旅行
ゴールデンウィーク真っ只中。晴明、未来の千尋、信治、愛香、選は日光東照宮へ旅行に来ていた。愛座右衛門はあっきーの家でお留守番である。
「晴明様、あれが有名な三猿ですよ」
「ふむ。三匹の猿がそれぞれ目、口、耳を隠しておるな。何か意味があるのか?」
「はい。見ざる、言わざる、聞かざる。子供のときは、世の中の悪いことを見たり、聞いたり、言ったりしないで、素直なまま育ちなさい、というような事を表しているようですよ」
「ふむ。誠、真理を突いたものだな。信治、愛香、選。お主らも子供ができたら、三猿のように育てるのだぞ」
「うん、わかったよ父さん。それにしても見事な装飾だね。職人さんの魂が込められているよ」
「そうだなぁ。信治も建築家をやるからにはこれらのように魂を込めて創るのだぞ」
「うん」
「母様、人がいっぱいね。ゴールデンウィークだからかしら?」
「そうだねー、ここは有名だから、特に混むんだろうねー。じゃあ、進もうか」
「ええ」
千尋達はゆっくりと見て回り、キラキラと輝く陽明門の前で写真を撮りつつ進んだ。
「あら? 母様、あの方達は何かしら?」
「お? うわぁ、結婚式だね! 花嫁さん、きれーい。あそこの祈祷殿でやるんだね。たしか雅楽の生演奏をするはずだよ。聴いてみようか」
「ええ」
「ふむ、我も千尋から貰った横笛を吹いて祝福するのだ。選も吹くか?」
「僕はいいや。聴いてるよ」
「そうか。では始まるのを待とう」
それからしばらくして、祈祷殿から笙や龍笛、篳篥の演奏が聴こえてきた。
晴明はその音色に合わせ、流暢に横笛を奏でていく。
しばし演奏に聴き入った千尋達は、演奏が終わると拍手を送った。
「とっても雅な音色だったねー! 晴明様も、とてもお上手でした。晴明様は音楽の才能もおありなのですね!」
「何、造作もないことだ。我は平安時代に生きておったからなぁ。どれ、進むのだ」
その後眠り猫を見たり、本地堂で龍の鳴き声に聞こえるという龍の絵の真下で拍子を打った時の音を聞いたり、日光東照宮を満喫した安倍一家。
「うーん、楽しかったねー。さて、今日は霊界の宿屋に泊まるよー!」
「良い良い。そこには温泉もあるしな、それにご飯がとても美味いのだ。楽しみだなぁ」
「そうですねー」
安倍一家は霊界の趣のある宿に移動した。
「愛香ー、一緒に温泉に入らない?」
「入るわ、母様」
「信治にぃ、僕達も温泉入ろうよ」
「良いよ。入ろうか」
「我も入るのだ」
「じゃあ、また後でお会いしましょう、晴明様」
「うむ、良い良い」
千尋と愛香は女湯に、晴明と信治と選は男湯にそれぞれ向かった。
女湯にて。
「おー、私達以外いないね。わー、濁り湯だー。気持ち良さそうだねー、愛香」
「そうね。早く身体洗いましょ、母様」
「うん!」
「ほっほ。見事なボンッキュッボンじゃのう。眼福じゃわい」
「! すごいデジャヴ!? 愛香、タオルで身体隠して!」
「え? 何故? 母様」
「いいから早く!」
素早く身体をタオルで隠した千尋は、声がした方に勢いよく顔を向ける。
「貴方様は、水の神様!! 何故女湯にいるのです!?」
「ほっほ。ほ? ここは男湯ではないのかの?」
「違いますよ! 早く出て行ってくださいね!」
「ほっほ。良いわい。ではの〜」
水の神様はゆっくりと女湯を出て行った。
「あー、ビックリした。愛香、もう大丈夫だよ」
「母様、何が起きたの?」
「うん、ちょっとね。まぁ、大丈夫だよ。ごめんね。さぁ、身体を洗おう!」
「ええ」
そんなハプニングがありながらも、千尋達は温泉に入るのだった。
温泉後。
「千尋、さっぱりしたか?」
「はい、さっぱりしました! お肌ツルツルです」
「良い。では夕食の時間だ。席に着くが良い」
「はーい。おお、もういくつか用意されてますね。この前菜は……なんだろう?」
「そちらは左からとうもろこしのお豆腐、生麩、たけのこの鰹節和えでございます」
「へー、そうなんですか。美味しそう……って、いつの間に中居さんが!?」
「ほほほ、今の間にでございます。お料理の説明をしてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。お願いします」
「では、右手にありますお皿の上、左にあるのが生桜海老、右にあるのが生しらすです。最初は何もつけずに召し上がり、その後生桜海老はわさび醤油で、生しらすは生姜醤油でお召し上がりください。そして手前にあります器が菜の花の甘味噌和え、左奥にありますのがお寿司でございます。頃合いを見計らって順次お料理を持ってまいりますので、まずはテーブルにありますお料理をお楽しみ下さいませ」
「はい、ありがとうございます。じゃあみんな、頂こうか」
『いただきまーす』
「もぐもぐ。ん、とうもろこしのお豆腐、ほのかに甘くて美味しい〜」
「生麩ももっちりして美味しいよ」
「たけのこも柔らかくて美味いね」
「生桜海老、甘いのだ」
「この生しらす、臭みが全然無くて美味しいわ」
その後テーブルに並べられたものが無くなった頃、中居さんが新しい料理を持ってきた。
「こちら、カレイの唐揚げ甘酢あんかけでございます。両端のヒレを食べてから中央の身を剥がすと食べやすいです」
「ありがとうございます。わー、大きなカレイ。カリカリに揚がってる〜。ヒレから……パクッ。もぐもぐ……。うーん、サクサクで美味しい〜! 甘酢あんも少し辛くて良い味!」
「ふむ。これは美味であるな」
「小骨には注意が必要だけど、美味しいね」
カレイの唐揚げ甘酢あんかけを食べ終わると、天ぷら(抹茶塩添え)、湯葉のあんかけ、茶碗蒸しと続き、最後にコーヒーゼリーが出てきた。
「うーん、このコーヒーゼリー甘さが絶妙で、上に乗ってるコーヒームースと相まって美味しい〜。今までで一番美味しいなー」
「母さん、今度料理の先生からコーヒーゼリーの作り方教わってくれない? 僕家でもこんな美味しいコーヒーゼリー食べたい」
「良いよ〜、習ってくるね!」
「良い良い。うむ、お腹が満たされて幸せなのだ。我、眠くなってきたのだ〜」
「では晴明様は先に寝てください」
「嫌なのだ、千尋も一緒に寝るのだぞ〜」
「私はまだ眠くないですから。ほら、布団に横になって」
「む〜」
晴明は布団にゴロリと横になる。そしてトロンとした目で掛け布団をかけてくる千尋を見つめると、千尋の手を引っ張って抱きしめた。
「きゃっ。せ、晴明様? 離してください!」
「む〜。千尋も一緒に寝るのだ〜」
「私も後で隣に寝ますから。ほら、離してください〜」
「あ、母さん! 父さんビール飲んでるよ!」
「ええ!? いつの間に!? ま、まずい、信治、晴明様を引き剥がして〜!」
「ああ! ほら父さん、離れるんだ!」
信治は千尋の腰に回る晴明の腕を全力で引っ張るが、ビクともしない。
「嫌なのだ、何故剥がそうとするのだ? 我は千尋を離しとうないのだぞ〜」
「くっ、ダメだ母さん、離れない! 選、何か良い霊符ないか!?」
「えーとえーと、あ、これだ! 父さん、えい!」
選は一枚の霊符を取り出すと、晴明の額に張り付ける。
「む……」
晴明は霊符を張り付けられた瞬間、コテンと意識を失った。
「選、それどんな霊符なの?」
「一瞬で寝る霊符、だよ、愛香ねぇ」
「母さん、父さん寝たみたいだよ」
「うーん、それが全然力緩んでないんだよ!」
「「「ええー!」」」
こうして、安倍一家は楽しい時間を過ごすのだった。




