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出会い



「ねぇあっきー、愛座右衛門の人体化するところが撮れたって本当なの?」


「ああ、本当だぞ。一時的な人体化だけどな。でもお前、ビデオ見れないだろ? だから未来で見ろよ」


「うん、わかった! ありがとうあっきー。それにしても、私とあっきーの出会いもビデオに撮っておきたかったよね!」


「ああ、そうだな。あの時は俺、よくやったと思うよ」


「そうだよねー、危うく私怪我する所だったもんね。あの時はありがとう、あっきー」


「いいよぅ」


千尋とあっきーの二人は、初めて出会った(あっきーは千尋の守護霊なので存在を知ってはいたが)時を思い出した。



あれは下界時間での一年前。


千尋は仕事の帰り道、駅の階段を降りていた。


(はぁーあ、今日も疲れたなぁ。早く帰ろー)


そんな事を思っていたその時。


ガクンッ


(え?)


千尋は一瞬何が起きたのか分からなかった。しかし身体が前のめりに倒れていくのを感じて、階段を踏み外した事に気づく。


(あ、やばいかも──)


その時だった。


「危ない!」


そう声が聞こえたかと思うと、左手が勝手に動いた。


ガシッ


千尋の左手は手すりをガッチリ掴み、その左手に千尋の全体重がかかる。


「うっ、と、と。うわー、危なかった〜」


千尋は間一髪で階段を転げ落ちなかった事に安堵して、一体誰が「危ない!」と言ったのかと周囲を見渡す。

しかし、周囲の人で千尋に注目している人は誰一人として居なかった。


(うーん? 聞き間違いかなぁ)


そんな事を思っていると、誰かに話しかけられた。


「千尋、足捻ってないか?」


「え?」


千尋は後ろを振り返るも誰もいない。

もしや霊体の人に話しかけられたのかと、千尋は心で念ずる。


(えーと、どなたですか?)


「俺は(あきら)。千尋の守護霊の内の一人だ。足、捻ってないか?」


(明様……はい、捻ってません。あ、左手が勝手に動いた気がしましたけど、もしかして明様のおかげですか?)


「ああ、瞬間的にお前の中に入って動かした。無事で良かったな。じゃあな」


(あ、ありがとうございました!)


「ああ」


そうして千尋とあっきーの出会いは終わったのだった。


あっきーはその一件からよく千尋に話しかけるようになり、千尋はあっきーの明るくて優しい性格に甘えていつしか明様ではなくあっきーと呼ぶようになったのだった。


そんな出来事を思い返した二人は、次の話題に移る。


「出会いと言えば、お前マーロと橘とどうやって出会ったんだ?」


「あ、それはね──」


マーロと橘との出会いを思い返す千尋。



あれは下界時間の七ヶ月前──



千尋はいつものようにBL小説を読んでいた。そんな千尋はふと思い立つ。


(うーん、せっかく霊界での知人も増えたし、カップリングの妄想を形に残したいなぁ。でも下界で自分の妄想を形にするのは難しいし……誰か霊界で私の妄想を具現化出来る人いないかなぁ。念じて扉開いてみる? うん、そうしよう! えーと、妄想を具現化出来る人、具現化出来る人ー!)


バンッ(霊界と下界を繋ぐ扉)


「すみませーん!」


「な、なんですか!?」


「あ、貴方は私の妄想を具現化出来る人ですか?」


「妄想を……具現化? そんな事出来ませんよ」


「え? そうなんですか? おかしいなぁ、扉が繋がったってことは妄想を具現化出来る人の筈なんだけど……」


「貴女が言う妄想の具現化とはどのような事ですか? 僕は絵を描くことは出来ますが……」


「あ、絵を描けるんですね! 私は私の妄想……恋愛ストーリーなどを形に残せる人を探しているのです。貴方は私から話を聞いて、例えば漫画に出来たりしませんか?」


「ふむ。出来ないことも無いですが……依頼料はいくらです?」


「一冊千円でどうですか?」


「うーん、まぁいいでしょう。しかしページ数はお話によっては減ったり増えたりしますからね。良いですか?」


「良いです! あ、貴方のお名前は? 私は桜井千尋です!」


「僕はマーロ。絵描きをやっています。宜しくお願いします」


「マーロさん、お願いします! それで早速お願いしたいのですけど──」


「なんだ、マーロ。客か?」


「あ、橘。そうなんだ。ちょっとそこで待ってて」


「ああ」


「あ、お客様なら私後ででいいですよ?」


「橘は友達だから、大丈夫です。それで、お話とは?」


「あ、ええ。主人公は幸太郎さんっていう閻魔大王様で、恋の相手が弟のりょうたろうさんです。男らしくてグイグイ引っ張る幸太郎さんと、少し癖のある腹黒なりょうたろうさん。幸太郎さんは──」


「ちょ、ちょっと待ってください! なんだかお二人がどちらも男性の名前に聞こえるのですが?」


「あ、はい。男性です。実在もします」


「……。まぁ僕は同性愛に寛容ですから、そこは良いです。しかし、実在する人を漫画にするのは良くないのでは? お二人の許可は取られたのですか?」


「いえ、取っていません。恐らく許可は下りないと思いますので、この事はどうかご内密に」


「えぇー……。僕、俗に言う『なまもの』に手を出すのは怖いんですが」


「大丈夫です、よく肖像画とかで実在の人物を描くでしょう? あれと同じですよ!」


「なるほど……? 分かるような分からないような……。ちょっと友人と相談して良いですか?」


「ご友人にも内密にとだけお伝え下されば良いですよ!」


「ありがとうございます。では……橘──」



数分後。



「千尋とやら。俺はマーロの友人の橘だ。率直に言うが、その依頼、断らせてもらう」


「ええー!? なんでですか!?」


「実在する人を描くにはそれなりのリスクがあるんだ。描かれた本人の許可があればいいがな。お前は許可無しで、しかも近親相姦を描こうとしてるんだろう? 危険すぎる」


「うーん……でも、でも橘さん、私は実体の友達に腐った話が出来ないんです! 私には画力がないから描く事も出来ない! この想いをどうすればいいんですかぁ〜!」


「そうだなぁ……少なくとも俺とマーロはお前がそういう妄想をしてるって知ってる。だから俺達は話だけなら聞いてやるよ」


「ほ、本当ですか!? わーい、腐った話が出来る! ありがとうございます橘さん!」


「ああ。で? 幸太郎さんとりょうたろうさんはどうなるんだ?」


「あ、ええ。幸太郎さんは癖があって腹黒なりょうたろうさんを本当に優しくて天使のような弟だと思ってるんです。そんな弟がある日、幸太郎さんが女性と一緒にいるところへと現れて、りょうたろうさんは幸太郎さんを壁に押し付けながら『貴方は僕がこんなにも想っているのに分からないのですか? 馬鹿ですね。愛しています、僕の幸太郎──』と言いながら接吻を──」


「……そうか」


「そして幸太郎さんは強引にされた接吻に戸惑いながらも受け入れてしまう自分に気付き、弟への抱いてはいけない想いに気付くんです。その想いが近親相姦という倫理に反する想いである事から幸太郎さんは悩み、幼馴染のまいさんへと相談するのですがまいさんも実はりょうたろうさんを好きで──」


「お、おう。マーロ、聞いてるか?」


「面白いお話ですね千尋さん! 僕、漫画にしたくなってきました!」


「ちょ、おい、マーロ! 駄目だって言っただろ!?」


「止めるな橘! 僕は描くんだ! 千尋さん、続きを!」


「ありがとうございますマーロさん! そしてまいさんはりょうたろうさんを想うあまり──」


こうして千尋は妄想を吐き出し続け、マーロは高速で話をメモする。

橘は漫画作りに熱心なマーロに呆れ、俺は知らんぞ、と放っておくのだった。



そんな出来事を思い返した千尋は、出会いの中身が腐った妄想を形にしたかったからだと思い至り、あっきーにこう言った。


「友達になれそうな絵描きさん! って念じて扉を繋いだの!」


「そうなのか。友達になれて良かったな。マーロは絵描きとして人気だからな。橘はマーロの友達だったんだろ?」


「そうだよ! 橘はどことなく性格があっきーに似てるね」


「そうか? 橘がなぁ。俺ってどんな性格だ?」


「世話焼き!」


「そうかよぅ」


こうして千尋はあっきーとマーロと橘に出会ったのだった。



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