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祟り神(前編)






──下界にて──



千尋は暇をもてあましていた。


「はぁ~、暇だなー。晴明様は仕事で来れないし、信治も愛香も選も用事があって来ないし……。マーロと橘はいちゃいちゃタイムだしなー」


「「ちげーよ!!」」


実は今の今まで千尋と話をしていたマーロと橘からつっこみが入る。


「いちゃいちゃしてていいよ? 私はBL小説でも書くからさー」


「は? 読む、じゃなくてか?」


「うん。マーロと橘のBL小説を──」


「「やめろ」」


「もー、ハモるほど仲良しなんだからー」


千尋はにこにことしながら、次の瞬間爆弾発言をした。


「あ、私、閻魔大王食べようかな」


その瞬間、その場に流れていた和気藹々とした空気が固まった。


沈黙がその場を支配するが、橘は聞き間違いだろうと口を開く。


「は? た、食べるって、お前なに言ってんだ。閻魔大王様は食べ物じゃないぞ」


「え? 何言ってるの。れっきとした食べ物だよ」


橘は混乱した。


(閻魔大王を食べる? 閻魔大王っていう食べ物があるのか? 千尋はたまにどでかい天然を発揮することがある。きっと今回もそうだろう)


そう思い直し、橘は理性を取り戻した。


「なぁ、その閻魔大王ってのは──」


どんな食べ物なんだ? と問いかけようとした橘の言葉は、マーロの叫び声によってかき消された。


「千尋ぉぉぉ! なに言ってんの!? 閻魔大王様は千尋に食べられるために存在するんじゃない、生意気な美○年によって食べられるために存在してるんだよぉぉ!」


「は?」


「え?」


「いいか千尋、閻魔大王様は何人かいらっしゃる。サクトさんやにゃんじろう、幸太郎さんとかも閻魔大王様だ。そして閻魔大王様に共通することとして、『優しい・お強い・美しい』という三つの要素……略して『YOU(ユー)』がある。そんなYOU達を食べられるなんて、生意気な美○年しかいないだろぉー!」


「「……」」


橘と千尋は沈黙した。


橘はどん引きし、虫けらを見るかのような冷めた目でマーロを見ていた。


対する千尋は、目をきらきら……そう、まるで恋する乙女のようなきらきらした目でマーロがいるであろう場所を見ている。


それに気づいた橘は、これから始まるであろうマーロと千尋の熱い熱いBL談義に、どう対処しようかと頭を悩ませるのであった。







──とある日、霊界にて──





夜の霊界はとにかく静かだ。


虫のいない、野生の動物もいない、人間しかいない世界。


霊界の人間は、下界の人間と違って夜はあまり活動しない。


それは、夜の時間帯……俗に言う丑三つ時は悪霊や怨霊達が活発に活動する時間だからだ。


悪霊や怨霊達は、日中は陽の気によってあまり活動できない。


その変わり、夜は陰の気になるため、俗にいう物の怪達が活動しやすくなる。


霊界の中でも子供など力の弱い霊体の者は、物の怪に遭遇してしまうと取り込まれてしまうことがある。


そのため、霊界では夜に活動をあまりしないのだ。



そんな静かな、生き物の気配がまったくしない、一本の桜の木の下に、ひとつの『影』があった。


その『影』は、暗闇の中に溶け込むように微動だにしない。


ふと、雲の切れ目から月明かりが差した。


月明かりに照らされた『影』は、肩で切りそろえられた黒髪に白い肌、細すぎない体躯に藍色の着物を着ていた。姿形こそ人だが──血のような紅い目をしていた。


紅い目をしたその『影』は、うっすらと目を細めると、一言つぶやく。


「……俺は、何故ここにいる……」


その『影』は──記憶をなくした、良魔の長であった。







その一報が晴明の耳に飛び込んできたのは、四月一日。




慌てたように晴明達の仕事部屋の戸を開けたのは、サクトであった。


「晴明、大変だ!」


「なんだサクト、なにが大変なのだ」


「良魔達が、『俺達の長をどこへやった』と怒りの形相で屋敷に詰めかけてる!」


「なんだと? 良魔の長とは、時雨(しぐれ)のことであろう? 行方が分からぬのか?」


「ああ。なんでも、晴明の屋敷に行くと言って出たきり、三日も戻らないらしい。はじめは泊まっていけとでも言われて帰ってこないんだろうと気にしてなかったらしいが、さすがに長が何の連絡もなく三日も姿をみせないなんておかしい、となったそうだ。そして、最後に行き先を告げた場所が晴明の屋敷だったことから、良魔達が詰めかけてるってことだ」


「ふむ……。たしかに三日前、我は時雨に会っておる。それは春の収穫祭においての良魔達の仕事について打ち合わせをするためだ。しかし、夜の七時には帰ったはずだが」


そのとき、晴明に秋から念話が届いた。


(晴明様、何者かが時雨殿をさらったやもしれません。久しく嗅いでいなかった邪気の匂いが致します)


(む。邪気の匂いだと? それはありえぬのだが……)


「……よい、我は一旦此処を離れる。良魔達は閻魔大王であるお主が落ち着くよう取りはからうのだ。良いな、サクト」


「承知致した」


晴明はなにかがあった時のための出入り口から屋敷を抜け出し、(しゅう)(しゅん)と合流する。


「ふむ。邪気の匂い……か」


「匂いを辿ろうと致しましたが、途中でかき消えています」


「むしろ、匂いを残している時点で晴明様をおびき出そうとしているような気が致します」


秋と春がそれぞれ言うと、晴明は目を瞑る。


「……物の怪の仕業ではないな。あやつらは理性などない。巧妙に罠を仕掛けはせぬ。とすると、おそらくは我に疑いをかけるために動く者。それは──」


晴明が最後にとある人物の名を挙げると、秋と春は驚愕の表情を浮かべる。


「しかし晴明様、あやつはもう過去に晴明様に封印された奴です。封印するときに徐々に力をなくすよう術をかけたはず。今頃封印を解くことなどできません」


「私も同感です。しかし、晴明様がおっしゃるのです。今一度、あやつの封印された場所を確認致しましょう」


「良い。……杞憂であれば良いのだが」


晴明は己が提示した可能性に眉根を寄せながら、秋と春と共にその場をあとにした。







──???にて──




時は遡り、三月二十九日。


とある男が大きな岩の上にいた。


その男は頬がこけ、目も窪み、ぼろぼろの灰色の着物を着ている。


今にも倒れそうな程やせ細っているが、その目はぎらぎらと危ない光を輝かせていた。


「ふふふふふ……。やっと出てこれた。己を封印するなど、あやつはまっこと厄介な男よの……。さて、どうしてくれよう。手足を引き裂き、目をくりぬき、舌を引っこ抜くか……。楽しみよ、楽しみよ」


男がにたにたと気味の悪い笑みを浮かべていると、男の頭の中に声が響いた。


(油断するな、勝手な行動は許さぬ。まずは我が身を拘束から解き放つのだ)


「わかっている、わかっている……。さて、お主はどこにおるのだ?」


(我が身は閻魔界の奥深くにて拘束されておる。閻魔はそれほどでもないが、閻魔大王はなかなかに手強いぞ。先に言ったとおり、誰も殺すでない。殺してしまったら犯人を探してしまうであろう。そうなってはいけぬのだ。さて、お主はここまで来られるであろうか)


「ふふふふふ……。あやつに復讐できるのならばなんでも良いわ。そうなぁ、まずはあやつをおびき出さねばならぬ。さて、良い生け贄がおると良いのだが……」


そのとき、男はあることを閃いた。


「おお、そうだ。あやつには今奥方がおるのだったか? そやつを攫っておびき出せば良いではないか」


(それはできぬ。奥方は実体の身、攫えぬ)


「なに? 実体だと? それは好都合。攫うのが無理なら存在を隠してしまえば良いことよ」


(どういうことだ?)


「ふふふふふ……。己をなめるでない。まぁ己に任せるのだ」


男はそう言うと、髪の毛を一本抜き、形代にはさみこむ。


そして何事かをつぶやこうとした……その時。


「動くな」


男の背後に、いつの間にか紅い目の男が立っていた。


そして小刀を男の首筋にぴたりと当てている。


「何をぶつぶつ気味の悪いことをつぶやいている。お前、なにをするつもりだ」


紅い目の男──良魔の長である時雨は、殺気を放ちながら問いかける。


「おお、こわいこわい。だが、これも一興。作戦を変更させてもらおう」


「なにを──」


次の瞬間、男は自分の首に小刀が沈むのも気にせず背後を振り向くと、今し方髪の毛をはさんだ形代を時雨の頭に触れさせた。


「なっ──」


「姿隠しの術」


男がそうつぶやいた瞬間、時雨の存在がかき消えた。……実際には存在するのだが、姿形が消え、気配すらなくなった。


「ふむ、久方ぶりにしては上々よ。さて、次はお主にも協力してもらうぞ」


(なにをすればよい)


「今し方存在を消した紅い目の男。こやつの頭の記憶を消すのだ」


(ふむ。よい。そのためには早くここから出せ)


「まったく、せっかちな男よの……。今行くから待っておれ」


男はそう言うと、その場からかき消えた。




時雨は焦った。


「どういうことだ? あの男に急に触れられなくなった。何故だ。……まぁいい、閻魔大王に報告だ」


そうつぶやくと、時雨は閻魔界へ瞬間移動しようとした──のだが、自分の周囲に見えない壁があり、できなかった。


「ちっ、結界か? とりあえず念話……。応答がないな。どうなっている」


時雨は焦るが、周囲の結界はびくともせず、念話も使えない。誰かが通りかかるのを待つしかない状況に、苛立ちを覚える。


「せめて念話が使えたらな……」


しかしその後三日間、またあの男が目の前に現れるまで、時雨はその場から動くことができなかった。




三日後の朝。



時雨の前にあの男が姿を現した。


「ふむ、術は問題なく発動しておる。己の力はまだ強い」


男はにたにたと笑みを浮かべる。


そこに、時雨は見覚えのある人間が隣に並ぶのを見た。


「お前は──」


言いかけた瞬間、時雨の意識はなくなった。


「これで良いのか?」


「ふふふふふ……、上出来だなぁ。あとは記憶のないこいつを解放すれば、あやつへとかかった疑いは強固となり、勝手に身を滅ぼしてくれるであろう。ふふふふふ……」


男は不気味に笑うと、天を仰ぐ。


「お主は、己に勝つことができるか?」


そう呟き、男はかき消えた。












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