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カキフライ



「カキフライ、カキフライ、カキフライ♪」


「良い良い」


「サクサクで、美味しいよ、カキフライ♪」


「良い良い。千尋ー、それはどんな歌なのだー?」


(めい)、これはカキフライの歌ですかねー。もうカキフライの時期ですからね! 明日の仕事帰り、カキフライを食べて帰ろうかなー」


「良い。我もカキフライは好きなのだ。たるたるとやらが美味しくてなぁ」


「タルタルソース、美味しいですよねぇ……あの酸味がたまらんのですよ。でも大根おろしで食べても美味しいですよね! 明、私明日の夕飯はカキフライにします!」


「良い。食べてくるが良い。我も食堂にカキフライが良いと要望を出しておこう」


「楽しみですね、明!」


「うむ。楽しみなぁ」


こうして千尋達は明日の夕飯を楽しみにするのだった。



翌日。



仕事帰りの千尋はカキフライを食べにトンカツ屋さんに来ていた。


「カキフライ御膳一つお願いします。あ、大根おろしもつけてください」


「かしこまりましたー」


(ふふ、楽しみ。今頃晴明様も食堂で食べようとしてるかなぁ。さて、待ってる間ネットでBL小説を読むか〜。男前総愛されで検索っと)


そうして千尋はニヤニヤしないように注意をしながら小説を読むのだった。



──その頃霊界では──


「選、今日はカキフライなのだ」


「そうなの父さん。楽しみだなぁ」


「たるたるがたっぷりなのだぞ。選も好きであろう」


「うん〜。僕タルタルソース好きー」


「良い良い。る魔、そろそろ食べようではないか」


「承知致しました晴明様。只今お持ちします」


「僕も取ってくるよ父さん」


「良い」


る魔が自分と晴明の分のカキフライを持ち、選も自分の分のカキフライを取ってくると席についた。


「うむ、美味しそうだなぁ。る魔、ありがとうなぁ」


「はっ。ありがたきお言葉」


「では食べるとしよう。いただきます」


「「いただきます」」


サクッもぐもぐ。


「うむ、美味い! 美味いのだぞ!」


「んー、衣がサクサク、中はクリーミーで美味しいですね!」


「父さん、美味しいよ〜」


「良い良い。る魔、ろ魔は来ぬのか?」


「んぐっ! ごほごほっ……。し、春は──」


「お呼びですか晴明様」


「おお、ろ魔。何をしておったのだ? ろ魔も早く食べるが良い」


「そう致します。では取ってきます」


そう言ってカキフライを取りに行く春を見つめる秋。その瞳には切なさと愛しさが宿っていた。


そんな秋の様子に気付いた選は、疑問に思い問いかける。


「秋殿、春殿をそんなに見つめてどうしたの?」


「あ、ああ、選君。いや……それが──」


「秋、横に座らせてもらうぞ」


「あ、ああ。どうぞ。選君、この話はまたな」


「? 分かった」


疑問に思いながらも空気を読んで聞かない選なのであった。


秋は隣の春の様子を伺いながら、昨日の事を思い出していた。



秋はいつものように春と二人で晴明の護衛についていた。秋は春ににっこりと微笑みながら小声で話しかける。


「春、今日も可愛いね」


「私は男だ。可愛いと言われても嬉しくない」


「じゃあ、格好良いね。美人だし」


「美人は余計だ」


「春、春。今日は春に贈り物があるんだ。手を出して」


「……カエルを乗せる気ではあるまいな」


「そんな事しないよ。ほら、早く」


「……。良い」


春は手の平を上にして右手を差し出す。

そこに秋は鍵を置いた。


「……? 何の鍵だ?」


「俺の部屋の鍵。俺がいない時でもいつでも入っていいよ」


「な、何故私が秋の部屋の鍵を持たねばならない!」


「俺の信頼の証。ダメか?」


「信頼の証……。ならば私の部屋の鍵も渡さねばダメか?」


「え、いや、それは良いよ。春の事束縛したい訳じゃないから」


「そう……か……。分かった、受け取る」


「ありがとう、春! 愛してる!」


「あ、愛っ……!」


(おや? いつも言ってる言葉なのに、今日は反応が違うぞ?)


春は左手で口を覆うと、秋から顔をそむける。


「春、どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」


「そ、そんな訳ないだろう!」


「いや、でも──」


「秋殿!」


「え? あ、(もも)殿。どうなされました?」


「あのっ、僕、秋殿に言いたい事があって……」


「言いたい事? なんでしょうか?」


「あの……此処じゃちょっと……」


「そうですか。じゃあ春、俺ちょっと外に行ってくるから、晴明様の事頼むな」


「あ、ええ……」


そうして秋と桃は晴明の働く屋敷から出て外に出た。


「それで、話とは?」


「あの……僕……。しゅ、秋殿が好きです! 付き合って下さいませんか!」


「え……。あ、すみません。好きな人がいるので」


「えっ。あ、そうですか……。分かりました。ありがとうございました」


「いえ、こちらこそ」


「じゃあ僕行きます──」


その時踵を返した桃が小石に躓いた。


「わわっ!」


「おっと」


前に倒れかけた桃を秋が背後から抱きとめる。


「秋、晴明様がお呼び──」


「あ、春」


春は扉に手をかけ秋に話しかけたまま固まる。


「……何を……してるんだ……?」


「え。あ、ああ、いや、これは──」


「秋殿の匂い……。僕、幸せです……」


「も、桃殿!? いや、違うんだ春──」


「何が違うというんだ……?」


秋が春の顔を見ると、春は涙を零していた。


「しゅ、春!? どうして泣いてるんだ!?」


「し、知らぬ……! 秋など知らぬ!」


ガラガラッピシャン!


春は扉を閉めて去ってしまった。


「春、春! 待て! あ、も、桃殿、立って下さい!」


「秋殿……。もう少しだけこのままで……」


「こ、困ります桃殿! ほら、立って──」


その後なんとか桃を引き剥がした秋は、すぐに春を追いかけるが春は晴明の護衛を青龍に任せて家に帰ってしまっていた。


(春……泣いてた、よな。まさか俺の事──)



そんな出来事を思い返していた秋。

カキフライを一口食べただけでボーッとしている秋に晴明が声をかける。


「る魔、どうしたのだ?」


「はっ。あ、いえ、なんでもありません」


「秋、そんなに嬉しかったのか? 昨日の事が」


「えっ、春。う、嬉しかったって──」


(確かに嬉しかった。春が俺を好きかもしれないと知って。だから──)


「うん。そうだな。凄く嬉しかった」


「……っ!」


秋が返答すると、春はとても傷ついたような顔をした。


「? 春──」


「ふ、ふんっ! 恋人ができたからと言って、晴明様の護衛で気を抜くなよ!」


「え? 恋人?」


「なんだ、秋。恋人が出来たのか?」


「え、いえ。出来てませんよ、晴明様」


「何を言っている! 昨日抱きしめていたではないか!」


「抱きしめて……。春、やっぱり勘違いしたんだな。そして泣いたんだ」


「勘違い? 勘違いなどしておらぬ! 泣いてもおらぬ!」


「春、聞いてくれ。昨日桃殿を抱きしめていたように見えたのは、桃殿が小石に躓いたからで、決して恋仲になったからじゃない」


「嘘だ! 桃殿は『幸せです』と言っていたではないか!」


「確かに桃殿に告白はされた。だけど俺は春が好きだから断ったんだ」


「……私を、好き……?」


「そうだ。俺は春だけを愛してる」


「…………」


その言葉を聞いて、春は涙を零した。ポロポロと春の頬を涙がつたう。


「うっ……。わ、私は……!」


「ああ」


「秋の事を信頼できる仲間だと思っていた。だが……! 昨日桃殿を抱きしめてる秋を見て、凄く嫌な気持ちになった! 秋の腕の中に居ていいのは私だけだとっ、私以外を秋の腕の中に入れて欲しく無いと思った!」


「ああ」


「だから……っ、私は……私も秋を好きだ……!」


「ああ。ありがとう。愛してるよ、春」


パチパチ……パチパチパチパチ


春が声を張り上げた事によって食堂中の視線を集めていた秋と春に周囲から拍手が沸き起こる。


春は拍手が起きた事により注目されていた事に気付き、両手で顔を覆うのだった。


「うむ、る魔とろ魔が想い合っていたとは知らなかったのだ。良い良い」


「おめでとー、秋殿、春殿〜」


「ああ、ありがとう選君」


「〜〜っ! 秋、私は帰る!」


「おっと、カキフライ食べてから帰れよ」


「嫌だ、帰るー!」


喚く春を周囲は温かい目で見つめるのだった。




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