過去編16
晴明と結婚してから三ヶ月後。
千尋と晴明は蜜月を過ごしていた。
「晴明様、信治は健やかに成長していますか?」
「うむ。健やかに成長しておるぞ。もうすぐ一歳になるのだ」
「もうですか、早いですね。なんだか霊界と下界の時差が大きくなっている気がするのですけれど……」
「うむ、霊界人の霊格の底上げを行なっておるからな。皆修行して霊格を上げるのだ」
「そうなのですか……。あっという間に信治が私の歳を越してしまうのではないですか?」
「いや、信治が十八になったら時差を無くすからな。安心するが良い。それはそうと、信治が一歳を過ぎたら次の子を産まぬか? 我、次は女子が欲しいのだ」
「次の子、ですか……。ふふ、良いですよ。楽しみですね」
「そうなぁ。千尋よ……愛しておるぞ」
「晴明様……愛しています」
そうしていちゃいちゃする晴明達なのだった。
それから数日後。
「ポン! にゃあのぉ! ……また入ったの? にゃんじろう」
コクコク
スリスリ
「にゃんじろうは本当にポンが好きだね。……にゃんじろうってオスだよね?」
コクコク
「みさとも男性。にゃんじろうもオス。……にゃんじろうが人体化したらBLじゃないか……! 人体化って獣耳生えてんのかな……萌え……!」
うふふふと笑う千尋。
みさとは千尋の邪な考えを読み取ったのか、ブンブンと手首を振る。
「なぁにポン。にゃんじろうに擦り寄られて嬉しいの? 嬉しいんだよね? うふふふふ……にゃんじろう早く人体化しないかなぁ。あ、でもポンが手だけか……。まてよ、手だけって事は本体が何処かにいる筈。その本体とにゃんじろうを引き合わせてみさとににゃんじろうを飼わせればーー」
「何をぶつぶつ言ってるんだ、千尋」
「はっ! あ、幸太郎さん。丁度良かった、みさとの本体の方知りませんか?」
「みさとの本体? 知ってるが……」
「あ、会わせて下さいませんか⁉︎」
「まぁいいが……何を言うんだ?」
「みさと、にゃんじろうの事飼わないかなって」
「にゃんじろう? にゃんじろうはお前が創り出した猫だろう?」
「いえ、本当に実在するんですよ、にゃんじろうは。ポン……みさとの事好きみたいなんです」
「そうなのか……。いいぞ、連れてきてやる。待ってろよ」
「はい!」
──数分後──
「連れてきたぞ、千尋」
「……初めまして、千尋ちゃん。みさとだよ」
「ありがとうございます、幸太郎さん! 初めまして、みさと。あ、みさと様?」
「みさとで良いよ、千尋ちゃん。で、僕に用ってなぁに?」
「えーと、みさとの事が好きっていう猫がいてーー」
「にゃあのぉ!」
「……にゃんじろう?」
「にゃあのぉ!」
スリッスリッ
「なぁにこの猫、変な鳴き声だね。可愛いけど」
「か、可愛いでしょ⁉︎ みさと、良かったら飼わない⁉︎」
「え、僕が? でも僕……両手ないし、抱っこも餌あげも出来ないよ?」
「にゃあのぉ!……うー……にゃあのぉ!」
人体化!
「……俺がみさとを助ける」
「え、なになに? 何が起きたんです、幸太郎さん」
「ああ、にゃんじろうが人体化したんだ」
「えっ人体化⁉︎ 猫耳尻尾は生えてますか⁉︎」
「生えてねぇよ。なんでそんな興奮してんだお前……」
「みさと……。俺がお前の両手になる。だから俺を……飼ってくれ……」
「きゃーー!」
「だからなんでそんな興奮してんだっての」
「にゃんじろう……だっけ? 僕、人を飼う趣味はないんだけど……」
「じゃあ付き合ってくれ」
「えっ……」
「きゃーー!」
「だから千尋……」
「でも僕……人を斬った事があるんだ……。そんな危ない人と付き合っちゃいけないよ、にゃんじろう」
「それなら俺だって生前人を斬ってた。それに……お前が人を斬ったのには理由があるんだろう?」
「……」
(そういえば海とみさとの罪状、気にした事無かったな。一体何したんだろ? みさとは人を斬ったって言ったけど……)
「……僕、父親から殴られてたんだ。ある時、母さんにまで手をあげるあの人にカッとなって……」
「そうか……。父親はまだ生きてるのか?」
「うん。別々に暮らしてるけど、いつ報復に来るかって気が気じゃなくて……」
「……俺と付き合えば俺がお前を守ってやる。なんならその父親を殺しても良い」
「ちょっ、ちょっとにゃんじろう。殺すのは駄目だよ。んー、じゃあみさと。私がみさとの父親がみさとに近付けないように術をかけてあげる」
「そんな事出来るの?」
「うん。みさととみさとのお母さんに近付けないようにすれば良いんだよね?」
「うん……」
「よーっし」
スリッぱん! スリッぱん! ぱん!
「桜井千尋の名において、みさととその母親に父親が近付けないようにした!……これで大丈夫ただと思うよ」
「そう……ありがとう、千尋ちゃん」
「良いよぅ。それでにゃんじろうと付き合うの?」
「それは……」
「……藤次郎だ。俺の名前は藤次郎」
「藤次郎……僕、君の事何も知らないし……」
「だったら俺と一緒に暮らして知っていけばいい」
「……じゃあとりあえず友達ってのはどうかな。母にはお世話してくれる人って事で紹介するよ」
「ああ、それでいい。みさと……宜しく頼む」
「宜しくね、藤次郎」
こうしてみさととにゃんじろうは一緒に暮らす事になったのだった。
(というか……私視えてなかったけど藤次郎様人体化したから裸なんじゃ……)
幸太郎もみさとも何故か突っ込まないのだった。
それから一月後。
千尋は晴明と営み、妊娠していた。
「じゃあ晴明様、産みますよ」
「うむ、良い」
「浮かせて……大きくして……固定! 出来ていますか、晴明様」
「うむ、出来ておる。かわゆい女の子なのだ」
「わぁ、女の子ですか! 良かったですね、晴明様」
「うむ、良い良い。名前は何にしようなぁ」
「うーん……愛される子になるように、愛って字は入れたいですね」
「愛、か。良い。そうなぁ……。高貴な身分になると良い香りがするものなのだ。まぁそれは匂い袋のおかげなのだが……この子には高貴な香りを纏って欲しいなぁ」
「じゃあ高貴な香りがするように、香をつけて愛香はどうでしょう?」
「うむ、良いな。愛香にしよう」
「愛香、あーいーか。うふふ、信治にも紹介せねばなりませんね」
「そうなぁ。我、信治の元に連れて行く。ゆっくり休むのだぞ、千尋」
「はい、晴明様」
千尋は幸せそうに微笑んだ。
これからの波乱も知らずに──
──霊界時間での五年後──
「信治、愛香、選。これから下界の母の元へ行く。良いか?」
「良いよー」
「……」
「いいよー」
「? 愛香?」
「……下界のかあさまって……ほんとうにかあさまなの?」
「何を言う、愛香。母様だぞ」
「だって……霊体のかあさまと顔もすこし違うし……。わたしたちのこともみえないのよ?」
「顔が違うのは成仏した時に歯並びを良くしたからだ。視えないのは仕方なかろう、下界で我らを視える者は少ないのだ。だが千尋は時々我らを霊視出来るようだぞ」
「でも……」
「とにかく行くぞ。千尋が待っておる」
そうして晴明達は下界へと降りた。
「千尋ー、来たぞー」
「あっ晴明様! 皆も来ましたか?」
「うむ、来ておる。皆、挨拶するのだ」
「母様、こんにちは」
「こんにちは〜」
「……」
「こんにちは。……愛香? どうしたの?」
「……。かあさま、かあさまはどうして実体なの?」
「えっ。いきなりどうしたの、愛香。母様はねー、まだ成仏してないから実体なんだよー」
「じゃあいつ成仏するの?」
「それは分からないな〜。でも何十年も後じゃないかな」
「そう……。かあさまはどうして愛香たちがみえないの?」
「それはねー、次元が違うからかな。母様は三次元だけど、愛香達は多分四次元だと思うんだ。空間拡張とか瞬間移動とか出来るしね」
「そう……。かあさま、愛香のこと好き?」
「好きだよ、だーい好き! ほら、母様の膝の上おいで」
「うん……」
「せんもー、せんもかあさまのおひざのるー」
「選、まずは愛香の番だよ。我慢して」
「うんー。しんじにぃものる?」
「僕は後でいいよ」
「愛香、乗った?」
「うん」
「じゃあ、ぎゅー! 愛香ぎゅー!」
「かあさま……。……かあさま、わたしに触れないのなんで?」
「うーん、そうだなぁ。やっぱり次元が違うからなんだけど……。あ、そうだ! 私のことイメージして具現化できないかな? そしたら触れると思うし……」
(えーと……私をイメージって難しいな……あ、鏡鏡!)
「愛香、ちょっとどいて貰える?」
「なんで?」
「全身鏡見るからさ」
「わかった」
愛香にどいて貰った千尋は全身鏡の前に立つ。そして自分の横にもう一人の自分をイメージした。
「私と全く同じ思考回路にして……固定保存! ……晴明様、私居ますか?」
「おお、おるぞ。千尋に瓜二つな者が……」
「かあさまがふたりー!」
「うーんと……喋れる? 私」
「……あー、あー。喋れるよ」
「おお〜! じゃあ晴明様達見える?」
「うん、見えるよ」
「そっか。何日間くらい持つんだろ……永遠に持つのかな……」
「うむ、我の直感では五日といったところか」
「五日ですか。じゃあ私、試しに愛香の事抱っこしてみてよ」
「うん。よいしょ……」
千尋のイメージは愛香を抱っこする。
「抱っこ出来たよ」
「わぁ、良かった! 愛香、これで母様に触れるね!」
「うん……」
いまいち納得していない表情で頷く愛香なのだった。




