過去編13
幸太郎が晴明に問い質してから一週間後。
千尋は晴明と共にいた。
「千尋は何が好きだ?」
「えっ……。猫でしょうか」
「猫? そうか。よくポンと遊んでおるものなぁ」
「み、見てたのですか⁉︎ 恥ずかしい……」
「うむ。我も猫飼おうかなぁ」
「霊界に猫いるんですか?」
「いや……元人間の猫はおる」
「元人間? 人から猫に転生する事もあるんですか?」
「うむ、稀にある。逆も然りだかな」
「そうなんですか。元人間の猫かぁ。人体化する事はないんですか?」
「徳を積めば人体化出来るようになる」
「そうなのですか。でも元人間の猫だと撫でくりまわしていいか迷いますね」
「そうなぁ。だが猫の時は猫の本能に引き摺られるからな。撫でても良いと思うぞ」
「そうですか。私も成仏したら猫飼いたいな〜」
「今は飼えぬのか?」
「ここのアパート、ペット禁止なんです」
「そうか、それは残念だなぁ」
「はい。晴明様がもし猫飼ったら撫でさせて下さいませんか?」
「うむ、良い良い。そういえばりょうたろうが猫を飼っていた筈だなぁ」
「え! そうなのですか。今度お会いしたら聞いてみます」
「うむ」
(晴明様、普通に会話してるよなぁ。幸太郎さん、何も言ってなかったし……。やっぱり守人様の勘違い?)
「りょうたろうですよ〜。千尋さん、幸太郎から伝言です」
「噂をすれば、りょうたろうさん。伝言ですか?」
「はい。今夜千尋さんを霊体にして霊界に連れて行くから、早めに寝ろ。だそうです」
「えっ、私を霊体に? また呪詛かなにかかかってるんですか?」
「いえ、なんでも霊界でデートがしたいとか」
「デート⁉︎ そ、そうですか……。早めに寝なくちゃ」
「千尋、デートとはなんだ?」
「デートとは恋仲の二人が一緒に遊びに出かけたり一緒に過ごしたりする事ですよ」
「そうか……。千尋、我もお主とデートしたい」
「えっ……。私達は恋仲じゃないですよ?」
「恋仲になれば良いではないか。我、千尋が好きなのだ」
(ええ! いきなりの告白⁉︎)
「せ、晴明様? 一度に複数の方と恋仲にはなれないのですよ」
「では幸太郎と別れないか?」
「わ、別れません……」
「そうか……」
「千尋さん、モテますね〜! 幸太郎に報告しなくちゃ。ではね〜!」
「あ、はい……」
(二人残して行かないでー!)
「……なぁ、千尋。幸太郎の何処がいいのだ?」
「えっ。ええと……優しくて、男らしいところですかね……」
「そうか。では我もっと優しくする。もっと男らしくなる。良いな、千尋」
「良いなって言われても……。私、幸太郎さんが好きなんです。だから諦めて下さい」
「我諦めぬ。良いな」
(えっ、ええええ〜どうしようー!)
翌朝。
「……幸太郎さん、いますか?」
「いるぞ、千尋。おはよう」
「おはようございます、幸太郎さん。昨夜はちゃんとデート出来ましたか?」
「……いや、何故か行く所行く所晴明様が居てな。あんまりゆっくり出来なかった」
「そ、そうなんですか……」
「りょうたろうから聞いた。告白されたんだろ? まったく、諦めの悪い男だな」
「晴明様は日本の最高神様なのですから、そんな事言っては駄目ですよ」
「ふんっ。……千尋」
「なんですか?」
「そろそろオレ達……営まないか?」
「えっ……。い、営むって……。……すみません、今はまだ出来ません」
「そう……か。分かった。悪かったな」
「いえ……」
(断っちゃった……。でもなぁ、せめてあと二ヶ月は経ってからがいいなぁ)
「千尋……接吻はいいか?」
「いいですよ、幸太郎さん……」
そうして朝からいちゃいちゃする二人なのだった。
数日後。
「千尋、我と結婚すれば絶対に幸せにしてやるぞ?」
「いえ……今でも充分幸せですから」
「猫も飼うぞ?」
「猫カフェに行きますから……」
「猫カフェ? どんな所なのだ? 今度一緒に行こうではないか」
「行くときは幸太郎さんと一緒に行きますから……」
(はぁ……晴明様諦めないな……)
「晴明様……私のどこが良いのです?」
「うむ、お主の心が好きだ。人の幸せを願い、守護霊達に感謝する心が好きだなぁ」
「そう……ですか」
「うむ、お主の心はとても綺麗だぞ。顔も綺麗だがな」
「ありがとうございます……」
「して、我のものにならぬか?」
「それはなりません」
「そうか……」
(そういえば晴明様、実体だった時って結婚してたのかな……後で調べてみよ)
数時間後。
(やっと晴明様帰ったなぁ。どれ、晴明様が結婚してたのか調べてみよう)
千尋は携帯を取り出すと調べ始めた。
(えーとなになに……奥さんの名前は出てこないけど奥さんは見鬼の才があったのか。子供の名前は出てきた。吉平さんと吉昌さんか……。奥さんや子供さん達は霊界にいないのかな? もしかして転生しちゃってるとか……?)
「……ねぇ、ポン。晴明様って妻子持ち?」
『ちがうと思う』
「そっか。じゃあ霊界で奥さんと再会したとしてもまた結婚はしなかったのかな。うーん、そこまで深く聞くのも考えものだよね」
コクコク
ウンウン
「奥さんは他の方と一緒になったのですよ」
「えっ……ど、どちら様ですか?」
「初めまして、 千尋さん。安倍吉平と申します」
「よ、吉平さん⁉︎ 晴明様のお子様ですよね」
「はい、そうですよ。父がいつもお世話になっています」
「いえいえ、私の方がお世話になっていて……。あの、晴明様の奥さんは他の方とご結婚されたのですか?」
「ええ。実体時代から好きだった人とね」
「え、実体時代って……。晴明様とご結婚されたんじゃあ?」
「それが母は見鬼の才があったので、霊体の方に惚れていたようで……。父上との結婚は親が決めた事なので仕方なく、だったみたいですよ」
「そうなんですか。それで晴明様は……」
「あなたにアプローチをかけている、ですよね。父は本当にあなたの事が好きなのですよ。実体時代から……ね」
「えっ、実体時代から? それってどういう──」
「その辺にしておいた方が良いですよ、兄さん」
「あ、吉昌。そうだね。未来の事だから……。ではね、千尋さん」
「えっ。はい、では……」
(実体時代から私の事が好きって……未来で何があるんだろう──)
疑問に思う千尋なのだった。




