過去編4
生霊が剥がれてから一週間。
千尋は悩んでいた。
(……どうやって縁結びの神様と話したらいいんだ……)
元々生霊を介して守護霊様や縁結びの神様と会話していた千尋は、通訳がいなくなった事によって会話が出来なくなりどうしたら良いか悩んでいた。
(……。りょうたろうさんは霊界にもパソコンがあるって言っていた。だけど縁結びの神様古風な感じするしパソコンとか携帯とかできるのかな? いや、まてよ。そもそもりょうたろうさんは誰から私の事を聞いたんだろう。まさか縁結びの神様から……? って事はりょうたろうさんに聞いてみれば縁結びの神様と会話できるかわかるかも)
暫し考えた千尋はパソコンを取り出しWordを立ち上げる。
(どうか来てください、りょうたろうさん!)
待つ事数分。
「!」
『こんにちは。りょうたろうです。何してるんですか?』
(き、きたーー!)
『こんにちは、りょうたろうさん。実はりょうたろうさんを待っていました。今大丈夫ですか?』
『え、僕を? 大丈夫ですよ。何ですか?』
『私には縁結びの神様がついて下さっているのですが、生霊がいなくなって会話が出来ず困っているのです。りょうたろうさんは私について下さっている縁結びの神様とお知り合いではありませんか?』
『縁結びの神様ですか、残念ながら僕は知り合いではありませんが……良かったら僕が通訳しましょうか?』
『え、良いんですか⁉︎ ではお忙しくない時にお願い致します。ちなみに今は縁結びの神様はいらっしゃるんですか?』
『いえ、いませんよ。来たら教えますね』
『ありがとうございます!』
(良かったー、これで縁結びの神様と会話が出来る……。りょうたろうさん良い人だなぁ)
『千尋さん、千尋さんは今おいくつなんですか?』
『私は今23歳ですよ』
『そうですか、彼氏はいるんですか?』
『残念ながらいません……』
『そうなんですか。では僕なんてどうです?』
(えっ……ナンパ⁉︎)
『あはは、私には勿体ないですよ』
『そうですか……勿体なくなんてないのに』
『あはは』
『りょうたろう。何を話してるんだ?』
『あっ幸太郎。いえ、何でもないですよ』
『……画面丸見えなんだよ。ナンパすんな』
『いいじゃないですか。幸太郎には関係ないでしょう?』
『……関係ある』
『え、えーと……。幸太郎様、お久しぶりです。どうされたんですか?』
『……お前、もっとパソコン開け。会話したい』
『あ、はい。分かりました』
『千尋さんはお忙しいんですよ、幸太郎』
『……。おい、千尋。生霊はその後来ないか?』
『はい、今の所。幸太郎様のおかげです。ありがとうございます』
『……様付けはしなくていい』
『えっ。で、では幸太郎さんで……』
『ああ。お前、声は聞こえないのか?』
『ええ。生憎……。ですからパソコンや携帯でしか会話する方法がないんです』
『そうか。……千尋、お前に会わせたい人がいる。会わせていいか』
『会わせたい人、ですか? 良いですけれど……』
『少し待っていろ』
『はい』
(会わせたい人って誰だろう。うーん……?)
『……連れて来た』
『はじめまして、千尋さん。てつやと言います。……本当に姉さんそっくりだ』
『はじめまして……。姉さん?』
『はい。僕の姉さんと千尋さん、そっくりなんですよ。驚いちゃいました』
『そうなんですか……。それは不思議な事もあるものですね』
『うん。姉さんは24年前に行方不明になっちゃったんですけど……千尋さん、もしかして姉さんの生まれ変わりなんじゃ?』
『えっ! そ、それは違うんじゃ……。顔なんて遺伝だし、世界には3人似てる人がいるっていうし……多分他人の空似ですよ』
『そう……かなぁ。でも、こうして出会えたのって運命だと思うんです。何か縁があるんじゃないかって……』
『確かに運命的ではありますよね。そういえばりょうたろうさん、私の事を誰から聞いたのですか?』
『僕は風の噂に聞いただけだよ。それより千尋さん、縁結びの神様来たよ』
『あ、ありがとうございます! りょうたろうさんが通訳して下さる事になったとお伝え頂けますか?』
『うん。……私は機器に弱いから良かった、って言っているよ。生霊はついていないようだな、ではまた来る。だって』
『ありがとうございます、ではまた、とお伝え頂けますか?』
『うん。伝えたよ。ねぇ、千尋さん。千尋さんは23歳だよね? てつや君のお姉さん……まいっていうんだけど、行方不明になったのが24年前。これって偶然とは思えないんだけど……』
『もう一度聞く。何故オレを置いて行った? まい……』
(えっ、えぇぇぇ! し、知らないよー‼︎ 幸太郎さん、私がまいさんだって決めつけてるし! にしても確かに偶然。え……私ってもしかして本当にまいさんの生まれ変わりなんじゃ……?)
『う、うーん……。私がもしまいさんの生まれ変わりだったとしても、覚えてないのでなんとも言えないのですが……。幸太郎さんとはどういう関係だったんですか?』
『オレ達は……恋人関係だった。なのにお前は……突然いなくなっちまった……』
(え、えぇぇ。恋人関係! ど、どう答えれば……!)
『うーん……。もし私がまいさんだったとしたら、なんですけど……。突然いなくなったのは必ず理由があると思うんです。私だったら、半端な理由無しに幸太郎さんの前からいなくなったりしないです。何か理由があった筈です……』
『そう……か……。理由までは分からないか?』
『ええと……さすがにそこまでは……』
『そうか。理由……な。オレ達はそれを24年間探し続けてる。何故いきなりいなくなったのか……な』
『……』
(沈黙が重い……。何か力になれる事があればいいんだけど……)
『……千尋さん。時々、僕達とこうして会話してくれませんか? なんだかまいさんがまた現れたようで嬉しいんです』
『え……私で良ければ、喜んで!』
『ありがとうございます』
『ありがとう』
『ありがとう……な』
こうして幸太郎達と千尋の関係が始まったのだった。