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車でラブコメを書いてみた  作者: まるたん
四回目・泥酔車とミキ
16/33

【2】

 幸いにして、恋のライバルとなる海は、乾杯すると同時に、姉と何やらギャーギャーやっていた。


 隆太が二十歳のお祝いと言う事で、彼のコップの中にはお酒が入ってあったのだが、これに便乗する形で海もテーブルにあったシャンパンをコップに注いでいたのだ。


 それに気付いたプリウが、お酒は二十歳になってからだとばかりに取り上げ、海が怒って取り返そうと暴れる。


 ……と、まぁ。


 そんなこんなで、プリウと姉妹喧嘩と洒落込んだ事で、海のマークが完全に外れた。


 早くもチャンス到来。


 このチャンスを物にすべく、真はいつになく気合いを入れて隆太へと、己の恋愛感情をぶつけようとした。


 そこに思わぬ伏兵がいた事にも気付かずに。


「お誕生日、おめでとう。隆ちゃん」


 感情の欠片すら感じないけど、きっと本人は心からの祝辞を述べているのだろう、銀髪サイドテールの少女・ノースがそれだ。


 謎のプロポーズの一件以来、密かに呼び方まで変わっていた。


「あ、ありがとうございます」


「今日で二十歳なのね。これで大人……大人と言えば、子種と未来を考える年齢だと思う」


「そ、そうかも……ですね」


 ああ、また始まったよ。


 口元をヒクヒクさせつつ、胸中でぼやく。

 

 そこから、隆太のグラスにお酒を注ぎ足して見せる。


 存外、行ける口なのか? 既に半分程度が無くなっていた。


 いや、正確に言うと違う。


「はは……実はまだ、酒の飲み方と言うか、ペースが分からなくて」


 苦笑しながら、隆太は答えた。


 実際にお酒初心者でもあった隆太には、お酒の嗜み方と言う物はややハードルが高かった。


「安心して。貴方がお酒で酔ってしまったのなら、私は全力で貴方を介抱するから」


「そ……そうですか」


 相変わらず感受性はない物の、ほんのり温もりのある笑みを作るノースに、隆太は少しだけドキっとなる。


 なんだかんだで可愛いのだ。


「そして、三ヶ月で父親になる」 


 この、おかしな性格さえなかったら、もっと良かったのになぁ……と、心の中で涙して。


「取り合えず、酔い潰れない様に頑張ります」


「せ、先輩っ!」


 ここで、ようやく真が隆太に声を描けた。


 本当はもっと早くアプローチを掛けるつもりだったのだが、予期せぬ伏兵がいた事に驚いて、しばらく放心してしまったのだ。


「だ、大丈夫です。あたしはちゃんと本当に介抱しますから」


 そこまで言うと、ちょっとだけ顔を赤くした。


「その……こないだは、助けて貰ったわけですし……」


「そ、そうだな」


 特に大した事をしていた訳でもなかったのだが、真からすれば隆太に抱き止められていた時点で事件に値した。


 故に、もじもじとした態度なんかを取ってしまう。


 他方、隆太も恥じらう真に触発されてか、似た様な感じで顔を赤くしながら、誤魔化し半分の笑顔を作っていた。


「そう。ここにもいたのね」


 直後、ノースが二人の間に割って入る。


「うぉっ!」


「わっ!」


 隣の席同士で、距離も1メートルもなかった二人の合間に、前触れなくにょっきり現れたノースに、思わず二人は後ろに下がった。


「い、いきなり何するんですか!」


 驚き眼で隆太が叫び、


「ここにもいたんですよ」


 真が逆に屹然と言い返すと言う中、ノースは少しだけ感情を顔に出してみせた。


 不敵な笑みだった。


「バカな子。きっと……胸にしか栄養が行ってないのね」


「なっ!」


 鼻で笑いつつ、溜め息まで吐いたノースに、真はカチンッと来る。


 存外、短気だ。


「ふ、ふ~んだ……そう言う貴方は、胸なんかないに等しいじゃないですか!」


 悔し紛れに答えた。


「………っ!」


 だが、意外と有効だった。


 結構ショックだったらしく、目線を下にする。


 ノースの胸はとても平だった。


 比喩として例えるのなら、真の胸が富士山だったとすると、ノースの胸は関東平野だった。


 見事に峠一つなかった。


「……ふ、ふふふ……それは、言ってはならない、禁忌タブーの言葉」


「胸の話しを先に振って置いて、何を言うんですか」


 平静を装っているけど、本気で悔しそうな顔で、涙を滲ませていたノースに、しかし真は強腰の姿勢を崩さない。


 真は思った。


 多少強引でも良い。


 もう迷わない。


 だって、これは……戦いなのだから。    


「……ほう」


 ポソリと、何かを悟ったノース。


 瞬間、雰囲気が変わった。


 突然、得も言わせぬ驚異的な重圧が、真を襲った。


「つい最近までお尻に蒙古斑があった小娘ごときが……この私に勝負を挑もうとしているのね」


 他方の真も負けていない。


「最近じゃないです!――と、いいますか? 最近と言う言葉を使う辺り、ノースさんは何歳なのです? 実は結構な年齢だったりしてませんよね?」


 二人は、近くにいた隆太が唖然となってしまう程の気迫で対峙すると、そのまま尋常ではないオーラの様な物まで身に纏う。


 見れば、ノースの背後には強靭かつ屈強な巨大虎が浮かんでいた。


 一方の真の背後には、今にも天高く舞い上がりそうな、強大な龍の姿が浮かんでいる。


 今、まさに……二人の女性が、一つの愛を求め、苛烈な龍虎の戦いを演じ様としていたのだった。


「………」


 隆太、無言。


 口はぽっかり。顔はぽかーん。


 見事なおいてけぼりを食らった。


「……うーん」


 どうしたものかと、頭を悩ませていると、海が隆太の元へとやって来る。


「あひゃひゃ~っ! ともやぁ~」


 しかし、完全に酔っていた。


 どうやら、姉の制止を振り切り、一杯やってしまった模様だ。


 見れば、部屋の片隅で、プリウが完全に酔い潰れていた。


 何故か、口にワイン瓶が突っ込まれていた。


「……何がおきた?」


 良くわからないが、面倒な出来事が起こってる気がしたので、敢えて考えるのをやめた。


 それよりも、今は海だ。


 しっかりちゃっかり酔っぱらってしまった海は、もう泥酔も良いレベルにまで到達し、ベロベロになりながら、隆太に抱きつくと、そのまま彼の胸元に自分の頬をスリスリして来る。


 もはや、猫だった。


「と~もや……ぐす。会いたかった。会いたかったよぅ……」


 そこからいきなり泣き崩れる。


 もう、完全にダメだなって、隆太は苦笑いする。


 そして、思う。


「ともやって誰だ?」


 なんだろう……もやっとする。


 海にだって、それ相応の過去はある。


 当然、隆太の知らない過去もあるのだろう。


 だけど……けど。


「………」


 心の中に生まれた、モヤの様な物。


 それが、無意識に感じた嫉妬である事に気付くのは、もう少し先の話しだった。




 ★☆★☆★



 パーティ開始から一時間。


 宴もたけなわな状態になり、一同の酔いも段々と回り始めた。


 かく言う、隆太も飲み慣れていないお酒に、少しクラクラして来た。


「そろそろ、水に切り替えた方がいいかもな」


 言い、水が入ったコップをテーブルに置いたのは、筋肉質な身体がお馴染みになりつつある男――ツイストだった。

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