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遊園地



「晴明様、聞いて下さい! 私、今度の土曜日遊園地に行く事になったのです!」


「遊園地? 遊園地とはどのような所なのだ?」


「えーっと、ジェットコースター……凄く速くて一回転とかする乗り物とか、メリーゴーランド……馬を模した乗り物が回る床についてて、それに乗るやつとか、あと観覧車もあるんですよ! あ、観覧車は人を乗せる箱が沢山ついた水車みたいな形の物で、高い所まで登れて遠くの方の景色まで楽しめるんです。晴明様と行きたかったけど、今回は会社の人と行くからお預けですね。楽しみです、晴明様!」


「そうなのか……。良い良い、楽しんでくるが良い」


「お土産買いますね! 今度行くところは可愛い熊のマスコットキャラが居るので、そのキャラの人形とか! あー楽しみ!」


「良い良い。我、我も千尋と楽しみたいのだ。ついて行っても良いか?」


「え? ついて来るんですか?」


「う、うむ。駄目か?」


「んー、あまり会話出来ませんが良いですか?」


「良い。それで良い」


「では一緒に行きましょう! あ、信治達も行きたいかな。晴明様、信治達にも行くか聞いておいて下さいませんか?」


「分かったのだ。聞いておこう」


「ありがとうございます! あ、でもついて来ても乗り物とか乗れないのではないですか? お金払えないから」


「大丈夫なのだ。霊界の者が下界の施設を利用する時は霊界にお金を払うのだ。だから我らも乗り物に乗れるのだぞ。まぁ乗り物が空いてればの話だがな」


「そうなのですか! ではすいてると良いですね」


「そうなぁ」


その後晴明が子供達に遊園地に行くか聞き、結局晴明、信治、愛香、選も一緒に行く事になったのだった。



遊園地へ行く当日。



「おはようございます高田さん! 伊藤さん!」


「おはようございます、桜井さん」


「おはようございます〜」


「今日は晴天で良かったですね! じゃあチケット売り場に行きましょうかー」


「「はーい」」


そうして一日フリーパスを買った千尋達は、遊園地の入り口へと向かった。


「む、信治、愛香、選。ここは我が払っておくからな。気にするでない」


「ありがとう、父さん」


「助かるわ、父様」


「ありがとー、父さん」


「良い良い」


一日フリーパスと同じ金額を四人分霊界に払った晴明は、子供達を引き連れて千尋を追いかける。


「む、千尋達はまずあの行列に並ぶようだな。我らも並ぶのだぞ」


「うん。これって何の乗り物かな」


「あれじゃない? トロッコみたいなやつ。ここまで叫び声が聞こえてくるよ」


「そうね、楽しそうだわ」


「うむ、席が空いておると良いなぁ」


そうして列が進んでいき、千尋達の番になった。千尋達が二人と一人に別れて乗ったため一人分の空席が出来、そこに晴明が座り、その後ろに所々空いた席に信治達が乗る。晴明達は安全バーを霊体化させてお腹まで下げ、固定させた。


「それでは出発致しまーす、いってらっしゃーい!」


トロッコのようなジェットコースターがゴトゴトと上り坂を登る中、晴明は千尋に話しかける。


「千尋、これはどこまで登るのだ?」


(晴明様、あと少しで落ちますよ〜)


「落ちる? 落ちるとは──」


晴明が言いかけた時、ジェットコースターは下り坂に入る。


「きゃああああ!」


「ち、千尋!? 千尋、大丈夫か、千尋ぉ!」


(あ、大丈夫ですよ晴明様! 叫んでストレス発散してるだけなのです! たーのしー!)


ジェットコースターは一回転のコースに入る。


「きゃああああ! あっはっは、たーのしー!」


「ち、千尋……我目が回りそうなのだ……」


「あっはっはっはー!」


絶叫系に乗ると楽しくなってしまうタイプの千尋は、晴明の言葉が聞こえていないのだった。


ジェットコースターを降りた千尋達は、次の場所へと移動し始めた。


「信治、どうであった? 楽しめたか?」


「うん、凄く楽しかったよ父さん。景色がぐるぐる変わって……速いのは瞬間移動で慣れてると思ってたけど、瞬間移動は一瞬だからこのジェットコースターの速さがかえって新鮮だったよ」


「私も楽しかったわ、父様」


「僕酔いそうだったよう、父さん〜」


「良い良い。大丈夫か、選。酔うても吐くでないぞ、気をしっかり持つのだ」


「うん〜」


そうこうしているうちに千尋達は次のアトラクションへと並んでいた。


「お、千尋達は次は何処に並んだのだ?」


「なんだろう、カップが沢山回ってて……カップ自体も凄い勢いで回ってるね」


「父さん、僕あれ酔いそうだよ〜」


「良い、選。酔わぬように術をかけてやろう」


晴明は右手の人差し指と中指を立ててそれ以外の指を握ると、選の額に指を滑らせた。


「これで良し。選、これで酔わぬであろう」


「ありがとう、父さん」


「良い良い」


しばらくして千尋達の番になると、千尋達は三人でコーヒーカップに乗り、晴明は選と、信治は愛香と乗った。


「それでは始まりまーす!」


コーヒーカップが回り始めると、千尋達は交代しながらカップを高速で回す。

晴明達はさすがに実体のある物には触れられないので、コーヒーカップの自然な回りを楽しむ事になった。


「父さん、このカップ面白いね〜」


「うむ、予想がつかぬ動きで面白いなぁ」


次第に回りが収まり、千尋達を見てみるときゃあきゃあと楽しそうに笑っていた。見れば信治達も楽しげに笑っている。


カップが止まり、降りたというより入り口を通り抜けた晴明達は信治達と合流し、また千尋達を追いかける。


次に千尋達が向かった先はおどろおどろしい看板を掲げた建物であった。


「何何……。お化け屋敷? へー、楽しそうだね」


「お化けが出て来るの? 信治にぃ」


「本物のお化けじゃないよ選。多分怖くないよ」


「そっかぁ」


「どれ、千尋達に続いて入るのだぞ。行くぞ」


晴明達は千尋達に続いて中に入る。


ヒュ〜ドロドロ……


千尋達はお互いにしがみつきながら前へと進む。

すると背後から白い着物を着た髪の長い人物が「わぁぁあ」と声を出して襲いかかってきた。


「きゃあああ!」


「うわ、ビックリしたー愛香ねぇ、驚かせないでよ」


「だ、だってだって……この人血まみれよ!」


「血糊だよ愛香。それにしても母さん達、というか母さん、笑って喜んでるね」


「う、うむ。まぁ千尋は心霊現象には慣れておる故、こういうのも面白く感じるのであろう」


「母さーん、怖くないー?」


選が千尋に尋ねると、(たーのしーい!)と返ってきた。


「母さん楽しいって。愛香ねぇ、そんなにしがみつかないでよ」


「せ、選は怖くないの!?」


「別に。本物じゃないし。本物の幽霊はもっと顔面が歪んだ人とかいるしね」


「そう……」


そうこうしている内にも急に音がなったり何処からか叫び声がしたりしている。


すると突然横の扉から突風が吹き付けてきた。千尋達はきゃあきゃあ言うが、晴明達は風が身体を通り抜けるので大して驚かない。


「あ、父さん。あそこにお札が貼ってあるよ。どんな札かな」


「む、あれは……特に意味をなさぬ札のようだな」


「そっかぁ。勉強になるかと思ったんだけどなぁ〜」


突風ゾーンと無意味な札ゾーンを抜けると、両側に障子が続く場所になった。

そしてある場所へ通りがかると、両側の障子の所から何本もの手が飛び出してくる。


「きゃあああ!」


「あっはっはっはー!」


愛香の叫び声と千尋の笑い声がその場にこだまするのだった。


お化け屋敷を出た一行は、お昼を食べにレストラン街に向かう。


「ねぇ父さん、僕たちは何食べるの?」


「うむ、あらかじめ千尋が出して固定保存結界をかけてくれていた物があるのだ。それを食べよう」


「分かった〜」


千尋達がレストラン街に着くと、千尋達はまず料理を注文して受け取ってから席に座る。晴明達も千尋達の近くの空いてる席に座り、晴明が袖にしまっていた料理を出していく。


「父さん、これはピザだよね? それとこれはカレー、これはチキンの煮込み、これはハンバーガー……。なんだか国際色豊かだね」


「そうなのだ。なんでもここの遊園地のレストラン街は国際色豊からしくてな、我らも好きな物が食べれるようにとの千尋の配慮なのだ。どれ、食べるとしよう」


『いただきまーす』


そうしてしばし晴明達と千尋達は昼食を楽しんだ。


その後千尋達はエレベーターの高速で上下する版(景色がよく見える)に乗り、千尋はきゃーきゃー叫びながらも笑い声を上げ、晴明は「我……高い所は苦手なのだ」と呟いていた。


そしてメリーゴーランドに乗り、水の中に勢いよく落ちていくジェットコースターに乗り、水上をゴンドラに揺られ景色を眺めたりしている内にあっという間に夕方になった。


夕焼けが見え始めたところで千尋達は観覧車に乗る事にした。晴明は当然のように千尋達と一緒に乗り、信治、愛香、選は三人で他の箱に乗る事にした。


千尋達はゆっくりと上がっていく観覧車にはしゃぎながらも話題は恋愛の話になる。


「ねぇねぇ桜井さん、桜井さんは好きな人いないの?」


「えっ。えーと、私は居ないですかね……なかなか良い人に巡り会えなくて……。そういう高田さんは彼氏さんと結婚とかの話は出てないんですか?」


「私の方は結婚のけの字も無いわよ〜、いつかちゃんとプロポーズしてくれるのかしら。伊藤さんはどうなの、好きな人いるの?」


「私も居ませんね〜、でも良いんです! 私は推しの為に生きますから!」


「推し? 誰のこと?」


「舞台俳優の櫻木晶馬君です! もーイケメンなんですよ〜! あ、写真見ますか?」


「見る見る〜!」


「見せて下さい! ……わー、イケメンですね〜!」


「千尋、そやつは我よりイケメンなのか!? 我、嫉妬するのだぞ!」


(晴明様……晴明様の方がイケメンですよー!)


「そうか、良い良い」


こうして女子トークの中に男が一人混じる(ただし千尋にしか聞こえない)というカオスの中、千尋達は観覧車の頂上にきた。


「わー、夕陽綺麗ですね〜」


「本当ね〜」


「本当ですねー」


「千尋、千尋」


(なんですか? 晴明様)


「千尋……夕陽に照らされる千尋はいつもよりも美しい……我の千尋……愛しておるぞ……」


それを耳元で聞いた千尋は、夕陽に照らされているからではなく顔が赤く染まるのだった。


(も〜、晴明様ったら! 耳元は反則ですよ! 私も愛してますー!)


「良い良い」


こうして図らずともじゃねーよ君と練習したシチュエーションで千尋と晴明は愛していると言い合うのだった。


降りた後。


千尋達は混む前にと早めの夕食をとる事にした。再びレストラン街へと向かう。


「父さん、観覧車高くて怖かったよ〜。父さんも怖かったでしょう?」


「む、うむ……我は観覧車は平気だった、なぁ」


「えーそうなの。じゃあ怖がってたのは僕だけかぁ」


「良い良い」


「父さん、夕食はまた母さんが出しておいた物を食べるの?」


「いや、夕食は未来の千尋がお弁当を作ってくれたからな。それを食べるのだ」


「そう。柚子胡椒の炊き込みご飯、あるかなぁ」


「あるであろう。我らの好物を詰め込んだと言うておったからな」


「そっか。楽しみだね、愛香、選」


「ええ」


「うん」


そして千尋達はレストラン街で、晴明達はベンチでそれぞれ夕食をとった。


夕食の後は千尋達はお土産を買い、「閉園時間まで乗りまくるぞ!」と絶叫系巡りをするのだった。


「じゃあまた会社でね、桜井さん! 今日はありがとう!」


「ありがとうございました〜」


「こちらこそ、ありがとうございました! ではまた会社でー!」


そう挨拶して千尋達は電車の改札前で別れた。


(今日は楽しかったなぁ……可愛いお土産も買えたし。晴明様ー、信治ー、愛香ー、選ー! 楽しかった〜?)


「うむ、なかなか楽しかったのだ」


「楽しかったよ、母さん。俺、将来建築家になれたら霊界に遊園地造りたいな」


「楽しかったわ、母様!」


「楽しかったよ〜」


(良かった! もし信治の夢が叶ったら私が成仏しても霊界で遊園地に行けるかもしれないんだね! 楽しみだなぁ〜)


「頑張るよ、母さん」


こうして千尋達は遊園地を満喫したのだった。





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