ちくわぶ
「やばい、寝坊した〜!」
「おはよう、千尋。よく寝ておったなぁ」
「晴明様! おはようございます! あわわ、お弁当作ってる暇ないや! 晴明様、私着替えるのであっち向いてて下さい!」
「良い。千尋、晴明様ではなく明と呼ぶのだぞ」
「今はそれどころじゃないですよ晴明様〜!」
こうして寝坊した千尋は慌てて準備をし、お弁当は作らずに出かけるのだった。
お昼。
(お弁当作れなかったし、お昼コンビニに買いに行こー。寒いし、おでんでも食べようかなぁ)
千尋は財布と携帯を持って会社を出た。近くのコンビニへと向かう。
コンビニに着いた千尋はおにぎりを手に取り、おでんの具を選び始める。
(えーと、卵でしょー、大根でしょー、ん? ちくわぶ? ってなんだろ……。ちくわ? ぶって何? よくわかんないから後は絹厚揚げでいいや)
こうして千尋はおにぎりとおでんを買うのだった。
会社に戻った千尋はロッカーに財布を入れ、高田さんと伊藤さんが待つ休憩室へと向かった。
「お疲れ様です、高田さん、伊藤さん!」
「「お疲れ様ですー」」
「ん? 桜井さんコンビニ飯? 珍しいわね」
「あはは、今日寝坊しちゃって……。待ってて下さってありがとうございます。食べましょ〜」
そうして食べ始める千尋達。
千尋はおでんの蓋を開けて、ちくわぶの存在を思い出し高田さんと伊藤さんに聞いてみる事にした。
「高田さん、伊藤さん、ちくわぶってなんですか?」
「「えっ、知らないの?」」
「知らないです〜。ちくわなんですか? ぶってなんですか?」
「ちくわぶっていうのは、ちくわじゃなくて小麦粉を練ってちくわに似せた食べ物よ。もちっとしてて美味しいわよ〜」
「うんうん」
「そうなんですか! 小麦粉……すいとんみたいな感じですか?」
「そうね、近いわ」
「そうですねー」
「そうなんですか。美味しそう。今度買ってみよ〜」
「それがいいわ。スーパーでも売ってるから、鍋に入れても美味しいわよ」
「そうなんですね! ちくわぶがあればご飯なくてもいいかも」
「そうですねー。あ、そうだ桜井さん、推しの櫻木晶馬君が──」
こうして千尋はちくわぶの存在を知るのだった。
数日後。
仕事帰りの千尋はスーパーに居た。
(うーん。今日は寒いから鍋にでもしよー。えーと、白菜と豚肉と水菜とー、ネギと……あ、そうだ。ちくわぶ、買ってみよう! えーとどこだろ……練り物コーナーかな……)
しばらくして千尋はちくわぶを見つけた。
(あ、あった。へー、外側に凹凸があるんだ。味を染み込みやすくする為なのかな? どれ、買ってこー)
千尋はちくわぶを始めとする鍋の具材を買い込み、家へ帰るのだった。
「どれ、作りますか!」
千尋は食材を切り始める。あらかた切った所でちくわぶに手を伸ばす。
「うーん、どう切ったらいいんだろ? 斜め? 真っ直ぐ? わからない時は調べる!」
千尋は携帯で「ちくわぶ 切り方」と調べる。
「なになに……お鍋には斜め切りがいい……なるほど。ん? 下茹ですると味が染み込みやすい? へー、なるほど。じゃあ下茹でしよー」
千尋はちくわぶを斜めに切り、湯を沸かして下茹でする。
「んー、こんなもんかな。じゃあザルにあげて……と。よし、鍋を煮込むかー」
千尋は切った野菜類を鍋に入れ、煮込み始める。
「ふんふふーん♪ 早く煮えないかな〜」
「千尋、鍋を作っておるのか?」
「あ、明。そうですよ。明は食堂に行かないんですか?」
「行くが、る魔が千尋が上機嫌だと言うので様子を見に来たのだ。何が嬉しいのだ?」
「え、秋殿に伝わってましたか? 大したことじゃないんですけど、今日は初めて『ちくわぶ』というものを食べるんです。だからテンションが上がってたのかも?」
「ちくわぶか、良い。我もちくわぶ好きなのだ。千尋がよく鍋やおでんに入れておってなぁ」
「そうなんですか! じゃあ私はちくわぶを気に入るんですね。食べるのが楽しみです」
「良い良い。ではまたな、千尋」
「はい!」
その後鍋が完成し、千尋はいざ実食! とお椀に鍋をよそう。
「いただきまーす。まずはちくわぶから……あぐっ。ハフハフ……もぐもぐ。ごくん。んー、もっちりしっとりで美味しい〜!」
その後は夢中で鍋を食べ、鍋はみるみる減っていった。
「ふー、食べた食べた。スープは明日雑炊かうどんにして食べよーっと。それにしてもちくわぶ美味しかった。今度おでん食べる時は、絶対に食べよう」
そう決意して、千尋は後片付けをするのだった。
数日後。
仕事が休みな千尋は部屋で読書をしていた。
そこににゃんじろうがやってくる。
「にゃあのぉ」
「あ、にゃんじろう! いらっしゃい。何か食べる?」
「にゃあのぉ」
「え? ちくわぶが食べたい? そうなの。じゃあちくわぶ料理で検索! えーと、なになに。あ、これとか美味しそう。『ちくわぶでカリカリチーズせんべい』。にゃんじろうは猫だから、猫用チーズね。良し、イメージして……固定保存! はい、にゃんじろう」
「にゃあのぉ」
カリカリ……カリカリ……。
「にゃあのぉ!」
「美味しい? 良かったー。これ、愛座右衛門にも持って行ってくれる?」
「にゃあのぉ!」
人体化!
「……おい、にゃん太。これごときで俺が落ちると思うなよ!」
「ふん、いずれにゃんじろうも僕にひれ伏すようになるさ。僕の造った料理によってね!」
「チッ。これは愛座右衛門に持っていく。せいぜい新しい料理を造ることだな!」
にゃんじろうは霊界へと瞬間移動した。
突然のにゃんじろうの演技に戸惑うことなく合わせる千尋は流石である。
というか、にゃん太を引きずるにゃんじろうもにゃんじろうである。
閑話休題。
「にゃんじろうも気に入ったみたいだし、このレシピはお酒に合いそう。明にも造ってあげよー。明、いつ来るのかな?」
──その頃の晴明は──
「よぉ、晴明」
「む、サクトか。何用だ?」
「ちょっと相談があるんだ。耳を貸せ」
「良い」
晴明はサクトの口元に耳を近づける。
フーッ
サクトは晴明の耳に息を吹きかけた。
「な、なにをする!」
「ははっ! 引っかかってやんの!」
「おのれサクトめ、許さぬぞ! 脇腹こちょこちょの刑に処す!」
晴明はサクトの両脇腹を手でこちょこちょとくすぐる。
「あっはっは! や、やめろ晴明! 頼む!」
「我許さん! ほれほれ〜」
そんな晴明とサクトのやりとりを見て、秋は
(早く終わらないかな……)
と思うのだった。




