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車でラブコメを書いてみた  作者: まるたん
最終回 智也と隆太と海
21/33

【1】

 翌朝。


 特に不穏な空気が生まれる事もなく、その日は普遍的な朝を迎えた。


 しかし、脅威は無音のまま近付き、着実に隆太の元へと歩みを寄せようとしていたのだった。


「ふぁ……ぁぁ」


 生欠伸もそこそこ、隆太は自室のベットから起き上がろうとする。


 ……あれから。


「隆太お兄は、元々の前世である智也お兄として、その弟となる竜也に狙われているのです~」


 車のまま眠っていた海をなんとか起こし、然したる問題もなく無事に帰宅した隆太は、新居となるマンションのリビングで、ミキの話しを耳にした。


 ツイストとノースの二人も同席する形で。


「正直、これが未来人でなかったのなら、俺もすぐに答えていたのだが、流石に言えなかったんだ。すまんな」


 リビングにやって来るなり、ツイストは隆太へと頭を下げた。


 彼なりに罪悪感があったのだろう。


「頭を上げて下さい。立場が同じなら、きっと俺も同じ事をしていますし……仕方ない事だと思います」


「……ありがとう」


 ツイストは少し穏やかな顔になる。


 ちょっとだけ、心が軽くなった。そんな気がした。


「智也は……かつて、私の上司でもあった。故に恩がある。可能な限り、助けたかったのだ」


 独白混じりに答えていたのは、ノースだ。


 この物語をしっかり読んで下さった、有り難い方なら分かる人もいるかも知れないが、実は彼女……元々は、特殊な部隊に配属された経歴を持っていたりする。


 防衛省が持つ虎の子部隊とも言える、超精鋭部隊でもあったそこは、元来の彼女が所属している筈の場所。


 しかし、彼女は自分の意思で脱退してしまう。


 何故か?


 当時、彼女は特別な実地訓練を受けていた。


 虎の子部隊だけに、その訓練のレベルも極めて高く、そして凄惨だ。


 一つ間違えると、大事故に繋がる。


 そんな、危険と隣り合わせの訓練を受けた時……悲劇は起きた。


 一瞬の判断ミスだった。


 その一瞬で、周囲は大爆発を起こしてしまう。


 そして。


 この爆発によって、ノースの生涯は幕を閉じる……筈だった。


 しかし、近くにいた当時の隊長……斎藤智也が奇跡的な動きでノースを救い出し、彼女は五体満足で訓練を終えた。


 だが、救いの手を差しのべた当の智也は、この爆発によって致命的なダメージを負い、特殊部隊からの引退を余儀なくされてしまうのだった。


 以後、ノースは、命を救ってくれた恩人であった智也に献身的な行動を取ることになる。


 自分が原因で引退までさせてしまった負い目もあったが故に、ノースは親身になって彼を助けた。


 ……いつか、仄かな恋情を抱く事になるとも知らずに。


 その恋情は、塵も芥も実る物ではない、不毛な物でもある。


 海の存在がそれだ。


 当時、まだまだ開発段階で、販売には至らない物の、既にプロトタイプを二台も製作していた『人となる車』……その一台が、海だった。


 この時点でプリウは完成されており、市販化と大量生産化を検討されていた。


 海は、このプリウを更にコストダウン化させ、より皆の車として親しみを持って貰おうと製作された車でもあった。


 この後、更なる乗り心地と安全面の向上を大幅に改善された、最新のプロトタイプ車がミキとなる。


 基本エネルギーを太陽光に変え、数秒程度光を浴びれば、数千キロは走ると言う、ハチャメチャな低燃費性能を可能にした、夢のスーパーカーだ。


 また、プリウや海にはない、次世代型のコンピューターも搭載されており、これだけでも値打ちがある仕上がりを見せていた。


 プリウ、海、ミキの三人が姉妹なのは、同じ会社の同じ場所から生まれ、その担当者と人間時の媒体となる細胞が全て同じな為、遺伝子的にも限りなく姉妹であった事から、そう呼ばれていたのだった。


 ……話しを戻そう。


 当時の海は、プロトタイプ車として、同プロト・ドライバー役の智也と一緒に生活していたのだ。


 ノースの一件によって、結果的に職を失ってしまった智也だったが、再就職先を見つけようと職安を訪ねていた時、破格の仕事が偶然見つかるのだ。


 それが、プロト・ドライバーの仕事であり、海との出会いでもある。


 かくして、智也は株式会社冨田自動車の契約社員として働く事になって行くのだ。


 その後、なんだかんだあり、プリウやミキまで、智也の専属プロト車になって行くのだが……別の話しになるので割愛。


 ここらの話しは、もし機会があれば話す事にしよう。


 それはさて置き。


 こうして、智也の周囲は自然と賑やかな物になり、色々と他愛ない悶着はあった物の、それなりに楽しい毎日を過ごしていたのだ。


 だが、それを良しとしない者もいた。


 彼の弟である、竜也だ。


 彼は、兄に強いコンプレックスを子供の頃から抱いていた。


 理由は簡単。


 智也は、何をやっても超優等生だったからだ。


 テストを受ければ、必ずトップになる。


 しかも、不動の一位だ。


 竜也にとって、一番の悲劇であったのは、彼が学年違いの兄ではなかったと言う事だ。


 そう。


 彼……竜也は、双子の弟だった。


 結果、彼は常に負け組である事を強いられた。


 テストの成績は万年二位。


 スポーツをすれば、まるで漫画の様に僅差で負ける。


 あたかも、それが神様の作った運命であったかの様に。


 人気面では、智也が圧倒的な支持をクラスメートから受けていた。


 ほんの少しの差なのに、智也だけチヤホヤされる……そんな感じだ。


 何をやっても勝てない。


 必ず、僅差ながら智也に軍配が上がってしまうのである。


 悔しさと劣等感……ひがみと嫉妬は、やがて強烈な憎悪へと昇華して行き、それが殺意に生まれ変わる。


 兄さえいなければ、智也さえいなければ、その立場にいたのは、他でもない自分だったと考える様になって行く。


 ――だが。


 強烈な殺意も虚しく、時間だけが過ぎて行く。


 いざ、智也を殺すにも、自分が犯人だとバレてしまえばおしまいだ。


 当然、簡単に出来る事ではない。


 まして、智也は様々な才能に恵まれている、寵児ちょうじだ。


 天は二物を与えないなど、ざれ言だと思えるばかりの天才だ。


 殺すにしても、簡単には殺されてくれない。


 否、殺す事など不可能に等しい。


 結果、彼はただただ、陽の目を浴び続ける兄の姿を、影から見る事しかできなかったのだ。


 こうして時が流れる。


 学校も卒業し、兄の呪縛も消え、お互いに社会人としての生活を始めた頃、その悲報を耳にした。


 とある事故により、職をなくしたと言う、実に愉快で無様な兄の話しを、だ。


 積年の恨みもあり、竜也は兄を嘲笑うべく、早速行動に出た。


 ……そして。


 新しい悲劇が、幕を開けるのだ。


 最初は、兄を見下しに行くだけだった。


 職を無くし、途方に暮れた兄を見て、うわべだけの哀れみを見せつつ、心からの嘲笑をしてやるつもりだった。


 所がどうだろう?


 不幸と失意のどん底にいた筈の智也は、そこにはいなかった。

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