嬉しい事
時は平成31年、4月27日(土)。
「ふんふんふふーん、ふんふん」
「千尋、ご機嫌であるな。どうしたのだ?」
「あ、明。どうしたって、今日からゴールデンウィークですよ! しかも今年は10連休なのです。今日実家に帰ると言っていたでしょう?」
「ふむ、そうであったなぁ。確か年号が変わるのだったか?」
「そうですよ! 五月一日から元号が『令和』になるんです。平成で慣れてるから、なんだか不思議ですね」
「そうなぁ。まぁ、いずれ慣れるであろう」
「そうですね。っと、早く荷物を詰めなくちゃ! 明、連休中はあまり話せませんから、未来の私と旅行に行ってはどうですか? 信治達も誘って、家族旅行です」
「ふむ。そうなぁ、良いかもしれぬ。では誘ってみよう。千尋、道中気をつけるのだぞ」
「はい!」
こうして千尋は実家に帰り、霊界の安倍一家は旅行に行くことになったのだった。
4月30日。
下界の千尋は幸にぃの家に居た。
「幸にぃ、話ってなに?」
「うん、千尋ちゃん。実はね……」
ピンポーン
「おや、誰だろう?」
「私出るわ」
「いや、私が出るよ。里子は座ってて」
「ありがとう、あなた」
幸にぃは里子の手をとって椅子に座らせると、インターホンの映像を確認し、玄関へと向かった。
幸にぃは玄関の扉を開けると、目の前に立つ人物の持つものに目をやりながら話しかける。
「貴史、〝それ〟はなんだい?」
「これか? 里子さんにお祝いのプレゼント。綺麗だろ?」
「ああ、綺麗だ。ちなみに〝それ〟は何本あるんだい?」
「108本だ。煩悩が吹き飛びそうな数だろ?」
「はぁ……。お前は変なところで頭が悪いな。108本の薔薇の花言葉を知っているかい?」
「え? 知らねぇけど」
「そうかい。じゃあそれは水野さんにあげると良い。きっと喜ぶよ」
「ええ? 俺は里子さんに、って買ってきたんだぜ?」
「良いから。それを里子にあげる事は私が許さない。良いね」
「ちぇー、わかったよ。じゃあ里子さんにはまた改めて何か買ってくる。んで、これの元気が良いうちにさっちゃんに渡してくるわ。じゃあな、兄貴。里子さんに宜しく〜」
「ああ。じゃあな」
幸にぃは思った。
(さて、108本の薔薇を貰った水野さんはどうするかな……そして貴史も、意味を知ってどうするだろうか。ま、良い勉強になるだろう)
そうして、幸にぃは最愛の人がいるリビングへと戻っていった。
「あなた、どなただった?」
「ああ、セールスマンだったよ。待たせたね。じゃあ千尋ちゃん、今日呼んだ本題なんだけど。里子、良いかい?」
「ええ」
「なになに!?」
「実は、私達に家族が増える事になってね」
「わーっ、それって、里子さんが妊娠したってこと!?」
「そうなんだ。妊娠5ヶ月だよ。安定期に入ったし、丁度いいから千尋ちゃんに報告しようと思ってね」
「わー! おめでとう、里子さん!」
「ありがとう、千尋ちゃん。子供が産まれたら、色々と手伝ってくれると嬉しいわ」
「手伝う手伝う〜! 赤ちゃんの性別はもう分かったの?」
「うふふ、それは産まれてからのお楽しみにしようと思って、まだ聞いていないの」
「そうなの!? へー、楽しみだなぁ。名前の候補はもうあるの?」
「ええ、あるわよ。でも、それも産まれてからのお楽しみね」
「そうなんだー、楽しみだなぁ! 出産予定日はいつ頃なの?」
「9月末頃よ」
「そうなんだー、じゃあ年末年始に帰った時に会えるね!」
「そうね。産まれたらメールするわ」
「うん! ありがとう」
「千尋ちゃん、僕達をお祝いしてくれるのも嬉しいけど、お姉さんもお祝いしないとね」
「え? お姉ちゃんを? なんで?」
「え? 知らないのかい?」
「え? ま、まさかお姉ちゃん──」
千尋は思い出した。以前晴明の父上から、姉に女の子が産まれると聞いた事を。
「……。幸にぃ、里子さん、本当におめでとう! お姉ちゃんについては、明日会うからその時に問い詰めてみる。とりあえず今は、二人の事を祝わせて!」
「ああ、ありがとう」
「ありがとう、千尋ちゃん」
こうして千尋は嬉しい事実と衝撃的な事実を知るのだった。
翌日。令和元年5月1日。
「おはよう、お母さん。ついに平成が終わったね〜」
「おはよう、千尋。そうねぇ、これから令和ね。どんな時代になるかしら。楽しみね」
「そうだね。お姉ちゃんは何時に来るの?」
「11時頃よ」
「そう。……お母さん、お母さんは知ってるんだよね?」
「なんのこと?」
千尋の母はニヤニヤとしている。
「むむ。お姉ちゃんに直接聞くからいいよ」
「そう。あ、柏餅あるわよ」
「食べる!」
千尋が朝食を食べ終え、柏餅とお茶でまったりしていると、姉一家が到着した。
リビングに入ってきた姉はこう言った。
「あれ、なんで千尋がいるの?」
「む。お姉ちゃん、第一声がそれ? 今はゴールデンウィークだよ! 実家に帰っててもおかしくないじゃない」
「ああ、まぁそうね。で? 彼氏出来たの?」
「出来るわけないじゃない。それよりお姉ちゃん、妊娠してるんでしょう?」
「あら、幸助(幸にぃ)から聞いたの?」
「そうだよ。なんで言ってくれなかったの?」
「そりゃあ、『サプライズ』よ。彼氏の居ないあんたが人生楽しくなるようにね!」
「ぐ。そう言われたら責められない……! まぁいいよ。それで、妊娠何ヶ月なの?」
「3ヶ月よ。次は女の子が良いわ〜」
「え? 女の子でしょ?」
「は? 何言ってるのよ。まだ性別わかるわけないじゃない」
「えっ。あ、そ、そっか。なんか勘違いしたみたい。あはは〜」
(ヤバイヤバイ、父上様に聞いたんだった。あ、そうだ、アーロンさんに聞いた事言わなきゃ!)
「お姉ちゃん、『食べ過ぎ注意!』だよ!」
「あんたに言われたくないわ」
姉の一言に撃沈する千尋なのであった。




