クリスマスツリー
──霊界にて──
「ふんふんふーん、ふんふんふーん」
「千尋、今年もそれを飾るのか?」
「そうですよ、明! 美しいではありませんか」
「そうだが、なぁ。クリスマスツリーとやらは何故飾るのだ?」
「それは……まぁこまけぇこたぁいいんですよ」
「そうなのか……。良い、我も飾るのだ」
「では明は一番てっぺんの星をお願いします」
「良い」
──数十分後──
「良し、でーきた。じゃあ点灯してみましょう、明!」
「良いのだぞ。では……」
カチッ
「おー、きれーい。選が帰ってきた時が楽しみですね、明」
「そうなぁ。どれ千尋、お茶にしようではないか。その後愛座右衛門と遊ぼう」
「良いですよ、明。ではお茶を入れてきますね」
「良い良い」
そうしてクリスマスツリーを飾った千尋達はまったりとした時間を過ごしていた。
「あ、そうだ明。私クリスマスケーキの練習でケーキを作ったんです。食べてみてくださいませんか?」
「うむ、良いぞ。持ってくるが良い」
「はい!」
そして千尋は表面が真っ黒に焦げたチーズケーキを持ってきた。
「どうぞ、バスク風チーズケーキです!」
「う、うむ」
(千尋は……これは失敗したのか? 表面が焦げ焦げであるが……。まぁ千尋も失敗する時はあるのだ。食べるのだ、我)
「では……いただきます」
「召し上がれ!」
パクっもぐもぐ。
「むっ。香ばしくてこれはこれで美味いなぁ。とても失敗作とは思えぬ」
「えっ、明。これは失敗作ではありませんよ?」
「な、なんだと? こんなに焦げ焦げなのにか?」
「そうですよ。この焦げ焦げが特徴なのが『バスク風チーズケーキ』なのです。スペインのバスク地方で生まれたケーキだそうですよ」
「そうなのか……とっても美味しいのだ。我、気に入ったのだ」
「それは良かった! じゃあクリスマスケーキはこれにしますね」
「良い良い」
「にゃあおぉー」
「愛座右衛門も食べたいの? 愛座右衛門はササミと煮干しねー」
「にゃあおぉー」
こうしてクリスマスツリーを飾り付けた千尋達は、愛座右衛門と遊ぶのだった。
──下界にて──
「マーロ、橘、二人はクリスマスどう過ごすの?」
「ああ、二人で過ごす予定だ」
「そうなの!? 二人で何して過ごすの?」
「別に、いつも通りだけど」
「そうだよ千尋。それより千尋は今年も一人でケーキ食べるの?」
「そうだよマーロ。家族と過ごすのは未来の楽しみに取って置いてるの。ねぇ橘、マーロ、クリスマス一緒に過ごさない? クリスマスイブは休みなんだ」
「あぁ、まぁいいけど」
「僕も良いよ千尋。じゃあ美味しい物沢山用意しててよね」
「分かったよマーロ! じゃあマーロと橘はマーロが書いた漫画を音読してね!」
「「嫌に決まってるだろ!」」
こうして千尋はクリスマスはマーロと橘と過ごす事になったのだった。
──その頃のサクトは──
「んー、愛香は何が喜ぶか……」
サクトは霊界の雑貨屋に居た。愛香へのクリスマスプレゼントを選びにきたのだが、何がいいか決めかねていた。
(愛香にはやっぱり化粧品か? でも俺化粧品詳しくねぇしな……くそっ、どうする!)
「やぁ、サクト殿。眉間に皺を寄せて、どうしたんだい?」
「あ、あぁ、雅泉殿。実は彼女にあげるクリスマスプレゼントを迷っていまして……」
「そうなのかい。実は私もなんだ。一緒に考えようじゃないか」
「あぁ、それは良いです──」
「雅泉様!」
「ん? 君は……先日自分を飼ってほしいと言ってきた子だね。私は飼わないよ」
「そ、そうじゃなくってよ。あの事はお忘れになって。雅泉様、わたくしにお時間をくださらないこと?」
「時間を? 悪いが、私は今忙しくてね。何用だい?」
「わ、わたくし……雅泉様が好きなんですの! お付き合いなさって!」
「……。悪いが僕は幼女趣味じゃないんでね。それに婚約者もいるんだ」
「幼女じゃありませんわ! れっきとした十七歳ですわ! それに婚約者がなんですの!? わたくしより魅力的だとでも!?」
「ああ、とっても魅力的だよ。ねぇサクト殿……」
「えっ」
雅泉はサクトの顎に手を掛けると上を向かせ、顔を近づける。
「私の愛しの君……んー」
あと少しで唇と唇が触れるといった瞬間。
「はっ……破廉恥ですわぁぁー!」
バッチーン!
「ぶっ!」
麻里奈はサクトの頬をひっぱたくと、泣きながらこう言った。
「雅泉様がそんな方だとは思いませんでしたわ! わたくし、わたくしはっ、諦めませんわぁぁー」
そう言って麻里奈は雑貨屋から出て行った。
頬を叩かれたサクトは唖然として雅泉を見る。
「やぁやぁ、すまなかったねサクト殿。大丈夫かい?」
「雅泉殿……何故俺の事を婚約者なんて……」
「サクト殿なら男だし、あの子も諦めると思ってね。すまなかったね、お詫びに何かご馳走しよう」
「あ……はい……」
こうしてサクトは麻里奈に雅泉の婚約者だと誤解されるのだった。




