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あっきー




俺は明。今日は俺の守護してる下界の人間──千尋を見に来た。何か用があるのかって?

あると言えばある。千尋の感情が悲しみに染まったと感じたから、様子を見に来たんだ。

まぁ、俺は千尋の守護霊だから、何が起こったのかなんて知っているんだけど。


「千尋、大丈夫か?」


「あっ、あっきー……。うっ、ぐすっ、今、今ね、お母さんから連絡があってね……。実家で飼ってた猫が死んじゃったんだって……。私っ、すっごく可愛がってたからぁっ、うぅっ……。でもっ、十七年も生きたから、寿命だと思うんだ。だから、仕方ない事なのは分かるんだけど、か、悲しいのは止められなくてっ。うぅ……うわーん! あっきーぃぃい!」


「あー、良し良し。お前が可愛がってた猫は確かに寿命だ。それにお前に可愛がられて幸せだったみたいだぞ。成仏もちゃんとしてるしな」


「うえぇっ……。それ、本当……? ことちゃん、成仏してる……?」


「ああ、猫界に確認取ったからな。今頃猫界で元気に過ごしてるはずだ」


「そっ、そっかぁー! ううう、うえっ、うえぇっ。あっきー、ありがとう……」


「いや……。お前には笑ってて欲しいからな」


「うっ。ふふっ……。あっきー、それは彼女に言ってあげなよ」


「か、彼女なんていねぇし!」


俺は千尋が笑った事に安堵して、あとは晴明様に任せようと晴明様を呼びに行くのだった。



──霊界にて──



「おい、明ー。千尋の悲しみの感情が喜びに変わったけど、どうなったんだ?」


「ああ、今晴明様といちゃいちゃしてる。ことちゃんが成仏してるって聞いて安心したんだろ」


「そうかー。それなら良かった。俺らは千尋の感情に引きづられるからな。女性陣が泣いちまって大変だったぜ」


「ああ、ありがとな。じゃあ俺は縁様に報告に行ってくるから。じゃあな」


「ああ、じゃあなー」


そうして俺は縁様の住む縁結びの神様の家に行くと、チャイムを押して縁様を呼び出す。


「良い、明。千尋の報告か?」


「そうです。千尋は──」


粗方千尋について報告し終えると、俺は気になっていた事を切り出す。


「縁様、千尋にはもう恋愛感情は無いのですよね?」


「うむ、無いぞ」


「千尋から聞きましたけど、時々『瑠璃に見せる霊符』を貼ってるようですが、瑠璃さんに未練は無いのですか?」


「うむ、『瑠璃に見せる霊符』を貼るのはただ単に懐かしい気持ちになるからだ。もう恋愛感情は無い」


「そうですか。そもそも『瑠璃に見せる霊符』はどうやって手に入れたのですか?」


「それは……。守人に造って貰ったのだ」


「守人様に? そうなんですか。にしても、良く晴明様が許しましたね、『瑠璃に見せる霊符』を貼るの。いくら見かけが瑠璃さんとはいえ、中身が千尋なのに縁様と仲良くしていたら嫉妬しそうなもんですけど」


「う、うむ……。実はな、晴明殿は私が千尋に『瑠璃に見せる霊符』を貼っている事は知らぬのだ」


「ええ!? そうなのですか!? それはマズイんじゃあ……?」


「う、うむ。だが内緒にすれば良いのだ。良いか明、決して晴明殿に言うでないぞ」


「は、はい……。でもバレた時は知りませんからね」


「よ、良い」


こうして俺は一抹の不安を抱きながらも縁様の所を後にした。



数日後。



「千尋ー、来たぞー……って、え!?」


「あっ、あっきー……」


「お、お前……。それは瑠璃さんの姿か?」


「あ、うん。そうなんだよね。さっきまで縁様が居たんだけど、急用が入ったとかで慌てて帰っちゃって……。ねぇあっきー、『瑠璃に見せる霊符』を剥がしてくれないかな?」


「あ、ああ……。ちょっと待ってろ──」


バンッ(霊界と下界を繋ぐ扉)


「千尋ー、あのな……。ん? お主は誰なのだ? 千尋はどこにおる?」


(げっ、晴明様!? やっべぇ!)


俺は瑠璃に見える千尋の姿を晴明様に見られて焦る。


「あっ、晴明様。私ですよ、千尋です」


「なんだと? ……霊符が貼られておるな。なになに……」


ベリッ


「『瑠璃に見せる霊符』……。これは何だ? 千尋」


「あ、それは縁様がーー」


事情を聞いた晴明様は沈黙する。

そしてしばらくして話し始めた。


「千尋……。もう瑠璃の姿になってはならぬ。縁と会うのも禁ずる。良いな」


「えっ、え? どうして駄目なのです?」


「駄目なものは駄目なのだ。良いな!」


バタン


「……ねぇあっきー、晴明様どうしたのかな?」


「あー……。千尋が縁様と仲良くしてるのが気にくわないんだろ」


「そうなの? でも晴明様が知らなかったって事は、海は晴明様に報告してなかったって事だよね? 海はこれが良からぬ事じゃないって判断したんでしょう?」


ウンウン


「あー、海はまだ若いからな。男の嫉妬っつー物が良く分かってないんだろ」


ウンウン


「そっかぁ。でも縁様に会えなくなるのは嫌だなぁ、私を守って下さってる方の一人なんだもの。ねぇあっきー、どうしたら良いかな?」


「……じゃあ──」



その日の夜。



「千尋ー、来たのだぞー」


「晴明様……じゃなくて、ええーと……め、(めい)……」


「ぐふぁ!? め、(めい)!? ど、どうしたのだ千尋、千尋ぉ!」


「晴明様のあだ名……。だ、駄目?」


「い、いいや、良いがなぁ……。何故いきなりあだ名で呼ぼうと思ったのだ?」


「それは……あだ名の方が親密感が増すかなって……。晴明様の事を凄くすごーく愛してるから、私だけの特別な呼び名が欲しくて……。ねぇ、(めい)……」


「な、なんだ?」


「これからも縁様と会っても良い? 私を守って下さる大切な方なの。だから……ね?」


「う、うむ。まぁ……。し、仕方あるまい。だが極力瑠璃の姿にはなるでないぞ。良いな?」


「良いですよ。ありがとうございます、(めい)!」


そうして二人はラブラブな夜を過ごした。



次の日。


「千尋ー、どうだった? 晴明様喜んでたろ」


「うん! あっきーの言う通りにして正解だったよ!」


昨日千尋に相談された俺はこう答えた。


『じゃあーー晴明様になにかあだ名をつけて、それを恥じらいながら言うんだ。そして甘い雰囲気を出しながら縁様との事をお願いすれば、多分晴明様は許すと思う』


この発言は見事に成功したようで、千尋はまた縁様と会えるようになった事を喜んでた。


(惚れた弱みってな。それに俺があだ名で呼ばれてるのを羨ましそうに見てた事あるし)


「ねぇあっきー、なんでも欲しいもの言って! お礼に造るから!」


「そうだなぁ、じゃあフォアグラとキャビアとトリュフを使った料理を造ってくれ」


「了解! ちょっと待っててねー!」


料理を頑張ってイメージする千尋を見ながら、しみじみと


(やっぱり千尋は笑ってるのが一番だ)


と思うのだった。





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