音読
バンッ(過去と現在を繋ぐ扉)
「晴明様ー、こんばんは〜」
「良い千尋、こんばんは」
「いよいよ明日は二十五歳の誕生日ですね。……お気持ちは変わってませんか?」
「うむ、変わっておらぬ。千尋……好きだ」
「晴明様……。私も好きです。明日から宜しくお願い致します」
「良い! 晴れて恋仲なのだな、我ら」
「そうですねー。でも……」
(結婚しちゃうんだよなぁ、晴明様……)
「どうした?」
「いえ……。そういえば晴明様、騰蛇様と青龍様はいらっしゃいますか?」
「おるが……呼ぶか?」
「はい!」
「騰蛇ー、青龍ー。千尋が呼んでおるぞー」
「……なんだ、千尋」
「なんだ?」
「少しお二人とお話がしたくて……」
(この二人、くっつきそうでくっつかないんだよな〜。ここは私が一押ししてあげないと!)
「騰蛇様、青龍様のどこが好きですか?」
「なっ……。こ、こいつの事なんて好きじゃねぇよ!」
(ああもう騰蛇様!)
「……我とて騰蛇の事など好きではない」
「そ、そうか。そうだよな……。……でも大切な仲間だとは思ってる」
「……大切な仲間、か。確かに晴明を守るためには協力は必要だ。余計な事するなよ、騰蛇」
「し、しねぇよ……」
「そうですか……。では騰蛇様、好きな方はいますか?」
「好きな奴⁉︎ ……まぁ、いる」
「その方の特徴は?」
「冷静で、落ち着いてて……たまに毒を吐くが、まぁ……根はいい奴、だ」
「そうですか。では青龍様は?」
「我は……いる。そうだな……熱い心を持ち、何事にも一生懸命で……いい奴、だ」
「そうですか……。伝わると良いですね、騰蛇様達の気持ち」
「ああ」
「まぁ……な」
「……我、お主らに好いた者がおるとは初耳なのだが……」
理解していない晴明なのだった。
晴明のいる時代での時間で七年が過ぎた。
晴明は三十二になっていた。
「何故我が結婚しなければならぬのです、母上!」
「これは命令だ、晴明。お主には安倍家の血を繋いで貰わねばならぬのだ」
「しかし……!」
「異論は認めぬ。一週間後、婚礼の儀を行う。良いな」
「母上……!」
「……諦めろ、晴明。言い出したら聞かぬからな、桜梨は」
「父上……。我は……我は好いてる者がおるのです。結婚など……」
「お主の母上の為だ。すまぬな、晴明」
「……」
──数時間後──
バンッ
「晴明様〜、こんばんは!」
「千尋……。……千尋、我、結婚する事になったのだ」
「えっ……。そう……ですか。とうとう……」
「うむ……。すまぬ、千尋」
「いえ……致し方ない事ですから」
「……早く時が過ぎて欲しいな。お主に会いたい。我は未来でお主と結婚しておるのだろう?」
「えっ、何故その事を……」
「霊体のお主から聞いたのだ。何故隠しておったのだ?」
「それは……いきなり貴方の妻ですって言ったら引かれちゃうと思って」
「そうか。我、お主と結婚出来ると聞いて嬉しかったのだ。未来の子供達にも会ってみたいが……それは楽しみにとっておく事にする」
「そうですか……。では楽しみにしていて下さいね」
「うむ、良い良い」
「奥さんはどんな方なのでしょうね。それにしても、ご結婚なさるのですから、もう私とは会わない方が良いのでしょうね」
「いや……。月に一度程は会いたい」
「そうですか? では月に一度会いましょう」
「うむ。良い」
一ヶ月後。
バンッ
「晴明様ー!」
「えっ……誰……?」
「えっ。ええと……?」
(だ、誰ー⁉︎)
「私は琴。晴明の妻よ」
「え、ええー! 奥様⁉︎ は、初めまして、桜井千尋と申します。晴明様とは……その……」
「桜井千尋さん……。晴明から話は聞いてるわ。恋仲、なんでしょう?」
「えっ……。ええ、まぁ……」
「ごめんなさいね、私……貴方達の邪魔するつもりは無いのよ。でも……いずれ子は産まなきゃ駄目だと思うわ。だから……ごめんなさい」
「い、いえいえ! 奥様がお謝りになる事じゃ……。私は時代が違う人間ですし、仕方ないですよ」
「そう……ありがとう」
「それにしても……私の姿、はっきり視えてるんですか?」
「ええ、視えてるわよ?」
「うわぁ、相当強い見鬼の才がおありなのですね。霊体の方も視えるのですよね?」
「ええ。視えるお陰で苦労したけれど……良い事もあったの。私……好きな人がいるのよ」
「好きな人って……霊体ですか?」
「ええ。とっても格好良い人なの。まだ私の片想いなのだけれど、きっと両想いになってみせるわ」
「そうですか……きっと両想いになれますよ。そんな気がします」
「そう。ありがとう」
「いえいえ。そういえば晴明様はどうしたのです?」
「晴明は式神と共に市井に出掛けてるわ。帰ってくるまで私の話し相手になってくれない?」
「良いですよ。では恋バナでもしましょうかーー」
こうして晴明の妻と千尋は親睦を深めるのだった。仲良くなった二人はこれからも良く話すようになる。
時は戻って現代。
「橘ー、マーロー!」
バンッ(霊界と下界を繋ぐ扉)
「なんだよ」
「なんだ?」
「橘ー、マーロと絡んで萌えさせてー」
「なんで俺がそんな事しなくちゃいけないんだよ! 別の奴に頼めよ!」
「だってー、私が腐女子なの知ってるの橘とマーロくらいじゃん。あ、マーロはりょうたろうさん×幸太郎さんの漫画描けた?」
「ああ、まぁ……描けたぞ」
「わぁ! じゃあ霊体の私呼ぶから見せて!」
「良いぞ」
バンッ(未来と現在を繋ぐ扉)
「私ー! マーロが漫画描けたって〜」
「本当⁉︎ 今行く!」
「うん」
「よいしょ……。マーロ、見せて〜」
「これ……」
「なになに……『幸太郎……僕、もう我慢出来ません……』 『りょうたろう……オレ、オレ……!』 『幸太郎……!』『りょうたーー』」
「だああ、音読すんなぁぁあ!」
「だってー、音読しないと今の私に伝わらないでしょ」
「未来で見れるんだ、良いじゃねぇか!」
「えー聞きたいー」
「お前……音読してて恥ずかしくないのか⁉︎」
「別に? 萌えの為なら!」
「そうか……。で、俺はマーロと絡まねぇから閉めるぞ」
「やだやだ、橘もいてー!」
「なんでだよマーロ」
「僕一人この音読会に取り残されるなんて……いやだ橘ぁ、置いてかないでぇ」
「橘×マーロ……萌え……! 泣き虫受けよりは男前受け派だけどな!」
「誰もお前の趣味嗜好は聞いてねぇよ!……とりあえず音読はやめて感想だけ言え。良いな」
「ちぇー、分かったよ。良い? 私」
「橘とマーロが絡んでくれるなら!」
「ちっ……仕方ねぇな。おいマーロ」
「えっ」
グイッドンッ
「俺のモノになれよ……」
「きゃー! 床ドンからの顎クイー‼︎」
「ええええ視たい視たいー‼︎」
「……橘とマーロはそういう関係だったのか」
「あっ晴明様」
「せ、晴明様⁉︎ いいいや、これは訳あって……!」
「うむ、良い良い」
「良いじゃないですー‼︎」
「……別に良いと思うがな、隠さなくても」
「あ、幸太郎さん……。き、聞いてないですよね⁉︎」
「何がだ?」
(ほっ……聞かれてなかったみたい)
「千尋、その手に持っている物はなんなのだ?」
「あっ、これは……わ、私帰りまーす!」
「待て。見せろ」
「い、嫌ですよ幸太郎さん」
「駄目だ。見せるんだ」
バッ
「あっ……!」
「……」
バターン
「きゃー幸太郎さんが倒れたー!」
「な、何が起きたのだ⁉︎」
こうして幸太郎に千尋の趣味がバレたのであった。




