過去との邂逅
バンッ(霊界と下界を繋ぐ扉)
「晴明様ー、今日は下界にはいらっしゃらないのですか?」
「うむ、千尋か。今は未来からお主が来ておるからな。後で行く」
「そうですか。ではお待ちしています」
「良い良い」
バタン
(晴明様来るまで何しよっかなー。ネットのBL小説で興味そそられるの粗方読んだんだよな……。……そういえば、未来と現在って扉で繋がってるんだよね。なら過去とも繋がってるって事? じゃあ実体時代の晴明様とも会えるんじゃあ……?)
「……。いっちょ試してみるか」
(晴明様の実体時代……晴明様の実体時代ー!)
バンッ(過去と現在を繋ぐ扉)
「……晴明様?」
「え……。誰、ですか……?」
「!」
(わ、若い声……)
「晴明様、ですか?」
「確かに僕は晴明ですけど……貴方は誰ですか?」
「は、初めまして。桜井千尋と申します」
「千尋さん……。霊界の方ですか?」
「いえ……まだ下界の人間です」
「下界? 奇天烈な格好ですけど、京の人間ですか?」
「いえ、私は……未来の人間です」
「未来……。何故僕の名前を知ってるんですか?」
「晴明様は未来でとても有名なんです。それで……その、私は……」
(貴方の妻なんです、って言ったら引かれるかな……)
「晴明様の未来での知り合い、です」
「未来の僕の知り合い、ですか。こんな美人な方とお知り合いになれるなんて光栄ですね」
「お、お世辞が上手いですね〜。あ、晴明様はおいくつですか?」
「僕は今十六です。千尋さんは?」
「私は二十五です。未来での晴明様は三十歳くらいの外見ですよ」
「そうなんですか。三十歳の僕……想像つきません」
「そうですよね。とても格好良いですよ」
「今の僕は格好良くないですか?」
「私はあまり霊視が出来ないのですが……格好良いと思います」
「そうですか。貴方好みですか?」
「え……。えーと、はい……」
「そうですか」
「今更ですが、私とこうしていて良いのですか?」
「ええ。今は修行の休憩中なんです」
「そうなんですね。修行、頑張って下さいね」
「ええ、ありがとうございます」
「ではそろそろ。またね、です」
「ええ、また」
バタン
「……流石晴明様、私の事余裕で霊視してたな。そういえば以前吉平君が晴明様は実体時代から私の事好きだった的な事言ってたけど、今回の出会いがきっかけで私を好きに……?」
「千尋ー、来たのだぞー」
「あ、晴明様。いらっしゃい。未来の私は帰ったのですか」
「いや、今は信治の元に行っておる。千尋は何をしておったのだ?」
「私は……実体時代の晴明様と話しておりました」
「何? 実体時代の我と? ……そうか。良い、話すが良い」
「良いのですか? 実体時代の晴明様と話しても」
「うむ、それで歴史が変わる訳ではないからな。問題ないぞ」
「そう、ですか……。では実体の晴明様に晴明様の未来を教える事は?」
「問題無いぞ。教えるが良い」
「分かりました。ありがとうございます」
「良い良い」
(次話す時には晴明様の未来を言ってみよう……)
その後千尋達は他愛もない会話をするのだった。
次の日。
(十六歳の晴明様ー!)
バンッ
「こんにちは、晴明様」
「こちらではこんばんはですよ、千尋さん」
「そうでしたか。晴明様、私と最初に会ってからどれくらいぶりですか?」
「大体一月ぶりでしょうか。寂しかったのですよ」
「えっ……。すみません」
「もっと千尋さんと会話したいのです」
「そうですか……嬉しいです。あ、今日は晴明様に晴明様の未来をお教えしようかと思って」
「僕の未来、ですか。……僕って結婚するんですか?」
「ええ、するようですよ。二人のお子様にも恵まれます」
「そう……ですか。僕……僕は結婚したくありません」
「えっ。どうしてですか?」
「……千尋さんと結婚したいです」
「えっ……? わ、私と?」
「そうです。僕、貴方と初めて会った時から貴方のことが頭から離れなくて……。これって恋だと思うんです」
「え、ええ⁉︎ で、でも私と晴明様じゃ歳も離れてますし……。私の何処が良かったのですか?」
「……顔が好み、なんです……」
「顔……」
「性格はこれから知っていけば良いと思いますし……千尋さん、僕とお付き合いして下さいませんか」
「ええと……。流石に十代半ばの子と付き合うのは良心が痛むというか……。晴明様、晴明様が二十五になったら付き合うというのはどうでしょう。それまでは友達、という事で」
「二十五……。分かりました。では宜しくお願い致します、千尋さん」
「ええ」
こうして実体の晴明と千尋は友達になった。
一ヶ月後。
二人は晴明のいる時代での時間で週一ペースで会っていた。千尋にとっては一ヶ月だが、晴明にとっては四年過ぎ晴明は二十歳になっていた。
「千尋……僕、いや我、今日は良い事があった。とても気分がいい」
「そうなのですか、良かったですね。私もお給料日でいい気分です」
「そうか、良い。しかし、いつ見ても千尋は変わらぬな。歳を取らぬのか? 我はこんなに成長したというのに」
「私の方の時間ではまだ一月しか経っていませんから」
「そうなのか。では千尋はまだ二十五なのだな」
「ええ。晴明様はもう立派な成人ですね」
「我はとっくに成人しておったぞ。陰陽師としてもなかなか良い腕をしておるのだぞ」
「後世に名を残す陰陽師になられますからね、晴明様は。これからが楽しみですね」
「うむ。……早く千尋に会いたいものだ」
「そうですね……。あ!」
「どうした?」
「あの……一部の霊体の方は未来と過去を行き来できるみたいなんです。それで、未来の私も過去に来れているので……もしかしたら晴明様がいる時代にも行けるんじゃないかって」
「成仏後の千尋ということか?」
「ええ」
「……試してもらえぬか?」
「ええ! 少しお待ち下さい」
「良い」
バンッ(未来と現在を繋ぐ扉)
「私ー!」
「なぁに私」
「あのさ、実体時代の晴明様の所に行けない⁉︎」
「実体時代の晴明様の所? 多分行けると思うけど……。何歳の時?」
「二十歳」
「分かった、今から行くよ。じゃあねー」
「うん! じゃあねー。……晴明様、今来ると思います」
「そうか、良い」
「晴明様!」
「良……い……。千尋か?」
「千尋ですよ、晴明様」
「なんだか少し顔つきが違う気がするが……。それに体型も細くなったな」
「成仏する時に変えてもらったのですよ。どうですか?」
「うむ、美しいな。良い良い」
「えへへ、ありがとうございます。晴明様に見合うようになって良かったです」
「我に見合う? 千尋は成仏する前でも我に見劣りせぬぞ」
「そうですか? ありがとうございます」
「良い良い」
「じゃあ未来の私、これからはちょこちょこ実体時代の晴明様の所に来てくれる?」
「良いよー。平安京って来てみたかったんだよね!」
「そうなのか。では明日京を案内するか?」
「え、良いのですか晴明様」
「良いのだ」
「わぁ、良かったね私! じっくり観光してね〜」
「うん!」
「では我はそろそろ寝る。ではな、千尋」
「ええ。おやすみなさい」
バタン
こうして未来の千尋は実体時代の晴明の元へ通う事になるのだった。




