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車でラブコメを書いてみた  作者: まるたん
四回目・泥酔車とミキ
18/33

【4】

 現在の性能で考えるのなら、ちょっとしたスーパーカーにも匹敵するツイフトは、郡浜の大通りを軽快に爆走して行く。


「あの、これ、速度超過で捕まったりしませんよね?」


「安心しろ。今、この車は周囲からはまともに見えない」


 言うなり、ツイフトは上を指差して見る。


「………?」


「上をみろ」


 ツイストに言われ、隆太はフトントガラス越しから、上空を覗き込んだ。


 すると、二人が乗る車から数メートル上の虚空を、一人の銀髪少女が滑空しているのが分かった。


「……は?」


 普通に空を飛んでいたノースに、隆太は流石にポカンとなってしまう。


 しかし、驚くのはそれだけではなかった。


「警部が、上空からステルス波の様な物を出してる。こっちの時代の物とは違い、光までねじ曲げるから、そもそも物体として捉える事が難しい」


 なんと、現状の暴走をステルス状態にして、ほぼ隠すと言う、目茶苦茶な芸当までしていたのだ。


 未来の人間は、なんでも出来てしまうのだろうか?


「警部は色々特殊だからな」


「特殊なのは、性格だけかと思いました」


 実は違った。


「警部は、元は国防の特殊部隊にいたのだが、どう言う訳か、最近になって俺の管轄する課にやって来た」


「……どうしてです?」


 隆太は頭の上にハテナを作る。


「さぁな……詳しい事は俺もわからない。噂によると、智也と言う男が関係してるらしい」


「智也……?」


 また、その名前だ。


 海と言い、ノースと言い……智也と言う人間は何者なのだろうか?


 そんな事を隆太は考える。


「知っているのか?」


「いえ……ただ、海もその名前を出してたんで、少し気になってました」


「嬢ちゃんが?……何か、関連性があるのかも知れないな」


 ツイストは軽く顎に手を当てる。


 良く分からないが、何かを考える時、ついやってしまう彼なりの癖なのかも知れない。


「嬢ちゃんと言えば、少しおかしな所がある」


「……と、言いますと?」


「さっきから、予測地点に大きな誤差が生じてるんだ」


 ツイストは左手でフロントガラスを指した。


 その瞬間、これまでフロントガラスだった場所の一部分が、液晶画面になる。


 運転を考慮してか、フロント中央の一番下に、5インチ程度の小さな液晶画面が出来た。


「有機ELですか……地味に未来っぽいのを搭載させてるんですね」


「一応、実売された製品もこの時代にはあるからな――それより、これを見てくれ」


 ツイストに促され、視線を画面に向けると、郡浜の地図と思われる物が浮かんでいる。


 これは、さっきのノースが見せてくれた物と大差ない。


 正確に言えば、地図その物は同じだった。


 しかし、表示されていた点線状の矢印だけ、先程とはやや違う場所を指していたのだった。


「理由は分からない。しかし、明らかに目標地点のルートとは別の方向に向かっているんだ」


「……う~ん」


 不思議そうなツイストがいるなか、隆太は唸り声を上げて考える。


 何故、目的地のルートを逸脱する行動を取っているのか?


 泥酔してしまっている為、ルートを誤ってしまったのだろうか?


 ……否、違う。


「海は、天性の方向音痴だから、自分でも無意識に間違ったルートを進んでいるのでは……?」


「車なのに、方向音痴なのか?」


 歌を忘れたカナリアなのか?……と、ツイストは顔で語る。


「はい、そうです」


 隆太は速攻で頷く。


「元来なら、運転者にナビをしないと行けない立場だと言うのにか?」


「それが、海クオリティーなのです」


 どんなクオリティーだと言うのか?


「取り合えず、極度の泥酔状態で、方向感覚が麻痺していると言う事にして置こう」


 ツイストは呆れ半分で言う。


 隆太に答えたと言うよりは、自分に言い聞かせる感じにも見えた。


「しかし、これで状況がまた変わるんだ」


「どう変わるんです?」


「矢印を見ろ」


 言われるまま、隆太は矢印を見た。


 矢印は、目的のルートから反れはした物の……最終的には同じ場所に向かっている様に見えた。


 だが、しかし。


 ルートが変更された事で、違うルートを通っての峠越えになっている。


 そして……。


「これは、四ッ守峠よつもりとうげですか?」


「そうだ。つまり……急カーブや断崖絶壁がもれなく嬢ちゃんに待ってるわけだ」 


 意識がはっきりしてる場合でも危険なコースなのに、この上泥酔していると言うだから、始末に置けない。


「……バカなのか、あいつ」


 いや、バカ『なのか』はいらない。


 バカなのだ。


「場合によっては、崖から転落して大炎上コースもありだ。全く……このまま未来に帰られても困るってのに」


 ツイストは舌打ち混じりだ。


「そう言えば、気になってたのですが――例えば、海が未来に戻ったとして、帰って来る事は出来ないのですか?」


 隆太はふと思う。


 現代とは違い、時空の法律があって、その警察もいる世界なのだ。


 仮に戻ったとしても、こちらに帰って来れないと言う道理はおかしい。


「あっちはあっちで、問題があってな……秘匿事項があるから全部は言えないが、このまま嬢ちゃんが未来に戻ったと仮定すれば……戻って来る事はない」


「………」


 隆太は無言になる。


 思わず言葉に詰まった。


 どうしてそうなるのか? それは全くの不明。


 未来に関係する秘匿事項の為、隆太に答える事が出来ない。


「俺が言える事は、このままだと、嬢ちゃんは永遠にこの時代に戻る事が出来ない、未来への片道切符を所得してしまうと言う事だ」


 だが、しかし。


「それ以前に、事故って大破する危険性まで出て来た……何から何まで、一々面倒なトラブルばかりを引き押してくれる」


 ツイストは苦々しい顔になる。


 他方、隆太は苦笑してた。


 呆れ半分ではあったが、どこかやんわりとした笑みだ。


「ま、海ですから」


 特に問題にならない筈の場面でもトラブルを起こす、天下のトラブルメーカーだったが故に、隆太も多少の耐性がついてしまった様だ。


 ピピッ!


 そこで、機械音がする。


 同時に、これまで地図だった画面が切り替わり、ノースの顔がアップで映し出される。


 どうやら、通信機能もあるらしい。


『目標を肉眼で確認した……直ちに捕獲する』


 ノースがそうと答えた辺りで、隆太達にも、海らしき車影がある事が分かった。


 距離にして、およそ五百メートル程度先だろうか?……夜になり、視界が悪くなったせいか、その辺が少し曖昧だ。


「了解! こちらは、地上からターゲットの接近を試みる」


『……了解。但し、貴方は未来のダーリンを乗せている。絶対に無理はしない事と誓いなさい』


 淡白な声音で……しかし、妙に感情のこもった口調のノース。


 隆太は取り合えず、苦笑いだけを返していた。


 特に未来のダーリンになるつもりもないが、ここで余計な事を言ってヘソを曲げられて困るのも事実だ。


「よし、加速するぞ! ちゃんと捕まっておけよ!」


 ウォンッ!


 ウォォォォッッッ!!


 激しい重低音が、街道全体にこだまする。 

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