【1】
夕暮れから、少しずつ夜へと変化しようとしていた、郡浜の町並み。
地方だけに、通勤退勤に車を使う人間は多い。
よって。
「……あの、交通渋滞に捕まってるんですけど」
隆太達が乗っていた車は、勢い良く飛び出してすぐに、ノロノロ運転状態になってしまう。
本当なら、カーアクション張りに激走とかするのかと思われたが、実際は違った。
もう、前回の最後の緊張感を返してとか、隆太は思ってた。
『し、仕方ないだろ……まさか、私だってこんな事になるとは思わなかったし、それは相手も同じだし、取り合えず大丈夫だ!』
車になってた謎のお姉さんは、地味にアセアセしながら言っていた。
「ところで、今……どこに向かってるんです?」
『さぁな……』
「さぁな……って、そんな無責任な」
『あたしにも分からないのさ。ただ、確実に言える事だけはある。アイツは時空転移のポイントに向かってる』
「時空転移?」
なにそれ美味しいのって顔になった。
お姉さんの言ってる事は、イチイチ分かりにくい。
『そうだな。渋滞になってるし。そこまで急ぐ必要もない見たいだから、手短に説明してやるよ』
「よろしくです」
『私や海は未来人だ』
「ええええ!」
叫んだのは真だ。
余談だが、運転席の部分に隆太が、助手席に真が乗っていた。
運転席と述べたが、ハンドルも無ければシフトもなく、アクセルもブレーキもないから、運転席と呼称するのも多少の語弊があるかも知れないが。
「どう言う事……?」
明らかに困惑する真がいた。
他方、隆太の方は特に驚く事もなくお姉さんの話に耳を傾けている。
隆太からすれば、むしろ、お姉さんの言葉に納得だった。
そもそも、女の子が車になるなど、いくら考えてもおかしいのだ。
少なからず、この世界にあるこの時代で可能なテクノロジーであるとは思えない。
なら、未来から来たと言われてる方が、まだ納得もする。どの道、突飛でもない事に変わりはないが。
『正確な差は分からないが、およそ百年は過去にタイムワープしてるのが私――そして、海さ』
「な……ほ、本当に訳が分からないです!」
「ごめん、まこちゃん。少しだけ静かにしていてくれないか?」
完全に混乱していたろう真に、隆太は宥める様に答えた。
「……わかりました」
少し、何か言い掛けたが、真は隆太へと頷いてみせる。
一見すると、平静な面持ちであった隆太だが、違ったからだ。
普段は、のほほんとしてるだけの隆太だが、今は根本的に変わっていた。
無意識に、真の口がキュッとしまる。
……悔しさが滲み出た。
もし、さらわれたのが、あの子じゃなくてあたしだったら、先輩はこんな顔をしてくれるのか?
あくまでも仮定の中でしか考える事が出来ないが、思う。
そこまでしてくれるなんて……思えない、と。
「説明を続けてもらってもいいですか?」
『以上だ』
「終わりかいっっっ!!」
直後、ふざけた会話が展開してたけど、沈んでしまった真は、敢えてその会話に混ざる事はなかった。
「もっと他にあるでしょ! 海がここにいる理由とか、俺の所にいる理由とか、そう言うのが!」
『海はあんたが好きだった――以上だ』
「だから、短か過ぎるってば!」
なんとも、言葉足らずなお姉さんの説明に、隆太の焦燥感だけが大きく膨れ上がって行った。
『すまないね。私は未来の存在だから、今のアンタにはその程度の情報しか提供してあげられないのさ』
言い得て妙だが、説得力はあった。
もし、車のお姉さんが未来の存在だとして、同時に海もそうだとするのなら、確かに秘匿しなければならない物が多く存在する。
いや、多く存在する所の話ではない。
ここにいる筈がない存在がいる。
この時点で、もうあってはならない事になる。
そんな事をすれば、だ?
「未来が、かわる?」
『察しがいいね。つまり、そう言う事さ』
けど、出会ってしまった。
「もう、未来が変わっているんじゃ?」
『多少の変化はあったと思う。けど、今はそれでいいんだ……いや、そうならないと行けないんだよ』
「? それは、どういう?」
『………』
お姉さんは無言になる。
何か思考を張り巡らしている、そんな雰囲気のある沈黙が少しだけ車内を覆った。
しばらくして。
『……矛盾してる時間が、正しい歴史になってるとしたら、どうなると思う?』
「………?」
言っている意味がわからない。
『……いいや。やっぱり私には秘密を作るのは性に合わない。特にお前にはな』
お姉さんはどこか吹っ切れた様な感じだった。
当然、隆太にはお姉さんの心境の変化がどうして起こったのかなど、知るよしもない。
しかし、現状の変化を聞く必要もなく、まして教えてくれるかも分からない為、敢えてその状況をスルーする事にした。
『まず、順を追って話そう――普通は、過去があって現在があり、未来に繋がる』
言うまでもない、時間の摂理だ。
『けど、これが未来から現在に繋がって、その先に再び未来へと進む事が出きる世界があったら、どうなると思う?』
「今みたいな、おかしな事になる」
『そう。当たり前だけど、これはあってはならない。必然的にそれを取り締まる機関が生まれる』
それが、さっきの体格の良い男となるのだろう。
勝手に未来から過去にやって来て、いたずらに過去を改編してしまう存在だった海を捕まえに来たわけとなる。
『海は時空犯罪者になるわけだ』
「話がついていけないな……」
普通に学校へ行って、バイトしてるだけの平凡な学生でしかない隆太にとって、もはや突拍子のない事ばかりだ。
『……と、本当ならこうなるんだ』
「違うのか?」
『正確には、アイツ……海はアホ……じゃなくて、犯罪者になりかけた』
「大丈夫ですお姉さん、海はアホです」
隆太は力一杯、賛同した。
ここに海がいたら激怒しそうだった。
『ところが、あいつはアホではあっても、犯罪者にならずに済んだんだよ』
ヒュイィィィンッッッ!
刹那、速度が一気に加速した。
彼女も造りが海と同じなのか? エンジン音はなく、パソコンの様な電子音ともモーター音とも表現出きる甲高い音を吐き出す。
一気にGが隆太の身体に掛かる……と思いきや、存外、車内は安定していた。
『私の時代では、もう旧式ではあるけど、この時代からすれば、私はまだまだハイテクノロジーの車だからね。まだ急加速するけど、あんたらに迷惑は掛けないよ』
そこから、車状態のお姉さんは一気に超加速して、周囲の車を物凄い勢いで抜き去って行く。
さっきまであった渋滞も、街の郊外までやって来た事で、少しずつ緩和されていた。
時速のメーターは見る間に上がり、三桁を越えていた。
「うっきゃぁぁぁぁっ!」
真が瞳から涙を流して叫ぶ。
車内の空間そのものは特に揺れる事もなく、快適その物だが、フロントガラスから見える、現況ばかりは変え様がない。
車と車の間にある少しの隙間を縫う様にして突き進む、その一部始終は全て目に入ってしまう。
もはや、ちょっとしたジェットコースターだ。




