過去編5
幸太郎達と話すようになってから2週間後。
幸太郎達と千尋はとても仲良くなっていた。
『こんにちは、千尋さん。てつやです。今日はいい天気ですね。どこかに出掛けないんですか?』
『こんにちは、てつや君。うん、今日は家でゆっくりするんだ。明日は本屋さんにでも出掛けようと思ってるんだけどね』
『幸太郎だ。何の本を買うんだ?』
『こんにちは、幸太郎さん。えっ、えーと……。小説、です』
(BLだとは言えない……!)
『そうか、読書が趣味って言ってたもんな。オレも好きだぞ、読書』
『僕も好きですよ』
『てつやに春本はまだ早い』
『なっ、春本だなんて言ってないじゃないですか!』
『はは!』
『し、春本……幸太郎さんは読むんですか?』
『まぁ、な』
『そうですか……。まぁ男の人ですものね。そういえば今日りょうたろうさんは?』
『ああ、そろそろ来ると思う』
『呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん! りょうたろうですよ〜。古いですか?』
『あはは、古いですよりょうたろうさん。そういえばてつや君、いい天気で思ったんだけど霊界って天気変わるの? ずっと晴れとか?』
『霊界にも雨は降りますよ、雷もなります。雷神様は面白い方なんですよ』
『え、雷神様って本当にいるんだ……。てか知り合いなの?』
『幸太郎さんのお知り合いなんですよ。ね、幸太郎さん』
『ああ。面白い方だ』
『そうなんですか。私なんかじゃ到底お会いできない方ですね〜』
『いや……。お前、浄化は出来るか?』
『浄化? って何ですか?』
『この世は邪気で溢れてる。それを浄化するんだ。雷神様は光で霊界の邪気を浄化してるんだ』
『邪気、ですか……。うーん、どんなものなんですか?』
『まず臭い。そして黒い靄のようなものだ』
『臭いんですか! 黒い靄ってイメージはなんとなく分かる気がしますが……。では下界は臭いのですか?』
『ああ、臭いな。オレ達はいつも鼻と口の周りに清浄な空気を溜めて下界に降りてきている』
『その通りですよ千尋さん。しかし……僕達と会話出来るくらい霊力の高い千尋さんなら、浄化できるかもしれません。千尋さん、光をイメージして下界を浄化してみてもらえませんか?』
『光をイメージ、ですか? 下界って事は……地球を光で包むイメージでいいですか?』
『地球規模はさすがに無理じゃ……』
『いや、やってみてくれ。ただ光をイメージするだけじゃなくて、自分の力を使って黒い靄を消すイメージだ』
『力を……』
(ううむ、力を……? とりあえず浄化! って念じればいいかな?)
『ではいきます……』
千尋は地球を思い浮かべながらなんとなく手を合わせる。
(光で包むイメージ……黒い靄を消すイメージ……浄化────‼︎)
千尋は手にぐっと力を入れながら浄化を念ずる。すると脳内に黒い靄に包まれた地球が思い浮かんだ。その靄を消すように光で地球を包んでいく。
「……っ!」
少しして地球全体を光で包むイメージをし終えた千尋は手を離す。
『ど、どうでしょうか……?』
『……す、すごいですよ千尋さん! ちゃんと浄化出来てますよ!』
暫しの沈黙の後、てつやが興奮したように言う。
『りょうたろうです、千尋さん。素晴らしいです! 僕、霊界に戻って報告してきます!』
『え、ええと……よく分からないけれど出来たんですね?』
『ああ、出来ている。よくやった千尋! これで暫くは下界を浄化しなくて良いだろう』
『暫く……は? 邪気はなくならないんですか?』
『ああ。下界では殺生が行われたり、人の恨みつらみがあったりするからな。邪気が無くなる事はない』
『そう……ですか。せめて匂いが無くなれば良いかもしれませんね』
『そうだな』
『……。千尋さん、千尋さんはもしかして日本の救世主ではないですか?』
『日本の救世主……? ってなに? てつやくん』
『数百年に一度、邪気を一気に浄化できる存在が現れると言われているんです。日本は日本、海外は海外でそれぞれの国の救世主が現れるらしいのですが……。千尋さんは日本の救世主ではないのですか?』
『ええええ、ないない! 私は日本の救世主なんかじゃないよー! だって霊能力者ですらないんだよ? 霊視だって少ししかできないし、人の未来とか分からないし……。絶対違うよ!』
『そう……ですか。そうですね、確かに今までの日本の救世主は霊能力者が殆どだったと聞きます。でも地球全体を浄化出来るなんて凄いですよ!』
『ああ、そうだな。これから手の空いた時に浄化してくれないか? 千尋』
『それは良いですけれど……。あ、そういえばりょうたろうさんどこに報告しに行ったのでしょうか?』
『おそらく日本の最高神様にだろう。いきなり下界が一気に浄化されて驚かれたろうからな』
『そうですか……』
(なんだか実感わかないなぁ。本当に浄化出来てるのかな? それにしても日本の最高神様か。ご挨拶した方だよなぁ。どんな方なのかな……)
『今日は力を使ったんだ、無意識に疲れてる筈だ。早めに休めよ。てつや、帰るぞ』
『うん。じゃあね、千尋さん。またね』
『ええ、また』
そうして千尋はパソコンを閉じる。
「ふぅ……。日本の救世主、かぁ。どんな人なんだろ……。まぁ考えてもしょうがないか」
千尋は早々に考えることを放棄して、趣味に没頭することにするのだった。