過去編8
「……まい、なぁ、まいだろ⁉︎」
「こ、幸太郎さん、まいさん……なんですか?」
「ああ、間違いない。お前……っ、今まで何処に居た⁉︎ 何故……いつから千尋に入ってた!」
そう言うと幸太郎はまいの肩を掴む。
「……っ、私……。……千尋さんに入ってたのは三日前からよ。幸太郎、一から話すから……りょうたろうとてつやも呼んで欲しいの」
「三日前……。ああ、分かった。少し待ってろ」
幸太郎はりょうたろうとてつやへとテレパシーを送り、千尋の部屋へと来るように言う。
(24年間行方不明だったまいさんが突然……しかも私の中に現れるなんて……。でも違う魂って事は私はやっぱりまいさんの生まれ変わりじゃないって事か)
「お前、オレ達がどれだけ心配したかっ……!」
「ええ……ごめんなさい……」
「幸太郎、来ましたよーっと……。え! まいさん⁉︎」
「幸太郎さん、来ました……よ……。……姉さん?」
「りょうたろう、てつや。まいの魂が千尋の中に居てな。三日前から居たらしいんだが……事情を説明するからお前達も呼べって言われてな」
「そ、そうですか……。何故千尋さんの中に?」
「それも含めて説明するわ……。まず何処に居たのかだけど、龍王様の所よ。24年前、あなた達の前から姿を消してからずっと龍王様の所で働いて身を隠させて貰っていたの。二月程前かしら、私によく似た日本の救世主かもしれない方が現れたって聞いて……しかも幸太郎達と仲良くしてるって聞いて、千尋さんの事は気になっていたの。そうしたら三日前、龍王様から気になるなら千尋さんの中に入って様子を見てこいって言われて……。それで密かに千尋さんの中に入ってあなた達の事を見ていたのよ」
「そうか……龍王様の所に。以前お伺いした時には何も仰ってなかったのに……」
「私が何も言わないでって頼み込んだの」
「そう……だったんですか……。それで、何故僕達の前から姿を消したんですか?」
「それは……その……。……幸太郎、ごめんなさい。私、りょうたろうの事が好きなの」
「は⁉︎」
「え⁉︎」
「なっ⁉︎」
「ね、姉さん、どう言う事? 幸太郎さんと恋仲だった筈でしょう?」
「幸太郎の事は大好きだったけど……りょうたろうに会う度にりょうたろうの優しさに触れて、だんだん惹かれていって……気づいた時にはりょうたろうの事が好きになってた。こんな事いけないって思って、暫く皆の前から姿を消せばりょうたろうの事は忘れられると思って……。でも駄目だった。幸太郎……ごめんなさい」
「……。りょうたろうはどうなんだ?」
「えっ⁉︎ 僕は……。……実は僕もまいさんの事が好き……ですよ」
「えっ! そうなの、りょうたろう」
「ええ……。幸太郎に悪いから言わなかったんですけどね」
「そう……か。……はは、まい、そんな事のためにオレ達の前から姿を消したのか。正直に言ってれば良かったのにな」
「だってまさかりょうたろうも私を好きだなんて……。本当にごめんなさい、皆。千尋さんも、勝手に身体の中に入ったりなんかしてごめんなさいね」
「い、いえ……。……積もる話もあるでしょうから、皆さん霊界に行かれてはいかがです?」
「そうですね……幸太郎、どうしますか?」
「いや、オレは千尋が心配だからここにーー」
「大丈夫だ、千尋なら我が見ている」
(えっ、誰⁉︎)
「これは龍王様……! どうなさったのですか?」
「いや……まいの事は我にも責任があるからな。様子を見にきたのだ」
「そうですか……。千尋さんを頼んでもいいのですか?」
「ああ、大丈夫だ。千尋に興味もある事だしな」
(興味ってなんだろう……というか龍王様って誰?)
「ごめんてつやくん、龍王様って……?」
「ああ、龍王様は龍族の王様なんですよ」
「龍族⁉︎ 龍っているんだ……」
「千尋、オレ達は一度霊界に戻る。龍王様が居て下さるから何かあれば言えよ」
「あ、はい……分かりました」
そうして幸太郎達は霊界へと戻っていった。
ジー
「……」
ジー
「……」
(なんだか視線を感じる……龍王様、だよね?)
「……あの、龍王様?」
「なんだ?」
「先程から私の事を見ている気がするのですが……何かご用ですか?」
「ああ、あるといえばあるな。千尋……日本の救世主になるのと我の妻になるの、どちらが良い?」
「えっ……妻? たとえ話ですか?」
「いや、本気だが」
「えっ。ええと……」
(な、なんでいきなり⁉︎ 日本の救世主になんかなったら歩君に殺されるかもしれないし、かといってよく知りもしない龍王様の妻になんてなれないし……。ええええ、どうしよう〜!)
「あの……どちらにもなれません……」
「駄目だ。どちらか選べ。ああ、歩とやらを気にしているのか? 大丈夫だ、我が守る」
「えっと……。では日本の救世主ですかね……」
「そうか、分かった。ではこれから儀式を行う」
「儀式? 何の儀式ですか?」
「日本の救世主と認める儀式だ」
「ええ、いきなり言われても……。……寝ている間に霊体になって行うとかですか?」
「いや、実体のまま行う。神の声が聞こえるか試すのだ」
「神様の声……?」
「そうだ。日本の最高神や他の神々達の前で儀式を行うからな。しばし待て」
「はっはい……」
待つ事数分。
「では千尋、正座して頭を垂れよ」
「はい……」
千尋は正座し頭を下げる。
「そのまま目を瞑れ」
「はい」
すると手足が僅かに震えてきた。
それと同時に恐れ多いという感情が湧く。
暫くして龍王ではない声が聞こえてきた。
「……目を開けよ」
千尋は目を開ける。
「目を閉じよ」
言われた通りに閉じる。
「良い! ではこれより日本の救世主と定める儀式を執り行う。良いかー!」
『良ーい!』
(び、ビックリした……何人いるんだろ)
「では千尋。これからいくつかお主を試させてもらう。良いか!」
「よ、良いです」
「まずは下界の邪気を浄化してもらう。良いか!」
「はい!……申し訳ございませんが、手を合わせたいので体勢を崩しても良いでしょうか」
「良い。何故手を合わせる?」
(最初になんとなく手を合わせてからずっとしてるからな〜……理由なんて特にないんだけど……)
「力を使うための儀式のようなもの……です」
「良い。では浄化せよ」
「はい」
千尋は目を瞑ったまま体を起こし手を合わせる。
(……浄化ーー‼︎)
脳内の地球のイメージを光で包み終えると、千尋はまた頭を垂れる。
「終わりましてございます」
「うむ、良い。出来ている。では次! この部屋に何者も通さぬ結界を張れ」
(ええええ、結界なんて張ったことないよ〜!……とりあえずイメージしてみよ)
千尋は部屋に四角く半透明な壁を張り付けるイメージをする。
(……出来た?)
「……良い、出来ている。次! お主の目の前に悪霊がいる。浄化してみせよ」
(うわぁ結界張れた……! てか悪霊⁉︎ ええええ、じょ、浄化ーー‼︎)
とりあえず千尋は目の前にいるであろう者を光で包むイメージをする。
「……致しましてございます」
「良い! 次が最後だ。日本中の怨霊を消滅させよ」
「……申し訳ございません、浄化ではなく消滅なのですか?」
「悪霊は浄化で元に戻るが、怨霊とまでなるともう元には戻らぬ。消滅させるしか道はない」
「そうなのですか……では手を合わせても良いでしょうか?」
「良い」
(日本をイメージして……怨霊……とりあえず悪いものを消すイメージで……消滅ーー‼︎)
「……っ。終わりました」
「……良い! 目を開けよ」
千尋は目を開ける。
「目を閉じよ。……良い! これにて桜井千尋を日本の救世主として定める儀式を終了とする。良いかー‼︎」
『良ーい!』
「ではこれにて解散とする。以上だ!」
「…………千尋、もう良いぞ」
「……っはぁー! お、終わりましたか?」
「良い、終わった。これで無事お主が日本の救世主となった。これから頑張るのだぞ」
「が、頑張るって何を……」
「それは悪霊の浄化や怨霊の消滅、あとは下界の浄化……だな」
「わ、私霊媒師じゃないのですが⁉︎」
「何、お主はやるときは一気にできるからな。時折で良いのだ」
「そ、そうですか……。あ、手足の震えが止まった……何だったのでしょう?」
「ああ、それは神気を感じ取って手足が震えたのだ。儀式だからな、普段は抑えている神気を出されたのだろう」
「試してきた方はどなただったのですか?」
「日本の最高神様だ」
「えっ、あの方が……!」
(呪詛を解いてくれたお礼、実体状態でも言いたかったな……。それにしても流されるまま日本の救世主になっちゃったけど……歩君、何もしてこないといいなぁ。不安だ……)
「あ、そういえば何者も通さぬ結界ってやつ張ったままだと幸太郎さん達入れませんよね。壁を崩すイメージでいいですか?」
「ああ、お主が張った結界だけを崩すのだぞ」
「は、はい……」
そうして千尋は数十分かけて自分が張った結界を崩すのだった。
 




