【4】
これだけでも驚きだったのだが、元々そこまで大きくもないセミダブルのベットに、三人が強引な形で寝ていたので、完全に密着してた。
「………」
隆太は絶句する。
もう、色々と衝撃的だ。
なんだか感覚がない状態になっている両腕は、見事に海とプリウの枕になっている。
つまり、自分でも知らない内に腕枕をしていたのだ。
更に密着していた二人の四肢が、隆太の身体に感触と言う形でダイレクトに全身へとやって来る。
ああ、女の子って……こんなに柔らかいんだなと、地味に隆太の理性を攻撃して来た。
隆太、朝もはよから、特大のピンチだ!
このまま行けば、隆太の理性が危険で危ない!
特に意識するつもりがなくても、無駄にやって来る二人の感触、体温……香り。
むにっとした感触はいたずらに蠱惑的で、身体全体が暖かくなるまでの人肌には、脳がおかしくなる。
香りに至っては、もはや未知の領域だった。
海の長い髪からやって来る、仄かなシャンプーの香りに、プリウの身体全体からやって来る甘い香り……もう、どうしろと言うんだ! とか、叫びたくなる。
当然、五感を刺激された先に、股間も刺激……おっと、流石にここらは自主規制した方が良さそうだ。
閑話休題。
今までの人生で、これ程の精神的なピンチを体験した事はあったか? と、隆太は自分に問いかけた。
答えは一秒もいらない。
ないに決まってる!
そもそも、海がここに来るまで、まともに女性と付き合った事だってない隆太だけに、その精神的ダメージは計り知れなかった。
ど……どうする、俺?
海の寝息すら桃色の吐息に感じて来た隆太。
いよいよ、彼の脳ミソは末期だ!
このまま、心の中に潜む欲望に負け、本能に忠実な選択肢を取ってしまうのか?
まさに、隆太の理性が風前の灯火になっていた時だった。
「私はここで、どんな台詞を述べるのが正しいかで悩む」
やたら、無機質な声が隆太の耳に転がって来た。
「……え?」
ポカンとなる。
気付くとそこに、銀髪の少女がいた。
昨晩、筋肉質の男から警部と言われていたサイドテールの少女・ノースだ。
「なんでここに?」
「私にはこれがある」
言うなり、ノースは瞳をキュピーンと輝かせ、得意気に右手を隆太に見せた。
彼女が握っていたのは、一本の針金。
「れっつ、ぴっきんぐ」
「犯罪でしょーが!」
あんたそれでも警官か! とかって本気で思った。
「ああ、そうか。わかった」
「今度はなんですか?」
「これが正しい台詞『ゆうべはお楽しみでしたね』だ」
「正しくないよっっっ!」
本当になにしに来たんだと、声を大にして言ってやりたくなった。
「それより、少し助けてくれませんか? さっきから、二人とも起きなくて」
現在の隆太はプリウと海に両方から抱き締められ、二人の抱き枕状態になっていた。
とりあえず、振りほどこうと思ったのだが、海にしてもプリウにしてもやたら力が強くて振りほどけない。
頑張れば海はなんとかなりそうだったのだが、プリウは根本的な能力が違うのか? 本気で力を込めてもビクともしなかった。
「これじゃ、まともに立つ事も出来ませんよ……」
「仕方ない。昨日の疲労が溜まっている」
「まぁ、昨日は大変でしたからねぇ」
隆太は苦笑しながら言う。
「昨日、ベットで燃える様な激しい愛情表現があったのだろう。故に疲労が爆発的に溜まっていると分析出来る」
「その分析、間違ってるからっ!」
なんだろう? この人ってこんなキャラなのかと、思わず内心でのみぼやいた。
「もう、バカな事いってないで、せめて助けて下さいよ」
「バカ? バカな事は言っていない。私は常に真剣だ」
「なおさら悪いわ!」
てか、もう、面倒だから帰って欲しかった。
「助けてやっても構わない」
言うなり、彼女は隆太へ向けて右手を差し出した。
「千円貸してくれたら助ける」
「本当にアンタは警部なのかよ!」
「私は昨晩、ここに来た。よってこの時代の通貨を持ち合わせていないのだ」
なので貸して欲しいらしい。
「ちゃんと、後で返す」
「まぁ、そこは疑ってませんが……何に使うのです? もし、食べる物がないのであれば、そこの冷蔵庫から適当なのを食べてもいいですよ?」
「好意に感謝したい。そしてありがたく頂いた」
見れば、さりげなく口元に食べかすが付いていた。
「もう食ってんのかいっ!」
もう嫌だこの人って、わりと本気で思った。
「じゃあ、何に使う気なのです?」
「大した事ではない。私はただ、ジャン○が欲しいだけ」
「本当に大した使い道じゃなかった!」
「私の時代のジャン○は定価980円だったから、千円借りようとした」
「百年後のジャン○高すぎだろ!」
「今のはボケてない。それでもツッコめるあなたは、天性のツッコミ名人。この調子で私の下腹部にも突っ込みを……」
「あのぅ……いい加減、助けてくれませんかねぇ」
話しをするのも億劫な心境になる。
「う……ん、ふぁ……ぅふ」
その辺で海が自然と意識を覚醒させて行く。
「残念、ジャン○が買えなくなった」
無表情なので分かりにくいが、残念そうな顔をしてた。
他方、プリウも目を覚ます。
「……おあよ」
本人は『おはよ』と言ったつもりだったのだろうが、実際は寝ぼけて舌足らずになってた。
「お早う、プリウさんに海。そして、ぼちぼち離れてくれないか?」
挨拶もそこそこに、隆太が言うと、まもなく海は欠伸半分に離れる。
そこから、ノソノソと洗面台に向かった。
一方、プリウは離れない。
むすぅっとした顔になる。
「海は呼び捨てなのに、なんで私だけ、プリウさんなのさ?」
隆太はこめかみに指を当てた。
「どう見ても年上ですし……」
「だから敬語も使う、と? なんだろうな、そう言うのは嫌いなんだ。普通にタメ語で良いし、名前もプリウで良い。嫌だと言うなら、そこの交番行って、迫真の演技で『この人変態なんです!』って叫ぶぞ!」
なんか、同じ事を海にも言われた記憶がある。
そう言えば、プリウは海の事を妹と呼称していた。
つまり、この二人は色々な意味で似た者姉妹なのだろう。本当に勘弁して欲しい。
「分かった、わかりましたよ、プリウさ……プリウ」
「……っ! わ、わかれば良いんだ」
プリウは少しだけ頬を赤らめた。
自分で言わせたのに、いざ言われると照れるみたいだ。
「ともかく、これならいいだろう? じゃあ、暑苦しいから離れてくれ」
本当は理性が赤信号を出してたからなのだが、当然そんな事は言えなかった。
「分かったよ……ったく、そんなに邪険にしなくても良いだろう……私はあんたの事が……」
プリウはここまで言うと。
ぽん!
……と、顔から湯気が出た。
同時に顔が瞬間沸騰して、スゴい真っ赤になる。
どうやら、見かけの大人びた外見とは裏腹に、かなりの純情らしい。
「あ、あはは……じゃ、私は顔洗って来る」
逃げる様に洗面台に向かった。




