【1】
一瞬だった。
ドンッッッ!
鈍く、しかし激しい衝撃音。
その瞬間、視界が真っ赤になった。
それが自分の血による物だと気付くのに、そう時間は掛からなかった。
不思議と痛みはなかった。
ただ、意識だけが、虚空の向こう側へと、ゆっくり進んで行く事だけは分かる。
ああ、だめだ。
誰に言われたわけでもないが、それだけは分かった。
段々と遠のいて行く意識。
もう、留めて置く事の出来ない、この世界への精神。
そして、視界。
この世界で見た最後の姿は、水色の髪をした彼女の泣き顔だった。
泣かないで欲しい。
切に願った。
誰よりも君を愛した自分だから、泣いて欲しくない。
笑っていて欲しい。
笑顔の君を見るのが、何よりの幸せだから。
だから、せめて。
笑って君とさよならを言いたい。
大丈夫。自分がいなくても、弟の竜也が……
………………
………
…
「うぉうっ!」
思わず大声を上げてしまう。
何だ今のは………?
いたずらに心臓が加速した。
「どうしたんですか? 隆太さん?」
答えたのは、隣にいた海の声だ。
同時にぼやけ気味だった視界が一気に広がる。
視界に広がるのは、運送用のトラック。その車内だ。
どうやら、自分でも無意識の内に寝こけていたらしい。
「……疲れてるのかな」
誰に言うわけでもなく独りごちた。
「そうですね。ここの所、たくさんありましたし、今日も今日で、引っ越しの疲れも出て来てるのかもです」
独白にも似た声に、海がにっこりと笑顔で返事して見せる。
とっても朗らかで、明るく、こっちまで元気になりそうな笑顔だった。
思わず、隆太も笑みを作ってしまう。
そこから、自然と彼女の頭に手をのせて、そっと撫でて見せた。
「……う?」
海は少しだけ驚いた。
「良くわからないですが、なんか、今日の隆太さんはスゴく優しいです」
また、笑顔を作った。
そこから、海は素直に隆太に甘える形で頭を撫でられ続ける。
「………夢を見たんだ」
「……夢?」
特に言う必要はないと思ったけど、何故か海だけには言っておきたいと、この時の隆太は理由もなく思えた。
「夢の中は、すごい未来で。なんか、色々と発展してて……けど、そこにいるのが普通だと思えて」
「………」
独白する隆太に海は真顔になる。
直後、なにかを口にしようとするが、やめた。
未来の存在である彼女には、もしかしたら分かる事なのかも知れない。
しかし、海の口が動く事は、とうとうなかった。
「そこに、俺みたいなのがいて、車に跳ねられて……死ぬんだ」
「っ!」
息を飲む海。
身体が少し震えた。
「……? どうした海?」
「な、なんでもないです」
海はうつむき、以後、目的地に到着するまで再び口を開く事はなかった。
★☆★☆★
数日後、一気に住人が増えてしまった鈴木家ならびにノースの面々は、これまでのアパートを引き払い、近所にある3LDKのマンションへと引っ越す事になった。
話しによると、隆太の危険性が現在、かなり高まっているとの事。
これは、前回のラストにあるツイストの台詞にもある通り。
このまま行くと、隆太が死ぬ未来へと『変化』して行くと言うもの。
ここを少しだけ説明すると、元来の未来の通りであるのなら、隆太が死ぬ未来はなかった。
正確に言うのなら、早々遠くない未来に隆太が死ぬと言う未来は、本当ならなかったと言う事になる。
だが、海やプリウ――そして、ツイストやノースと出会い、未来の人間と遭遇してしまった事で、その未来が大きく変革されてしまったと言うのだ。
はっきり言って、隆太からすればこれ程の迷惑もない。
一体、これからどうなってしまうのだろう?
半ば途方に暮れる形で考える。
反面、どうにかなるさと、楽観的に構える自分もいた。
どうしてそうなるのかは、当然ながら当の本人である隆太ですら謎だ。
言うほどの根拠もなく、なんとかなると思っているのだから。
それは、恐らく、現時点では何の危害も加えられていないからと言う事実と、未来人達による保護があると言う、この二点にあるのかも知れない。
そう。
まず、一点目となる部分。
特に然したる脅威が眼前に起きている訳ではないと言う事。
未来の人間が言ってるのだから、確かに脅威がやって来るのかも知れないのだが、実際に起こっていない為、現実味がない。
後だしジャンケンも甚だしい限りで、始まってすらいないのに、結果を先に告知されている。本当に未来の人間の言う事は厄介だ。
次に二点目。
未来人が隆太を全力で保護する。
これは、まさに今の隆太が引っ越しを余儀なくされた理由にも直結する。
あれから、プリウが押し掛ける形で同居宣言をした後、何故かノースまでその宣言に混ざっていたのだ。
話しによると、ノースが隆太達と暮らす理由が二つあるらしい。
一つは先程の、保護する件。
つまり、ノースが直接隆太の自宅に住み着く事で、彼の保護をしようと言う物。
そして、二つ目が、プロポーズを本気にした為。
この辺は、前回のお話を復唱する形になるので割愛。
正確に言うとプロポーズでもなんでもないのだが……これにより、ノースは隆太の自称奥さんとして、周囲の反感を思いきり買う事になるのだった。
かくして、新しい場所に転居した隆太達のドラマが始まろうとしていた。
★☆★☆★
「かんぱ~い!」
活気の良い声を一斉に放つ面々。
新しく転居したマンションのリビングでの事だ。
その日、一通り引っ越しの作業を終えた面々は、手伝ってくれたツイストと後輩の真を含めた六人で軽い打ち上げ等をしていた。
正確に言うと――
「隆太さん、お誕生日おめでとう!」
――と、お日様笑顔で祝い文句を口にしていた海の言葉通り。
全くの偶然なのだが、この日、隆太の誕生日が重なったのである。
隆太は二十歳を迎えた。
二十歳と言えば、お酒を飲む事が可能になる年齢でもある。
外国は違うが、国内の法律ではそうだ。
そこらの関係もあってか? テーブルにはシャンパンやワイン、ビール等も置かれてある。
成人式はまだ終わってないが、一足先に成人になったお祝いを兼ねたパーティーに変わった。
「先輩もこれで大人の仲間入りですね」
乾杯が終わり、間もなく真が隆太へと答える。
さりげなく席も隣だ。
前回の海のあざとさをまざまざと見せつけられた真は、なりふり構わない作戦に出た。
図太く貪欲に隆太のハートを奪いに行ってやる!
真の意志は無駄に強かった。




