抱き枕
「晴明様、見てください!」
「なんだ? 千尋」
「じゃじゃん! 『僕を抱きしめて!』シリーズのトラにゃんですよ〜!」
そう言うと千尋はトラ猫を模した抱き枕を見せる。
「ふむ、こやつはトラにゃんと言うのか? うむ、可愛いなぁ。これは買ったのか?」
「いえ、昨日まで地元に帰省していたでしょう? その時友達から誕生日プレゼントとして貰ったんです」
「何? 千尋の誕生日は三月であろう?」
「お盆は会えなかったから、今回くれたんですよ〜。にしても本当に可愛い! トラにゃん〜。ぎゅーっ」
「千尋……。わ、我、そのトラにゃんに浸透するからな、我をぎゅーっとして欲しいのだ」
「あっ、良いですよ。じゃあどうぞ」
「うむ」
スッ
晴明はトラにゃんに自身の身体を浸透させる。
「じゃあ晴明様……ぎゅーっ」
千尋は晴明が浸透したトラにゃんを抱きしめる。
「千尋……。ぎゅーなのだ」
晴明も千尋の背中に腕を回し、二人はしばし抱きしめ合うのだった。
夜。
「海ー、デンデンッデンデンデンデンッ」
千尋は布団に横になりながらトラにゃんの顔を自分の顔面に近づけていく。
海はドアップのトラにゃんの顔が怖いのか、首を仰け反らせブンブンと首を横に振る。
「デンデンデンデンッちゅーっ」
千尋は海の反応を楽しみつつ、トラにゃんの鼻と自分の鼻をくっつけ鼻チューする。
ブンブン
「あははっ、海ー、鼻チューだよ〜」
ブンブン
「なんだ、千尋。海と遊んでおるのか?」
「あ、晴明様。そうなんです。海ってばトラにゃんを顔に近づけると面白い反応をするんですよ」
「そうなのか。良い良い。海、今夜からは我トラにゃんに浸透して千尋に抱きしめられながら寝るからな。面白い反応をするのも良いが、千尋が寝るのを邪魔するでないぞ」
ウンウン
「抱きしめればトラにゃんの顔は見えなくなりますから大丈夫ですよ。にしても海、このかわゆいトラにゃんの顔の何が怖いの?」
海は首をかしげると、ウンウン頷く。
「晴明様、なんて言っているのです?」
「目が死んでる所が怖い、だそうだ」
「め、目が死んでる……。まぁ黒目しかないけど、つぶらな瞳で可愛いじゃない」
ブンブン
「怖い物は怖い、だそうだ」
「そっかぁ、まぁ誰しも苦手な物はあるよね。しかも海はまだ十六歳だしね〜」
ウンウン
「そうだ海、縁との事を報告しなかった事は問題なのだ。良いか、海。千尋が仲良うしている男に少しでもやましい気持ちがある者がおればすぐに報告するのだぞ」
海は首をかしげる。
「やましい気持ちを持つ人なんていないよ、か……。確かに縁はやましい気持ちは無かったようだが、必要以上に仲良うしている事が問題なのだ。男というものは狼なのだぞ」
「晴明様、男が狼って……誰に聞いたのです?」
「サクトなのだ」
「サクト……晴明様にそんな知識を……」
海は首をかしげた後、何かに納得したかのようにウンウンと頷く。
「分かれば良いのだ。どれ、寝るのだぞ千尋」
「あ、ええ……。ではトラにゃんに浸透して下さい、晴明様」
「良い」
そうして千尋は晴明(トラにゃん)を抱きしめながら寝るのだった。
次の日の朝。
「ん……。ふわぁ〜あ。朝か……。晴明様、晴明様?」
「む……。おはようなのだ、千尋」
「おはようございます、晴明様。私……晴明様を抱きしめてる安心感で、いつもよりぐっすり眠れた気がします」
「そうか、良い良い。我も千尋に抱きしめられてる心地良さで良く眠れたのだ」
「それは良かった! トラにゃん様様ですね〜」
「良い良い。では千尋、仕事の準備をするのだ」
「はい!」
そうして千尋は仕事の準備をすると、玄関で靴を履く。
「それではいってまいります、晴明様。晴明様もお仕事頑張って下さいね」
「良い。いってらっしゃい、千尋」
ちゅっ
千尋と晴明はいってらっしゃいのキスをすると、それぞれの職場へと向かった。
帰宅後。
「母さーん」
「どうしたの、選」
「母さん、僕も『僕を抱きしめて!』シリーズのにゃんこ欲しいよ〜」
「選は愛座右衛門と毎晩一緒に寝てるんじゃなかったの?」
「そうなんだけど、愛座右衛門は抱きしめられないじゃないか。僕もぎゅーって抱きしめられる物が欲しいんだ。それに『僕を抱きしめて!』は下界で大人気なんでしょう? 僕も欲しいよー」
「そうなの。じゃあイメージで造るか〜。選は何にゃんこが良い?」
「僕は灰色にゃんこが良いなぁ」
「了解! むむむ……固定保存! 出来てる? 選」
「うん、可愛いよ〜」
「良し良し。信治達も欲しがるかな? 造っておくか!」
そうして千尋はハチワレにゃんこと靴下にゃんこを造ると、信治と愛香を呼ぶ。
「なぁに、母さん」
「どうしたのよ、母様」
「うん、二人に抱き枕をプレゼントするよ! 好きな方を選んでね!」
「抱き枕って……母さんの目の前にある奴?」
「そうだよ〜」
「可愛いね。俺はこの靴下にゃんこが良いかな」
「じゃあ私はハチワレにゃんこで良いわ」
「良いよ〜。じゃあ今日はみんなで寝ようか! 選、愛座右衛門と晴明様連れてきてー」
「良いよ母さん。じゃあちょっと行ってくる」
そうして選は愛座右衛門と晴明を連れてきて、狭い千尋の部屋で皆仲良く寝るのだった。




