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声の神様



「母さーん」


「せーん!」


「母さーん」


「せーん!」


「……ねぇ母さん、いつまでこれやるの?」


「えへへ、なんか選と会うの久しぶりな気がするから感動の再会ってのをやりたくて。ごめんね、選」


「良いけど……。それより母さん、僕の悩みを聞いてよ」


「あ、うんうん! どうしたの?」


「僕……声変わりはあったけど声高い方でしょう? どうにかして声もっと低くできないかな」


「声を低く、かぁ……。私は今の選の声好きだけど、それじゃ嫌だって事だよね?」


「うん。信治にぃみたいに低くて格好いい声になりたいんだ」


「そっかぁ。うーん、そうだなぁ……。声の神様にお願いしてみる?」


「声の神様に? どうやってお願いするの?」


「私が扉を繋いでみるから、そしたら直談判だよ!」


「そっかぁ。分かった。繋いでくれる?」


「良いよ〜。えーと、声の神様って念じて……。声の神様ー!」


バンッ(霊界と下界を繋ぐ扉)


「…………」


「あれ? 繋がんなかったかな……。選、扉開いてる?」


「うん、開いてるよー。どれどれ……。あ、誰か居るよ」


「そう。声の神様、声の神様〜?」


「…………」


「あの〜、貴方は声の神様ですか?」


「…………」


「選、全然聞こえないんだけど、誰か喋ってる?」


「ううん、喋ってないよ。こっちを見てるから気づいてはいると思うけど……。すみませーん、貴方は声の神様ですか?」


コクコク


「あ、頷いたよ母さん。あの〜、なんで喋らないんですか?」


声の神様は自分の喉を指差すと、手を合わせて組み恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべる。そして真顔に戻るとコクコクと頷く。


「へー。母さん、声の神様は声を出しちゃうとその声に皆恍惚としちゃうから喋れないんだって」


「ええ? そんなに良い声なの? それは是非聞きたいところだけど、まぁそれは置いといて。選、お願いしてみよう!」


「うん。声の神様、お願いです、僕の声をもっと低くしてください!」


声の神様は暫く考えた後、ブンブンと首を横に振る。


「駄目なのですか? 何故なのです?」


声の神様は右手を左上に持ち上げ、手の平を下にすると右下の方へ階段のように動かしていく。


「段々? あ、段々低くなる? え? 僕まだ声変わり終わってないのですか?」


声の神様はコクコクと頷く。


「母さん、僕まだ声変わり終わってないんだって!」


「そうなの!? 選! じゃあ自然ともっと低くなるんだね! 良かったね、選!」


「うん! 声の神様、ありがとうございました」


声の神様はコクコクと頷くと、バイバイと言うかのように手を振る。


「さようなら、声の神様」


バタンッ


「良かったね、選。これからが楽しみだね」


「うん〜。僕、未来ちゃんに報告してくる。またね、母さん」


「またねー。……声の神様の声、聞いてみたい……! どうする私。声フェチの本能が疼く……!」


ブンブン


「なぁに海。声を聞くくらい良いじゃない。ただ美声に癒されるだけ! 海だって信治の声聞くと癒されるでしょう?」


海は首を傾げた後、ウンウンと頷く。


「どうにかして声の神様の声を聞かねば……! うーん、どうしよう……とりあえず食べ物で釣ってみる?」


ウンウン


「良し! じゃあ明日扉開こう!」


そうして『声の神様の声を聞こう大作戦』は始まったのだった。



次の日。



バンッ


「声の神様ー! ……っても視えないんだよね。海、声の神様と同じ仕草して〜」


海はウンウンと頷くと、首を傾げる。


「声の神様、私声の神様の食べたい物なんでも出せますよ! 如何です?」


海は反対側に首を傾げる。


「食べ物をあげるかわりに、少しだけお声をお聞かせいただけませんか?」


海は首を横にブンブンと振る。


「少しで良いんです。一言だけ! お願いします!」


尚もブンブンと首を横に振る。


「じゃあー、お着物を造って差し上げます! どうですか?」


首を横に振る。


「じゃあなんでもお好きな物を仰って下さい!」


「…………」


海は声の神様のテレパシーを聞くと固まる。


「ん? 海、どうしたの?」


尚も固まる海。


「海? おーい、え? 声の神様が固まってるの? それとも何かあったの?」


その問いかけを聞いて、海は首を高速で横に振る。


「え? 何? どうしたの?」


バンッ


「母さん!」


「な、何信治。どうしたの?」


「海が母さんを止めてくれってテレパシーを送ってきたんだ。母さん何してるの?」


「や、やだなぁ信治。何もしてないよ。ちょっと声の神様とお話してただけ」


「声の神様と? ……母さん、声の神様の声を聞いたの?」


「聞いてないけど……」


「そう。声の神様はその声で百発百中、老若男女問わず落としてきたからね。聞かない方が良いよ」


「私は晴明様一筋だから、大丈夫だよ信治。信治だって杜姫美ちゃん一筋だもの、声の神様の声を聞くくらい平気でしょ?」


「う、うん。確かにそうだけど……」


「じゃあ私は聞くよ、声の神様の声を。ねー海」


ブンブンブンブン


「え? もしかして海、声の神様の声を聞いたの?」


ウンウン


「で、落ちちゃったの?」


海は首を傾げる。そして頷いた。


「ねぇ信治、声の神様って男性? 女性?」


「男性だよ母さん。一見女性に見えるけどね」


「海、男性だって。男性だけど好きなの?」


海は首を左右に傾げ、悩んだ末、首を横に振った。


「そう、そこで性別なんて関係ない! って程落ちちゃったのなら声を聞くのを躊躇うけど、それくらい理性が残ってるなら私でも聞いて大丈夫そうだね。ところで声の神様はなんて言ったの?」


海はウンウン頷く。


「携帯、だそうだよ母さん。なんで携帯?」


「それは、なんでもお好きな物を仰って下さいって言ったからだよ。声の神様、携帯を差し上げれば声を聞かせて下さいますか?」


海はウンウンと頷く。


「では……あ、信治も声聞く?」


「う、うん。聞くよ母さん」


「じゃあー、携帯……固定保存! はい、どうぞ、声の神様!」


「……ありがとう」


「わぁ、とっても素敵な声! 中性的で、可愛くもあって格好良くもあって……。ね! 信治!」


「…………」


「信治? しーんーじ! どうしたの?」


「はっ! あ、ああ、母さん。聞き惚れてしまったよ」


「え! 惚れたの!?」


「違うよ母さん、聞き惚れた、だよ。惚れてはいないよ」


「あ、そ、そう。良かった。声の神様、お聞かせ下さってありがとうございました。その携帯は自由に使えますから、使い方が分からなかったらいつでも聞いて下さいね〜」


「うん」


こうして声の神様の声を聞く事が出来た千尋は、声の神様の声を聞いても固まらない稀有な存在として声の神様に気に入られ、そして千尋が携帯の使い方を教える内に仲良くなり、千尋は声ちゃんと呼ぶまでの仲になったのだった。


そんなある日。


「ねぇねぇ声ちゃん、声ちゃんって好きな人いるの?」


「うん、いるよ」


「えー、どんな人? 男性? 女性?」


「男性……。成仏担当の人なんだけど……」


「そうなんだね! 声ちゃんなら声を聞かせれば落ちるんじゃないの?」


「僕……声だけじゃなくて、僕自身を見て欲しいんだ。だから声は結婚するまで聞かせないよ」


「そう、そうなんだね。その人が男性が好きか女性が好きかは知ってるの?」


「うん。男性が好きみたい」


「そう、じゃあチャンスだね! 思い切ってデートに誘ってみたら?」


「デート……。何処が良いかな……」


「うーん、霊界にあるデートスポットってどんな所があるんだろ?」


「デートスポット……。僕、知らない……」


「そうだなぁ。晴明様に聞いてみる?」


「晴明様……。うん。聞く」


「良いよ〜。晴明様ー!」


バンッ(霊界と下界を繋ぐ扉)


「どうしたのだ、千尋」


「晴明様、霊界のデートスポットを教えて下さい!」


「デートスポット? 何故なのだ?」


「声ちゃん……声の神様にお教えするのです!」


「そうなのか。うむ……。そうなぁ、回転寿司屋が良いのではないか?」


「回転寿司屋さん……。私が前に創った所ですか?」


「そうなのだ。とても人気なのだぞ」


「そうですか! ありがとうございます、晴明様」


「良い良い。ではまたな、千尋」


「はい!」


バタン


「回転寿司屋だって、声ちゃん!」


「うん……。明日誘ってみるよ」


「頑張って! 声ちゃん!」


「ありがとう」



一週間後。



「千尋ちゃん」


「あっ、声ちゃん! どうだった? 誘えた? デート」


「うん、もう行ってきたよ。それで僕……回転寿司屋さんで働きたいと思って……」


「ええ!? 何がどうしてそうなったの!?」


「なんだか急に人手が足りなくなったとかで持ち帰り用のお寿司を売るのを手伝ったんだ。そしたらなんだか楽しくなっちゃって……」


「え? お寿司を握った訳でもないのに?」


「うん。それもしてみたいけど……。僕、回転寿司屋さんで働きたい」


「う、うーん。でも、声の神様は声ちゃんにしか出来ないでしょう?」


「僕がしてる事なんて下界の人間の声を決める事くらいだし……。あとは霊界に来た人間の声を変えたりとか……。僕じゃなくても……」


「いやいや、それだって大変な仕事だよ。声ちゃんにしか出来ないって! 考え直して、声ちゃん!」


「僕……僕……! 嫌だよ千尋ちゃん、僕は回転寿司屋さんで働くんだ!」


「声ちゃん……。うーん、じゃあ、一週間! 一週間お試しで回転寿司屋さんで働いたら? その間は未来の私が声の神様をやるからさ!」


「一週間……? うん、分かった。じゃあ僕、一週間回転寿司屋さんで働く」


「良いよ、じゃあ晴明様と未来の私には話しておくから、明日からね!」


「うん」


五日後。


「千尋ちゃん、僕もう辞めたい……」


「どうしたの、声ちゃん。大変なの?」


「魚を捌くのを任されたんだけど……僕、魚の目がこわいんだ。捌けないよ……」


「そうなの。じゃあ仕方ないね、回転寿司屋さんは諦めよう!」


「うん……」


「じゃあ明日からまた声の神様に戻ろうね! 私達には言っておくから。それはそうと声ちゃん、好きな相手とはどうなったの?」


「うん……僕が働く姿を見て惹かれたって言って、付き合う事になったよ」


「そうなの! 良かったね〜。まぁ結果オーライだね! 早く声ちゃんの惚気聞きたいな〜」


「僕……千尋ちゃんと友達で良かった。貴重な体験が出来たよ。これからも宜しくね」


「うん! 宜しくね!」


こうして声の神様は回転寿司屋を体験し、恋人を得たのだった。





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