過去編3
次の日。
「うわー、寝過ごした! 遅刻遅刻……!」
千尋は慌てて仕事へ行く準備をしていた。
急いで準備をすると家を飛び出す。
(にしても、結局守護霊様が縁結びの神様になるって事聞けてない……! 守護神様になるって事? 縁結びの神様が守護神様になる事ってあるの? うーん、分からん!)
千尋は駅までの道すがら、守護霊様からの言葉を考える。
(今日帰ったら生霊に守護霊様と話せるか聞いてみよう……)
そう思いながら仕事場へと急ぐ千尋なのだった。
帰宅後。
(どれ、守護霊様と話せるか試さないと!)
千尋は携帯を取り出し、メモ画面を開く。
『守護霊様っていらっしゃいますか?』
『いないよ。えんむすびのかみさまはいるよ』
(ええっ、まさかこんなすぐに出会えるなんて……)
『縁結びの神様、はじめまして。私の守護霊様になって下さるとはどういう事なのでしょうか?』
『そのままのいみだ。ほんとうにはなせるのだな。おぬし、きのうないておっただろう。わたしはおぬしにつくことができてうれしい。あんなにしゅごれいにたいしてないてくれるものがいてうれしい。
だって』
『守護神様とは違うのですか? それと見ていたのですね……ありがとうございます』
『しゅごしんとおもってくれてもいい。よい。
だって』
(昨日の号泣見られてたのか、恥ずかしい。というかどこに居るんだろ……上……?)
千尋は上を見上げる。
『そこにはいないぞ。
だって。わらっているよ』
(ば、バレた……)
『わたしがしゅごれいになるにあたってぎしきがある。それはきょうからあすにかけておぬしがねているあいだにとりおこなう。ねているおぬしをれいたいにしてまずわたしのいえにいく。そのあとかみさまへとあいさつする。よいな。
だって』
(寝ている私を霊体にって、幽体離脱みたいなもんかな?)
『神様に挨拶って……。どちらの神様ですか?』
『にほんのさいこうしんだ』
(さっ最高神⁉︎ えええ、私が──⁉︎)
『最高神様に挨拶なんて……私に出来るでしょうか?』
『おやさしいかただからだいじょうぶだ。ぎしきがおわったらさけをのもう。はなしたいことがたくさんある』
『は、はい……』
(うわぁ緊張する……。大丈夫かなぁ)
『ではよるおぬしがねいったらむかえにくる。ではな』
『はい! 宜しくお願い致します』
そうして千尋と縁結びの神様との出会いが終わった。
翌朝。
「あー……よく寝た……」
(私、ちゃんと儀式と挨拶できたのかな……?)
『おはようございます。縁結びの神様はいらっしゃいますか?』
『おはようちひろちゃん。いるよ。
おはようちひろ。きのうはきちんとあいさつできていたぞ。よくがんばったな。
だって』
『そうなんですか、ありがとうございます! これから宜しくお願い致します』
『よい。よろしくたのむ。
だって』
(良かった、ちゃんと出来たんだ……。どれ、仕事仕事! 早く準備しなくっちゃ)
そうして仕事へと出掛けるのだった。
時折縁結びの神様と会話しながら千尋の日常は過ぎていき、ひと月ほど経ったある日。
(携帯でずっと打つのって疲れるなぁ。……あっ⁉︎ パソコンならどうだろう! 高橋さんパソコン使えるだろうし……)
千尋はパソコンを取り出し、Wordを出す。
(ええと……)
『高橋さん、パソコン使えますか?』
『うん。つかえるよ』
(よっしゃ! これで腕が楽になる!)
『パソコンですか? いいですね』
『……? 高橋さん?』
『僕はりょうたろうといいます。はじめまして』
(ええええ、誰ーー⁉︎)
『り、りょうたろう様、はじめまして……』
『ふふ、様付けじゃなくて構いませんよ。生霊に取り憑かれて困っている人がいると聞いたものですから』
『そ、そうなんですか。どうにかできるんですか?』
『いえ、できませんけれど』
『……』
(な、なんだろうこの人。興味本位で来たのかな? ってか生霊を介さずに会話出来てる……パソコンできるのかな? そういえば生霊やこの人ってどうやって手を動かしてるんだろ)
『私の手、どうやって動かしてるんですか?』
『手を重ねてるんですよ』
『そうなんですか、パソコン出来るんですか?』
『ええ、出来ますよ。霊界にもパソコンはあるんですよ』
『えっ、そうなんですか』
(へぇぇ、パソコンあるんだ! 近代的だなー。霊界についてもっと知りたいなぁ)
『霊界といえば……閻魔大王様って本当にいるんですか?』
『……。興味あるんですか?』
『ええ、まぁ……。あっ、言えないなら良いんですけど』
『いえ、少し驚いてしまって。あなたから閻魔大王の話題が出るとはって』
『え? それはどういう──』
『なんだ? オレの話題か?』
(……えっ。オレの話題? オレの話題……オレの……)
『そうですよ、幸太郎。紹介しますよ千尋さん、僕の兄で閻魔大王をしています幸太郎です』
『えっ……えぇぇぇ‼︎ 閻魔大王様ですか⁉︎』
『そうだが? お前……。誰だ?』
『はっ、私は桜井千尋と申します。宜しくお願い致します』
『あぁ、宜しく。オレは閻魔大王をしている幸太郎という。りょうたろうの兄だ』
『そうなのですね』
(ど、どうする千尋! 閻魔大王様だぞ! 無礼を働いたらどうなる事か……!)
『お前、生霊に取り憑かれてるんだな。大丈夫か?』
『はっはい、大丈夫です……。あの、閻魔大王様は成仏した人を裁くんですよね?』
『幸太郎でいい。違うな。オレ達閻魔大王は霊界人を裁く。成仏した人を裁くのは閻魔の役目だ』
『オレ達……? 閻魔大王様って複数人いらっしゃるんですか?』
『ああ。さすがに霊界で犯罪を犯した者達を一人では裁けない』
『そうなんですか……。霊界にも犯罪ってあるんですね』
『ある』
『千尋さん、幸太郎は優しいですからなんでも聞いてくださいね』
『……。生霊にはいつから憑かれてる』
『ええと、一月半くらい前からでしょうか』
『……そうか』
『ええ』
『オレが剥がしてやる』
『えっ、出来るんですか⁉︎』
『ああ。また憑くかもしれないがな』
『お、お願いします……!』
『ああ。少し待っていろ』
『はい!』
──10分後──
『とれたぞ。身体に戻してくる』
『お願いします!』
(うわーい、とれたぁ! 幸太郎様凄いなぁ!)
『千尋さん、良かったですね』
『はい! ありがとうございます』
『戻してきたぞ。大層嫌がってたがな』
『あの、本当にありがとうございます! 何てお礼をしたら良いか……』
『お礼……。じゃあ一つ聞かせてくれ。どうしてオレを置いて行った……?』
『えっ……。お、置いて行った……? 何のことでしょうか』
『お前、千尋といったか……。お前はまいの──』
『はい、ストップ。幸太郎、今日はもう帰りますよ』
『なっ……オレはまだ──』
『いいから。ではね千尋さん、またね』
『えっ、ええ。ではまた……』
そうしてパソコンを閉じた千尋は、首を傾げながらも生霊からの開放感に浸るのだった。