【3】
「ツイストさん」
「なんだ?」
「いたんですね」
「いたよ! さっきから、ずっとこの部屋にいたよ!」
ツイストはちょっと傷付いた。
「ったく……酔い過ぎだ。次は戦い方だけではなく、飲み方も教えてやる」
嘆息混じりにツイストは言う。
余談だが、命の危険が迫っているという事もあり、ツイストから軽い護身術等を習っていたのだった。
そんなツイストのグラスに注がれていたのは、烏龍茶。
これは別に彼がゲコだからと言うわけではない。
単純に、真を送る目的から、敢えてハンドルキーパーをしていたのだ。
飲酒運転はしないのである。
この辺りの関係もあり、ツイストは完全にシラフの状態だった。
……が、だ?
他は見事に全滅。
プリウは最初から海に何かされて、ワインボトルを口に突っ込んだまま寝ていたし、海も海で今はケタケタ笑っている。
辛うじて意識があった物の、いつ寝こけてもおかしくない状態だった。
視点を変えると、テーブルに仲良く突っ伏す女の子二人がいる。
ノースと真だ。
年齢不詳のノースは良いとして、まだ十八歳の真まで酔い潰れていた。
尚、このお話はフィクションである。実際の世界では二十歳にならないとお酒は飲めません……と、注意書きはして置こう。
余談もそこそこに。
龍虎の戦いを演じ始めた二人は、いきなり何を思ったのか、飲み比べ対決をはじめてしまったのだ。
その結果がこれである。
ノースと真の負けられない、女の意地の張り合いは、仲良くダブルノックアウトと言う形で決着が着いたのだった。
「もう、完全にお開きにしても大丈夫そうだな」
この光景を見て、ツイストは顎に手を当てて答えた。
そんな時だった。
「う~……眠い~」
目をしょぼしょぼさせた海は、目を擦りながら言うと、そのままノソノソと歩き始める。
ああ、寝室にでも行くのかなと、その時の隆太は軽く考えてた。
その考えが砂糖水より甘いと分かったのは、そこから数十秒後だった。
「………? 海?」
ノソノソと向かったのは、何故か玄関。
しかも、靴もはかずに家から外へと出て行ってしまった。
「……えぇと?」
何が起きているのだろう?
ふと、そんな事を考える。
「追いかけた方が良いんじゃないのか?」
「……え?」
「いや、さっきの嬢ちゃん……確実におかしかったし」
確かにおかしい。
根拠もある。完全に泥酔していたのだから。
そんな海が、一人、外に出て行ってしまった……と、言う事は?
「……まさか、な」
隆太の額から、嫌な汗が出た。
直後、隆太も外に飛び出す。
少し遅れて、ツイストもやって来た。
「急ごう。今の嬢ちゃんは危険だ」
「はい!」
素早く玄関を出て、そこからマンション通路を疾走する。
そのまま全力で階段を駆け降り、直ぐ様、マンションの外に出た。
――刹那。
キュイィィィン!
モーター音と共に、一台の車がマンションから走り去ろうとしていた。
尋常ではない速度だった。
「遅かったか……」
ツイストは苦虫を噛む顔になった。
「この場合、飲酒運転になるのでしょうか?」
程なくして、隆太が素朴な疑問を口にした。
「飲酒運転にはならんよ。そもそも、運転者がいないんだからな」
車その物が飲酒している。
当然、こんな滑稽な法律など、現時点では制定されていない。
「……とはいえ、厄介な事になった」
一歩遅れてやって来た二人は、完全に海を見失っていた。
「……大丈夫。私がいる」
程なくして、思わぬ角度からノースの声が二人の耳へと転がって来る。
「……? ノースさん?」
「警部……身体は大丈夫ですか?」
酔い潰れていた筈の彼女を見て、二人は少し不安気に声を掛けた。
二人の視線を結果的に浴びていたノースは、しかし足取りこそおぼつかない物の……その意識はしっかりしていたらしく、
「問題ないわ」
ポツリと、いつもの能面な表情で二人へと返答した。
まもなく、彼女は右手を掲げる。
「サーチ………」
ポソ………と、ノースが述べると、
ウォンッ!
彼女の周囲にいくつかの画面の様なものが出現する。
画面の内容は様々だ。
近くの風景を映し出す映像であったり、地図だったり……はたまた、なんらかのコンピューター言語らしき文字が、超高速で並べられては消えたりしている。
「捜索開始……ヒット」
ノースが答えると、画面は二つに絞られる。
その一つの画面に、海と思われる車が、想像以上の早さで快走しているのが映し出された。
「行動予測、及び予測されるルートを演算……」
ノースが答えると、画面は一つになる。
出て来た物は地図だ。
地図は、郡浜を始点として、以後点線状の矢印を描く。
恐らく、この点線が海の行動予測地点なのだろう。
「……っ!」
ツイストは目を大きく見開いた。
いや、ノースもまた、動揺の色を隠せない。
「どうしたんです?」
「………この地点。覚えていない?」
画面を指差してノースは言った。
「………? えぇと、ここは……」
凝視する形で隆太は地図を見た。
最終予測地点。
そこは――
「鹿苗代?」
隆太の眉がよじれた。
ノースはコクリと頷く。
「そう、鹿苗代」
「まずいな……あそこには、まだ、時空転移ポイントが残っていた筈だ」
神妙な顔のツイストは、まもなく身体を動かす。
「行くぞ、隆太! このままだと、海の嬢ちゃん……未来に帰っちまう」
「――なっ!」
余りに衝撃的だった。
海が………未来……に?
切なさが胸を圧迫した。
不思議でもある……別に、海とはそこまでの付き合いでも何でもない。
ほんの数日……精々、十日程度の付き合いだ。
なのに、どうして?
どうして………心がこんなにも悲鳴を上げるんだろう?
「なにしてる! サッサとしろ!」
怒号が飛んで来た。
どうやら、自分でも無意識の内に、ほうけていた模様だ。
「はいっ!」
隆太はハッとなり、表情を瞬時に引き締めて、ツイストの後を追いかけた。
「………」
他方、その一部始終を見るノース。
相変わらず能面だったが、その瞳には、なんらかの強い熱情を感じた。
そして、彼女は言った。
「残念だけど……私も、智也を諦める事は出来ない。仕事は遂行するけど、それ以上の手助けは出来ない……したくないから」
★☆★☆★
すっかり陽が暮れ、月が空の中心になりつつあった郡浜の道を、一台の車が激走する。
ツイストの愛車である、スズモト・ツイフトだ。
コンパクトカーでありながら、走る為に生まれた直菅ターボの優れ物。
更に色々と改造しているらしく、従来のツイフトにはない物が多数存在している。
例えば、ギアはマニュアル。
しかも六速だ。
状況に合わせ、物凄い勢いでシフトチェンジしている。
ウォォォォンッ!
吠える直菅ターボは、明らかに標準仕様とは別の重低音を奏でていた。
しかし、これは未来車仕様ではなかったのだろう。
「ツ、ツイストさん! す、少し運転が荒くないですか!?」
その加速も揺れもダイレクトで乗り手にやって来る。
完全に未来の車だったプリウ辺りと乗り心地を比べると、どうしても差を感じてしまった。
しかし、ここは仕方ない。
百年近い差があるのだから。




