時だった。


 妹のミキが、驚きの吉報を海に報じるのだ。


 百年後の未来となる、元来の海がいた時代は、現代と比べるまでもない、様々な物が進歩していた。


 その中の一つに、魂の存在がある。


 人は死ぬと、ほんの少しだけ体重が軽くなるらしい。


 その差は実に数グラム程度で、限りなくゼロに等しい代物ではあるのだが、しかし、ゼロではないらしい。


 では、死の直前に少しだけ軽くなる謎の存在はなにか?


 これがどうやら、霊体その物らしい。


 そしてミキは、類い稀な頭脳の持ち主でもある。


 正確には、スパコンにも負けない、超高性能なコンピューターが搭載されていた。


 能力だけを見ると、既に人間の頭脳すら越えていた、まさに超絶級の代物だ。


 これら、ミキの叡知をフルに活用し、弾き出した彼女の答えは輪廻転生であった。


 死亡し、この世から旅立った智也の魂は、時空を越えて過去に舞い戻り、新たな命の息吹を経て、別人として新しい人生をスタートさせていたのだ。


 ……こうして。


 海のドラマはこの物語のプロローグへと続いて行くのだった。




 場面は戻って。


 場所は、隆太達のマンション。


「……と、言う事で、アホ姉は、この時代にやって来たのです~」


「なるほどねぇ」


 完全に深夜と言える時間に、事の顛末までの経緯を話すミキと、それを聞く竜太の姿があった。


 近くにいたツイストとノースも、聞き手に回っていた。  

 

 海と書いてアホと呼んでいたけど、誰も何も言わなかった。


 きっと、そこはここにいるメンバーにとっての常識なのだろう。


 ………海って一体。


「こちら側から確認する事は出来ないのですが……竜也は、こっちに来てるです~」


「竜也は………あいつは危険過ぎる」


 説明を続けるミキに、ノースが補足する形で隆太に答えた。


「あいつは……竜也は、どうしても兄へのコンプレックスが拭えず、大学卒業までは智也に何度も挑戦を挑んだ……けれど、一度だって勝つ事が出来ず、結局その後は智也から逃げる様に別の道を歩む事になる」


 思い出す様に、口だけを動かして行く。


「でも、いつか復讐をしようと、常に考えてもいた」


 結果、こうなった。


「智也を陥れる為なら手段は選ばない……その為だけに己を鍛える事すら出来る。もう、異常ね。元から智也の弟だけあって、戦闘的な能力と才能は常人より極めて高かった」


 言い、ノースは虚空を見上げる。


 少しだけ悲しみ色の瞳を滲ませていた。


「その努力を、情熱を……違うベクトルで使う事が出来たのなら、あるいは彼は智也をも越える偉人にすらなれた」


 しかし、そうはならなかった。


 どこかで何かが狂ってしまった。


 それが、ノースにとっても悲しかった。


「特殊部隊の隊長をしていた智也は、戦闘能力面でも他の隊員よりもずば抜けて高かったわ……そして、竜也もね」


「………?」


 ここで隆太が不思議そうな顔になる。


「竜也は、部隊の隊員だったのですか?」


「違うわ。けれど、兄が特殊部隊の関係者だと言う事だけ知るの。無駄に対抗心を燃やした竜也は、独自のルートを新しく導き出して、戦闘的な知識や能力を大幅に上昇させて行くの」


 いつか、絶対的な復讐を果たす為に。


 智也の吠え面を拝む為なら、どんな努力だって惜しまなかった竜也。


「可哀想な人なのです~……きっと、何かが違ってたら、もっとこうぅ……ハッピ~な結末があった筈なのです」


 ミキは悲壮感のある声音を向けた。


「………」


 隆太は何も言えなくなった。


 どうしてこうなってしまうのだろう?


 世の中は理不尽との戦いだ。


 やるせない気持ちで一杯になる。


「しかし、困った事になったな」


 直後、思い付いた様にツイストが顎に手を当てる。


「あら、ツイスト。いたの?」


「いましたから! さっきから、ずっといましたから!」


 割りと本気で言ってたノースにツイストは地味に傷付いた。


 大きな身体をしてる割りに、あんまり存在感がないツイスト。これはこれで悲しい現実である。


 そこはさておき。


「相手が狂ってる時点で厄介だと言うのに、その上……実力は特殊部隊の面々かそれ以上だと言うのなら、もう俺程度ではお荷物でしかない」


「……っ!」


 隆太は思わず息を飲んだ。


 大柄にして筋肉質……かつ、ハッタリではない強靭な肉体の持ち主でもあったツイストが、お荷物?


 もし、そうなら……自分はなんだと言うのだろう? アリとかミジンコだろうか?


 何となく心が闇色に染まってしまい、ズーン……と、心まで沈んでしまう隆太がいた所で、ミキが右手を上げてみせる。


「当然、考えなしでここに来た訳ではないのです~」


 そうとミキが答えた直後、彼女の右手に箱の様な物が収まった。


 まもなく、隆太へと差し出す。


「これは?」


「ミキさん特製、隆太さんを色々とアレな感じにする薬です~」


「アレってなんだ!」


 思わず叫んだ。


「大丈夫です~。ちょっと副作用酷いけど、死なないです~」


「いや、もうその時点でダメだよね」


 不安しかなかった。


「どんな効果があるんだ?」


 気になったのか、一応聞いて見る形でツイストは尋ねると、ミキは得意気に語る。


「まず、赤い薬なのです~。これは隆太さんの理性を爆破させちゃう薬です~。例えば、ノースさんの前でこれを飲んだとするです? 半年もせずに産婦人科行きです~」


「スゴいわ! 素敵な薬ね!」


 ノースの瞳に大きなキラキラ星が産まれていた。


「こんな薬、捨ててやるっ!」


「何を言うの隆ちゃん? 明るい家族計画の救世主じゃないの!」


「……他はどんなのがあるんだ?」


 箱から赤い薬だけを取りだし、思いきりゴミ箱にいれようとしていた隆太を必死でノースが止めていた所で、ツイストがミキへと聞いてみる。


「そですねぇ~。次は青いのです。これは肉体強化増し増しの薬です」


「筋肉増強剤と言った所か」


「簡素に言うとそ~なのですが、効果はそこらの市販のとは話しにならないです~。ただ、副作用も半端なくて、三日はまともな生活ができなくなるのです~」


「………危険だな」


「けど、死ぬよりマシなのです」


「……なるほど」


 一応の納得を見せるツイストがいた。


 普通なら、そんな危険な薬など使わせる訳には行かない。そもそも独自精製してる時点で違法ドラッグも甚だしい。


 しかし、それ以上の緊急事態が起こっているのも事実で……背に腹は変えられない。


「飽くまでも、最後の手段として使ってほしいです」


「そうなるんだろうな」


 ツイストは他人事の様に答えた。


 実際飲むのは隆太なのだから、ある意味で他人事だったのかも知れないが。


「最後に、黄色い薬です。これは、多分なのですが~……きっと効くです」


「……曖昧だな」


「仕方ないのです。試しても良いのですが、ちょっと厄介なのです」


「どう厄介なんだ?」


 今一、話しが見えない。


 思わずツイストは眉間に皺を寄せてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ