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婚儀




「アップルパイ、アップルパイ、アップルパイ♪」


「良い良い」


「サクサクで、美味しいよ、アップルパイ♪」


「良い良い。千尋ー、それはどんな歌なのだー?」


「うーん、アップルパイの歌ですかね〜」


「そうか。アップルパイとやらはサクサクで美味しい物なのか?」


「そうですよ、パイ生地がサクサクしてて、りんごがしっとりしてて美味しいんです。うーん、歌ってたら食べたくなってきた! アップルパイ、アップルパイ、アップルパイ♪」


「良い良い。では買ってくれば良いのではないか?」


「うーん、近所に売ってるところがないんですよね……。作ってみようかな〜」


「作るのか? 我、千尋の作ったアップルパイが食べたいのだぞ」


「そうですか〜、分かりました、作ってみましょう! じゃあ私はレシピを調べて、材料買いに行ってきますね!」


「良い、良い」



──数時間後──



「出来た〜! 晴明様、出来ましたよ!」


「良い。おぉ、綺麗な花の形をしておるな。これがアップルパイなのか?」


「普通は花の形をしてないんですけど、レシピ検索したら簡単で可愛いアップルパイがあったんでこれを作ってみました。甘さ控えめにしてありますよ! ささ、晴明様、食べてみて下さい!」


「うむ。いただきます。……もぐもぐ……。うむ、美味い! 美味いのだぞ千尋!」


「そうですか、良かった! では私も……いただきまーす」


「待って千尋ちゃん! その前にSNSにアップしないと!」


「え? みさと……。いつの間に来たの? というかSNSって、確かに上げたくなる出来栄えだけど……。みさと、SNSやってるの?」


「うん、やってるよ。と言っても霊界で携帯を持ってる人は少数だから、主に下界の人達の投稿を見てるんだけどね。情報屋は情報が命だからね!」


「そうなんだー、なるほどね。じゃあ私もアップしよ〜」


「ふむ……。千尋、我、何がなんだか分からぬのだが……」


「うーん、まぁ公開日記みたいな物ですよ」


「日記を公開してどうすると言うのだ?」


「その日記が良いなと思えば良いね! って気軽に言えるというか……。とにかく、楽しい物なのです」


「そうか……。我も千尋の日記、見たいのだぞ」


「うーん、ではイメージで晴明様の携帯で私のSNSが見れるようにしてみますか」


「良い」


そうして晴明の携帯で千尋のSNSを見れるようにして、アップルパイの写真をアップした後、ようやく千尋はアップルパイを口にした。


「ん〜、サクサクで美味しい! あ、みさとも食べてよー」


「うん! ありがとう千尋ちゃん!」


「食べるのは良いが、みさとは何か用事があったのではないのか?」


「あっ、そうでした晴明様! あのね晴明様、千尋ちゃん、にゃんじろうが旅行に行きたいって言ってるんだけど、三日間くらい信治君から離れても大丈夫かな? って聞きに来たの!」


「何? 三日間もか? ふむ……それは危険だな。十二神将の誰かをつけるか」


「春殿か秋殿をつけても良いのでは? 私には守人様もいらっしゃいますし」


「うむ……。そうなぁ、信治に選ばせるとしよう。して、それはいつから行くのだ?」


「明後日からです」


「急であるな。良い、今日の夜にでも信治に聞いておこう」


「ありがとうございます、晴明様! ではアップルパイを食べます。もぐもぐ……うーん、おいふぃよぉ」


「む? はて、最近何処かで聞いたような……」


「どうされたのです、晴明様」


「いや……気のせいかもしれぬ。良い良い。そうだみさと、旅行は何処に行くのだ?」


「もぐもぐ……ごくん。それがにゃんじろうが秘密だって言って教えてくれないのです。何処なんでしょうね」


「そうなのか。それは楽しみだなぁ。良い良い」


「あっ、千尋ちゃん、これ持って帰っても良い? にゃんじろうと母さんにもあげたいんだ」


「良いよ〜、沢山持って帰って!」


「ありがとう千尋ちゃん。お礼にお土産沢山買ってくるからね」


「あはは、私は食べれも触れもしないし、お土産話だけで充分だよ。楽しんで来てね、みさと」


「分かった、沢山話せるように楽しんで来るね!」


そうして二日後、みさとはにゃんじろうと旅立った。



それから三日後。


「ただいま〜、千尋ちゃん!」


「おかえり、みさと! 旅行、どうだった? 何処に行ったの?」


「楽しかったよ千尋ちゃん! 場所は……マレーシアだったよ!」


「えっ、マレーシア!? まさかの海外!? へー、どんな所だった?」


「うん、首都のクアラルンプールって所は凄く栄えてて、ペトロナスツインタワーってタワーはとっても高くて、首を限界まで上げてもてっぺんが見えないの! でも首都からちょっと離れると高い建物が無くてね、空が凄く広く感じてね。それでチョコレートがとっても美味しくて、マレーシアなのに抹茶のチョコもあってね。ドリアン味とか辛いチョコもあるんだけど。それに多民族国家だから色んな人種の人が居て、料理も中華っぽいものからカレーみたいなアジア料理まであって、カレーは手で食べたりするんだけど、左手は『不浄なもの』とされてるから必ず右手で食べなきゃいけないんだって。それでね、旅行の終わりに海辺で夕日を見てたら、にゃんじろう……藤次郎が跪いてーー」


「跪いて……?」


「『俺と共に人生を歩んで欲しい。共に喜びを分かち合い、苦しみを乗り越え、支え合えるような関係になりたい。俺と(つがい)になってくれ!』って……」


「きゃー、いきなりプロポーズ!? それで、みさとは何て返事したの!?」


「うん……。『僕は弱くて、藤次郎が居ないと一人で立てないんだ。だから……宜しくお願いします』って」


「おおぉお〜、オッケーしたんだね!?」


「うん、そうだよ」


「やっと……やっとこの時が……! 籍はいつ入れるの!? 結婚式は!?」


「籍は今度の信治君のお休みの日に入れる予定なんだ。式は今の所未定だけど……」


「そうなんだね! 式は挙げようよ! 私沢山美味しそうな物イメージで造るからさ! あ、着物も造るよ!」


「うん……ありがとう千尋ちゃん。じゃあにゃんじろうと相談するね」


「良いよ〜!」


こうしてみさととにゃんじろうは結婚する事が決まったのだった。



婚儀の日。


「料理もありったけ出して固定保存結界張ったし、会場も確保したし、晴明様が人員の確保もした。可愛いウェディングケーキも造ったし、紋付袴も造った。うん、完璧! みさとー、袴のサイズどう〜?」


「ぴったりだよ千尋ちゃん。花柄の紋付袴なんて僕に似合うか不安だったけど、結構着こなせるものだね」


「みさとは可愛い顔してるから、華やかな袴が似合うよ〜。藤次郎様はシュッとした顔してるから、シンプルに紺の袴ね。かっこいいだろうな〜藤次郎様。みさと、会うの楽しみだね」


「そうだね千尋ちゃん。じゃあ僕そろそろ行くね」


「いってらっしゃいみさと! 未来の私が行くから、宜しくね」


「うん」


そうしてみさとは会場である雅泉の屋敷へと向かった。


ピンポーン


「やぁ、みさと殿。皆さんお待ちかねだよ」


「今日はありがとうございます、雅泉様。お邪魔します」


「良いよ。こちらだ」


みさとは雅泉に案内されて大広間の前へと来ると、ゴクリと唾を飲み込む。


「さぁ、入るよ」


「はい!」


「新夫の登場だよ、皆さん!」


雅泉は障子に手をかけると、一気に開け放つ。


『わー!』


パチパチパチパチ


みさとが雅泉に先導されながら大広間へ入ると、歓声が上がり拍手が起こる。


人々の座る一番奥に藤次郎の姿を見つけたみさとは、凛とした姿に見惚れながら藤次郎の元へと足を進める。そして藤次郎の隣へ着くと、この日の為に集まってくれた人々へと一礼して席に座った。


「それではこれより婚儀を始める。まずは藤次郎殿、みさと殿の杯に酒を注いでおくれ」


「分かった」


藤次郎はみさとが持った杯に酒を注ぐ。


「次に、みさと殿。藤次郎殿の杯に酒を」


「はい」


みさとは緊張して手が震えながらも、藤次郎の杯に酒を注ぐ。


「良いよ。では、双方注がれた酒を飲み干してくれ」


二人は目を合わせると、同時に酒を(あお)る。


「ごくっごくっ……ぷはーっ、甘くて美味しい……」


「桜のお酒だよ。私の秘蔵の酒なんだ。さて……これにて、みさとと藤次郎は晴れて婚姻した事となった。ここにいる皆が証明者だ。皆、盛大な拍手を!」


『わー!』


パチパチパチパチ


「良い。では、藤次郎殿から乾杯の音頭を」


「分かった。皆、今日は俺達の為に良く集まってくれた。感謝する。困った事があれば俺達夫婦が協力する。気軽に頼ってくれ。それじゃあ、今日は楽しんでいってくれ! かんぱーい!」


『かんぱーい!』


そして皆が飲み物を一口飲むと、ワイワイと各々料理に手をつけ始める。


「みさと、藤次郎様! おめでとーう!」


「あ、千尋ちゃん。ありがとう。今日は楽しんでいってね。といっても、千尋ちゃん達のおかげでこの婚儀が出来たんだけど……」


「いーのいーの、みさと達は大切な人だもの! 盛大に祝いたかったし! ね、晴明様!」


「うむ、二人にはいつも助けられておるからな。当然の事なのだ」


「ありがとうございます、晴明様」


「藤次郎、おめでとう」


「ありがとうな、信治。お前と早く酒を飲み交わしたいものだな」


「俺もだよ藤次郎。藤次郎、これ……。二人で使って」


信治は片手に乗るくらいの包みを藤次郎に渡す。


「なんだ? 開けて良いか?」


「うん、良いよ」


藤次郎が包みを開けると、そこには一本の紅い紐があった。


「これは……世界樹様に結ぶ紐か?」


「うん、そうだよ。気が早いかとも思ったんだけど、いずれは必要かなと思って」


「ああ、そうだな。有り難く使わせてもらう。ありがとな」


「うん」


「藤次郎様ー、みさとー、おめでとー!」


「おめでとう、二人とも〜」


愛香と選も二人に祝言の言葉をかけにきて、安倍一家と藤次郎達はしばし談笑するのだった。



数時間後。



パンパン!


雅泉が皆の注目を集めるように手を叩く。


「はーい、皆、そろそろお開きの時間だよ。それではみさと殿、締めの言葉を」


「は、はい! えーと、皆さん、今日は僕達の為に本当にありがとうございました! とっても楽しい時間を過ごせて幸せです。これからの皆の幸せを祈りまして、締めの言葉とさせて頂きます」


「良いです。では皆さん、これにて解散!」


その言葉を聞いた者達は、ガヤガヤと玄関へと向かっていく。

その光景を見ながら、みさとは藤次郎に話しかける。


「藤次郎、これからも宜しくね」


「ああ、愛してる……みさと……」


二人は顔を見合わせて、幸せそうに微笑むのだった。




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