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車でラブコメを書いてみた  作者: まるたん
四回目・泥酔車とミキ
19/33

【5】

 派手な爆音のまま、夜の四ッ守峠がうっすら見える街道を突き進んで行った。



 ★☆★☆★



 夜の上空を軽快に滑空し続けたノースは、一足先に海の元へと接近していた。


 四ッ守峠に差し掛かる1キロ手前の地点だ。


 この調子で行けば、ギリギリ峠に差し掛かる目前の所で、海を制止する事が出来る。


 思い、彼女は即座に行動に出た。


「止まりなさい」


『……はい?』


「だから、止まれと言っている」


『何で?』


 海の真横までやって来たノースは、そのまま海の速度に合わせ、並走する形で低空飛行しながら声を掛ける。


 まずは、説得から……そう思っての行動なのだろう。


『ただ、家に帰ってるだけなのに、どうして止められないと行けないのです?』


「どうしても止まらないといけない」


 言ってる事が、この時点でおかしい。


 ……いや、違う。


 今の海は、確実に帰宅する気だ。


 但し、それは隆太の待つ鈴木家ではない。


 今の海にとっての自宅、それは―― 


「一つだけ言う。智也はもういない」


『……っ!』


 かつての海がいた場所。


 未来ではあるが、海にとっては過去に当たる、前のオーナー。


「泥酔してるのね……ううん、そうじゃない。あなたは、ただ、現実を受け入れられないだけ」


『違うもんっ!』


 刹那、海が加速した。


「……くっ!」


 ノースは舌打ちする。


 自分でも、今の台詞は間違いだったと少し後悔もした。


 それと言うのも、だ?


「貴方は覚えてる? 智也は、みんなのヒーローだった」


 地形効果がないに等しい空の利を活かし、すぐに追い付いたノースは、再び海へと話しかける。


『そんなの知ってるもん!』


「なら、わかるでしょう?……あの人の車だったのなら。強く今を生きる事の大切さを」


『………』


「現実逃避をする海の姿を、智也は絶対に望んでいない。酒の力であの時の記憶を意図的に吹き飛ばしても、何も事態は変わらない」


『何、言ってるの? 智也は生きてるのに』


 だから、帰るんだ。


 ……心から楽しいと感じた、あの時に。


 完全に精神がおかしくなっていた海。


 それは、単純に泥酔していただけなのか?……それとも?


「聞きなさい。智也は他の誰でもない、あなたを……あなたを庇って、トラックに跳ねられたわ」


『………』


「本来なら、即死級だったと言うのに、それでも辛うじて意識を保っていて………息を引き取る最後まで、あなたの身だけを、案じていた」


 答えたノースの瞳に、一滴の涙が滲んだ。


 実を言うのなら、ノースは海の元オーナーに当たる人物……斎藤智也さいとうともやを知っていた。


 智也とは、ふとした切っ掛けから、ちょっとした知人の間柄になっていた。


 ……本当は、知人で終わりたくなかったのだが、ある日、それは知人のままピリオドを打ってしまう。


 唐突な訃報。 


 当時、彼女は同僚から、その話しを耳にした。


「私は、彼の最期を看取る事が出来なかった……それだけでも、あなたは幸せなのに……どうして? どうして貴方は、そんなに彼を困らせる様な芸当を平気でする事が出来るの?」


 能面な彼女が、普段では考えられない程、感情をあらわにしていた。


『さっきから、本当……縁起でもない事ばっかり言いますねぇ……海さんの智也が、そんなに簡単に死ぬわけがないじゃないですか』


「いい加減にして!」


 激情と共に、ノースは叫んだ。


「智也は死んだの! あなたを庇って! 本当は私は貴方が憎いっ! あなたさえいなければ、智也は……智也はっ!」


 そして、今は隆太を自分のオーナーにしている。


 これもまた、ノースにとって憎さを増加させていた。


『死んでないからっ!』


 キュイィィィンッッ!


 甲高い音と共に、海はフルスロットルで加速する。


 そして、そのままの勢いで四ッ守峠に突入してしまう。


 早速、急カーブ。


 キュッ……コォォォッ!


 元来なら時速四十キロでも危ないカーブを、軽く三桁を越える速度でギリギリ曲がって行く。


 しかし、明らかに無理がある。勢いそのまま突き進み、悲鳴染みたタイヤの甲高い音が辺りに鳴り響いた。


「いい加減、止まりなさい! このまま行けば、いつかカーブを曲がりそこねて、そのまま崖に落ちるわよっ!」


『うっさいな! ほっといてよ!』


「それで放って置けるのなら、とっくにそうしてるの」


 ノースの制止を降りきり、海は再び強烈なカーブを、ほぼ減速せずに進んで行く。


 流石に無理過ぎた。


 プロのドライバーですら、ここはアクセルなど踏まない。


 このまま行けば、間違いなくガードレールに衝突する。


 しかも、海の速度が早すぎて、確実に回り込む事など不可能だ。


 だめだ……間に合わない!


 心の中で呟き、ノースは思わず目を瞑る。 


 刹那。


「……流石、バカ姉。本当に演算無視のルートから来るなんてね」


 声がした。


 声の方角は、海の真ん前。


「――なっ!」


 ノースの目が大きく開く。


 ガードレールの前……まさに、海が突き進もうとしてる直前の所に、一人の少女が……。


「危ないっ!」


 思わずノースが叫ぶ。


 しかし、物理的にどうあがいても、少女の元へと海より先に辿り着く事は出来ない。


 事態は、瞬時に深刻な場面に遭遇した。


 このまま行けば、ガードレールもろとも、一人の少女を巻き込んでしまう!


 悲痛に顔が歪むノースがいた。


 その瞬間。


 バウンッ!


 弾力のある、巨大な壁の様な物が海の眼前に出現した。


 壁と表現したが、実際はとても大きなクッションだった。


 ただ、見た目が余りに大きく、壁にしか見えない。


『はぅぅっ!』


 壁にぶつかった海は、瞬間的に衝撃を吸収され、まもなく止まって見せる。


「……こんな事が」


 予想だにしなかったノースも、少し呆然となりながら、その場に佇んでいる。


 正直、わけが分からない。


 一つ言える事は、ガードレールに衝突するスレスレの所にいた少女が、現代の人間ではないと言う事だろうか?


「一体、誰なの?」


 不思議そうに言う。


 その謎は、まもなく明らかにされた。


「すいませ~ん! 本当、バカな姉が、まぁ~たアホな事してしまったみたいで~」


 明るい口調で、しかし、申し訳ない感情なども言霊に乗せて言う少女がいた。


 ……密かに、ノースは知っていた。


「ミ、ミキちゃん?」


「うん? ああ、えぇと、あなたは警察の人でしたっけ~? なしてこんなトコに?」


「それはこっちの台詞」


 ノースの姿を見て、少女……ミキはキョトとした顔になって言う。


「むしろ、私があなたに尋ねたいわ。どうしてここにいるの?」


 道端でばったり合うのとは訳が違うんだぞ? と、顔で付け足す様な面持ちを見せたノースに、ミキは少し考えた後、こうと口にした。


「そ~ですねぇ。お姉さんは、確か時空警察の方だったから~……まぁ、大体はわかるかもです~」


「そう来るのね」


「はい~! そうなのです~」


 ミキは、間延びした声を陽気に飛ばしていた。


 なんだか、妙に緊張感のない子だった。

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