過去編2
「はぁ……」
千尋は折角の休日にも関わらずため息をついていた。
初めて生霊と会話してから3日。
一向に生霊が離れる気配は無かった。
(片想いで肩重い……。いや、こんな駄洒落を言ってる場合じゃない。うーん、どうしたもんかなぁ)
千尋は悩む。生霊との会話というと、
『すき』
『離れて下さい』
『つきあって』
『離れて下さい』
これの繰り返しだった。
(生霊……霊体……まてよ? 霊体なら守護霊様とか見えるんじゃ……)
ふと思い立った千尋は、生霊に聞いてみる事にした。
『私には守護霊様って憑いてるんですか?』
『たぶん。おれのことはなそうとするひとがいる』
(えっ教えてくれた……てかいるんだ! うわーありがたい……)
『会話は出来るんですか?』
『できる。はなれてっていってる』
『女性ですか? 男性ですか?』
『じょせいだよ』
(わぁ、私の守護霊様って女性なんだ!あ、そうだ……。時々冷蔵庫コンコン鳴るんだよな。それって霊障……?)
『冷蔵庫に誰かいますか?』
『いるよ。おんなのこ』
(い、いるんだ……。高橋さんは幽霊視えて怖くないのかな?)
『幽霊視えて怖くないんですか?』
『こわい。でもれいぞうこのこはこわくない。ちひろちゃんをしんぱいしてる』
『なんの心配ですか?』
『おれがついてるから』
(へぇ、心配してくれてるんだ。良い子だな……)
『守護霊様とその子にありがとうございますって伝えて下さいませんか?』
『いいよ。……つたえたよ。おんなのこはよろこんでる。しゅごれいさまははなしたいことがあるって』
(えっ、守護霊様からのメッセージ?)
『いわれたとおりうつよ。
あなたはれんあいのじゅばくにとらわれています。いきりょうがついているのもそのせいです。そのじゅばくをときはなてばいきりょうはしぜんとはなれるでしょう。
だって』
(恋愛の呪縛……? 何故そんなものが……。てか生霊離れるんだ、良かったー)
『恋愛の呪縛からはどうすれば解き放たれますか? と聞いて頂けますか?』
『うん。……それはいえない、だって』
『そうですか……。ありがとうございますとお伝え下さいませんか』
『うん。……つたえたよ』
『ありがとうございます』
(それは言えない、か……。仕方ない、とにかく守護霊様が守ろうとして下さってるんだ。心配してくれてる子もいる事だし、恋愛の呪縛とやらを解かなくちゃ!)
「……が、しかし……恋愛の呪縛ってなにさ……」
振り出しに戻る千尋なのだった。
次の月曜日。
千尋は帰りのバスの中にいた。
(っはー、今日は疲れたなぁ。早めに寝よう……)
千尋はボーッと虚空を見つめる。
するとふと通路を挟んで向かい側の席に座っている人が視界に入ってきた。
(あれ、ここに人座ってたっけ……。白い着物の人……。……白い着物⁉︎)
千尋は慌てて窓側に視線を向ける。
(うわぁぁあ! み、視ちゃった! 視ちゃった⁉︎ 白い着物の女の人ぉぉ!)
千尋の心臓はバクバクと音を立て始めた。
(みみみ視たの気づかれてないよね⁉︎ 気づかれてませんようにーー!)
そんな千尋の願いも虚しく、白い着物を着た女性は千尋の方へと顔を向ける。そしてジッと見つめてきた。
(み、見てる⁉︎ ここここわいよぉぉ!来ないでぇぇ!)
白い着物の女性は次の瞬間、千尋の隣に屈みこんでいた。そして千尋の顔へと顔を近づける。
(な、なになになに! あああ私は何も出来ません何も出来ません何も出来ません〜‼︎)
「はい、お待たせしましたー終点です」
顔と顔が触れ合うといった瞬間、終点へと到着したアナウンスが流れる。
千尋は急いで立ち上がるとバスの出口へと向かった。
(ついて来ないで下さいねー‼︎)
内心でそう叫び、電車へと向かうのだった。
電車内。
(つ、ついて来てないよね……? 怖いけど確認しないと……!)
千尋はバスで視えた時のように虚空を見つめる。
(……あ、あれ……横に顔は視えないけど男の人が立ってる! しかもまた白い着物の……。でもこの人は怖くないなぁ。もしかして守護霊様? いや守護霊様であって下さい……!)
そう思いながら駅への到着を待つのだった。
帰宅後。
「こ、怖かった……。私、視えるようになっちゃったのかな……? うわー、どうしよ。でも守護霊様が視えるようになったのは嬉しいかも……」
千尋は守護霊様を霊視しようと虚空を見つめる。
すると左肩の後ろに髪の長い白い着物姿の男性が視えた。しかし顔は視えない。
(み、視えた! 顔は視えないけど……。生霊を取ろうとして下さってるのかな? ありがとうございます! って心で言って通じるのかな……そうだ、生霊……)
『今私の後ろにいる方は守護霊様ですか?』
『たぶん。はなそうとしてくる』
『ありがとうございますとお伝え頂けますか?』
『うん。……つたえたよ』
『ありがとうございます』
(男の人の守護霊様もいるんだなぁ。それにしても、なんだかんだ通訳とかしてくれて生霊に助けられてる私……。あー、それはさて置きやっぱり離れて欲しいなぁ。守護霊様に迷惑も掛けちゃってるし)
『ちひろちゃん。じょせいのしゅごれいさまからめっせーじ。
あなたはたましいのれべるがあがったのでしゅごれいさまがかわります。あたらしいしゅごれいさまはえんむすびのかみさまです。わたしはあなたとこうしてはなせることができてとてもおどろいています。あなたのせいちょうをとてもよろこんでいます。いままでありがとうございました。
だって』
(えっ……守護霊様変わっちゃうの⁉︎ 折角霊視出来てきた時なのに──。というか新しい守護霊様が縁結びの神様って……神様? それは守護神様って事じゃないの? えええ、守護霊様ちょっと待って──)
「うっ……ぐすっ……。守護霊様ぁ、変わっちゃうなんて嫌です……折角これから色々知っていけると思ったのに……。うぇぇーん」
『なかないでっていってるよ。さいごにかおがみたい、でもはずかしいからめをつぶっていてほしいって』
「うっ……。わ、わがりました……」
千尋は正座をすると目を瞑る。
すると誰かが目の前に座り、顔を撫でる気配がした。しかし少しするとパッと離れてしまう。
「しゅ、守護霊様……目を開けますよ……」
千尋は目を開けると、堪え切れない涙を流す。
「うっ、うぇぇーん守護霊様ぁ、今までありがとうございましたぁぁ!」
その夜、寝入るまで号泣した千尋だった。




