お花見
「明、桜が咲きましたよ!」
「良い、千尋。見に行こうではないか」
「見に行きますが、一人でお弁当食べるのも側から見たら寂しいですし、下界の私とはお散歩程度にして、霊界で未来の私達とお花見して下さい!」
「ふむ。良い。では今皆に聞いてみよう。……明日なら皆大丈夫だそうだ。我が一家以外にも呼びたい者達はおるか?」
「そうですね、みさととにゃんじろうと、マーロと橘と……あ、信治達は恋人も呼びたいよね。杜姫美ちゃんとサクトと未来ちゃんかな? 聞いてみてくださいませんか、明」
「む。良い。……みさととにゃんじろうは大丈夫だ。マーロと橘は弁当を食わせてくれるなら行くとのことだ。……信治達にそれぞれの恋人に聞くよう言ったが、横浜中華街の時のようになるかもしれぬと言って今回は連れて行かぬようだ」
「そうなんですか、まぁ恋人同士だけで見に行きますよね、きっと。じゃあマーロと橘には了解の旨をお伝えください。未来の私には今言いますね」
「良い」
バンッ(未来と現在を繋ぐ扉)
「私ー、明日安倍家一家とみさととにゃんじろうとマーロと橘と一緒にお花見してきてー!」
「了解だよ! 腕によりをかけてお弁当作るよ!」
「宜しく〜。じゃあ明日の八時半に晴明様の家ね。じゃあねー」
「うん!」
バタン
「さてと。明、お散歩に行きましょうか」
「良い。桜を見に行こう」
こうして千尋達は公園に桜を見に出かけた。
(うわー、満開だぁ!)
「そうなぁ、満開だなぁ。とても綺麗な桜並木なのだ。千尋、霊界にも此処よりとても綺麗な桜並木があるのだぞ? 未来を楽しみにするが良い」
(そうなのですね。楽しみだなぁ)
桜に見惚れながら歩いていた千尋は、不意に前に白い影がさした事に気づく。
(うわっ、ぶつかる!?)
千尋が前に居た人影にぶつかる、と思い反射的に目を瞑ったその時。
「危ないだろう。気をつけろ」
「は、はいっ、すみません! ……あれ?」
千尋が聞こえてきた声に返し、目を開けると、そこには誰も居なかった。
「千尋ー、前を向いて歩かねば危ないであろう? 今ぶつかりそうになったのは霊体の者だったから良かったものの」
(あ、明。ごめんなさい。今の方はどなただったのです?)
「今の者は、通りすがりの者だ。確か実体の恋人がおる者だったか?」
(えっ、実体の恋人が!? うわー、私以外にも居るんですね! その実体の方にお話聞いてみたいけど、無理だろうなぁ。間違えて話しかけて変な目で見られたりしたら……。残念だけど、会えないなぁ)
「千尋、もしかしたらいずれ会えるかもしれぬ。運命というのはそういうものだ。今は気にするでない」
(そうですか? じゃあ、運命の神様にお願いしなきゃ! 運命の神様、いつか私と同じように霊体の方が恋人の方と会えますように!)
「良い良い。では千尋、散歩の続きなのだ」
(はい!)
こうして千尋と晴明は桜を見ながら散歩を楽しむのだった。
翌日。霊界にて。
「よい……しょっと! 明、来ましたよー!」
「おかえりなのだ、千尋。料理は作ってきたのか?」
「はい! 沢山作ってきましたよ! じゃあ、みんなが集まってから出発ですか?」
「そうなのだ。もうすぐ皆来るであろう」
「にゃあのぉ!」
「来たよ、千尋ちゃん、晴明様。今日は何処に行くの?」
「あ、いらっしゃい、みさと、にゃんじろう! 今日は私も知らないんだー、晴明様が連れてってくださるよ!」
「そうなんだね。場所取りとかしなくて大丈夫なの?」
「うん、晴明様とか、一部の人しか知らない場所なんだって。楽しみだねー」
「来たぞー、千尋」
「来たよ、千尋」
「あ、橘、マーロ、いらっしゃい! 二人の好きな食べ物沢山作ったからね!」
「おう、ありがとうな」
「ありがとう、千尋」
「母さん」
「わっ、ビックリした。信治……と愛香と選も。いらっしゃい。これで全員揃ったかな?」
「揃ったと思うわよ、母様」
「大丈夫だよー、母さん」
「良し、じゃあ出発だね! 晴明様、行けますか?」
「うむ。では皆、手を繋ぐのだ」
晴明を中心に、皆が手を繋ぐ。
「では行くぞ。せーのっ!」
次の瞬間、千尋達は丘の上の拓けた場所に居た。そして千尋達を囲むように桜が周りを囲んでいる。
しかも桜の種類も様々で、牡丹桜や枝垂れ桜、緑色の桜など、色々な桜があってその光景は圧巻だった。
「うわぁー、凄いねー!」
「うぉぉお、スゲェな。なぁ、マーロ」
「うん! 僕、ここの風景描きたいな! 描いていいかな? 千尋」
「晴明様に聞いてみるよ。晴明様、この光景を絵にしても良いですか? 私も写真撮りたいんですが……」
「ふむ。ここに居る者以外に見せぬなら良いぞ」
「ありがとうございます、晴明様! 信治達〜、写真一緒に撮ろー!」
「良いよ母さん。にゃんじろう、みさとと並んで。撮るよ」
人体化!
「ああ。頼む。みさと……」
「え?」
にゃんじろう……藤次郎はみさとをお姫様抱っこする。
「え? え? ちょっと、藤次郎。降ろしてよ」
「きゃああ、萌え! じゃあ撮るよー、はい、チーズ!」
カシャッ
「はい、みさと、こっち向いて笑って〜」
「い、嫌だよ千尋ちゃん。僕こんな状態じゃ撮られたくないよ」
「みさと……俺とじゃ、嫌か……?」
藤次郎は顔をくしゃりと歪ませ、悲しそうな顔をする。
その顔を真下から直視したみさとは、心臓を鷲掴みされたかのような衝撃を受け、思わず高速で首を横に振った。
そんなみさとを見て、藤次郎は破顔する。
「そうか、じゃあ千尋の方を見てくれ」
みさとがぎこちなく千尋の方を見ると、千尋はグッと親指を立ててシャッターを切った。
「はい、素敵な写真をありがとう、二人とも! じゃあ次はマーロと橘! 肩組んで〜」
「千尋、写真より飯が良い!」
「写真撮らせてくれたらお弁当あげるよ〜。今日は橘の好きな唐揚げとステーキと鮎の塩焼きとお寿司だよ!」
「くっ、仕方ねぇ。マーロ、こっち向け」
「んー? 僕描くのに集中してるんだけど……」
「いいから!」
橘はマーロの肩に左手をかけ、グイッと千尋の方へ向いた。
「じゃあ撮るよー、はい、チーズ!」
カシャッ
「次、顎クイで!」
「嫌だね!」
「橘の好きなアップルパイと紅茶もあるよ!」
「ちくしょう! マーロ……」
「えっ」
橘は右手でマーロを顎クイする。
カシャカシャカシャッ
「ふぉぉお、橘×マーロ萌えぇぇ!!」
「母さん、萌えってなに?」
「あ、選。萌えっていうのは、好きなキャラとか状況に胸がキュンとしちゃうことだよ。選で言うなら、『未来ちゃん髪サラサラ……萌え……』みたいなね!」
「そっかぁ。母さんは橘さんとマーロさんに萌えるんだね。父さんにも萌えるの?」
「もちろんだよ、選! 晴明様のいつも結ってる髪を解いた姿とか、萌えまくりだよ!」
「そうなんだねー。母さん、僕たちも写真撮って貰ったら、ご飯食べよう?」
「そうだね、選! じゃあ橘、写真撮って〜」
「ああ、良いぞ。そのあとちゃんとお弁当くれよな」
「モチのロンだよ〜。って、マーロなんで固まってるの?」
「ああ、なんかトリップしてる。まぁ良くあることだ。大方俺の背後の桜に精霊でも視えたんだろ。気にすんな」
「そうなんだ〜、桜の精霊さんかー、可愛いんだろうなー」
「そうだな。じゃあ撮るぞ」
「いいよー、晴明様、信治、愛香、選、こっち集まって〜」
「良い良い。橘、背後の桜も写るように撮るのだぞ?」
「承知致しました、晴明様」
こうして千尋達は写真を撮り、シートを敷いて桜を見ながらお弁当を食べるのだった。




