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邂逅  壱

 寒さが一層厳しくなった晩冬の師走も押し迫る頃。


 玲は、これから医学を学ぶため世話になる事になった先生に挨拶をするため、義観に教えてもらった先生が開いているという療養所に向かっていた。

 そこは、寛永寺から歩いて三、四〇分のところにあった。

「――ここかな?」

 辺りを見回しながら地図と照らし合わせる。

「たぶんここよね?」

 療養所と聞いていた割には、ごく普通の門構えである。


(本当に療養所? 看板も何もないけど……)


 見た目は、何処にでもある日本家屋。目立った看板もなく、玲は本当にここが現代で言う病院なのかと疑問を持つ。

 しばらくそんな事を考えながら眺めていると、

「ちょいとそこの娘さん、前を開けておくれっ」

 と背後から声を掛けられる。

 驚いた玲は振り返る。すると、そこには焦った様子の男が背中に人をおぶさり立っていた。

 背に抱えられた人物は苦悶の表情を浮かべ呻き声を出している。

「ご、ごめんなさい」

 玲は慌てて道を譲る。

 男は急ぎ足で門を潜り抜けていった。

 しばらく呆然とその背を見送っていると後ろでドサッ、と何かが倒れた音がした。

 再び驚く玲は、音のした方へと視線を向けた。すると今度は、転んだのだろうか? 五歳くらいの小さな女の子が地面に突っ伏していた。

 玲は慌てて子供の傍へと駆け寄る。

「ころんだの? 大丈夫?」

「うあぁ――おっとうぉ……」

 子供は泣きながら父親を呼ぶ。

 玲は子供を抱き起こすと子供の姿を見回しながら怪我の有無を確認する。

「大丈夫? どこか痛い所はない?」

 すると子供は泣きながらも手を玲に見せるように差し出してきた。

「あ〜、手を擦り剥いたのね――これ位なら大丈夫よ。すぐ治っちゃうわ」

 ここにお医者様がいるのよ。ちょうどいいわ、消毒してもらおうね。――と微笑みながら玲が述べると、子供は小さく頷いた。そして、

「おっとうが……」

 と言うと、子供はまたベソをかき始めた。

「おっとう? お父上が、どうかしたの?」

「おっとうが、おっとうが……」と子供は、嗚咽しながら述べ療養所を指差す。

(――療養所? ……もしかして、さっきの?)

「お父上って、さっき男の人におぶされていた人かな?」

 玲がそう問うと子供は泣きじゃくりながらも首を縦に振る。

「そう……心配ね。私もここのお医者様に用事があるの。一緒に様子を見に行きましょう?」

 と述べると、子供は涙を流しつつも顔を上げ頷いた。

 玲は、大丈夫だよ――とでも励ますようにニッコリ微笑んで子供の小さな手を取り門をくぐる。



 木製の日本独特の玄関の戸は開けっ放しになっており屋敷の中が丸見え状態である。

 玲は、人を探しながら敷居を跨ぐ。

 そこは、やはり療養所だからだろうか? 屋敷の見た目は至って普通のその辺にありふれる日本家屋であったが、家中の作りは普通ではなかった。

 玄関にある式台を上がると、廊下を挟んだ奥に八畳くらいの板の間があり、そこには茣蓙ござが敷いてあり座布団や火鉢が置いてあった。

 さながらその様子は、現代でいう病院の待合室だ。

 玲は、軽く感動を覚えながら、

「どなたかおりませんか?」

 と、声を掛けた。しかし、何の反応もない。

(きっと、この子の父親の治療に忙しいのね……)

 そう思い至った玲は、とりあえず上がらせてもらう事にする。

「きっと今、お父上の治療をしてるんだわ。ここで待っていようね」

 と、子供に声を掛けて草履をぬぐ。

「そうだ。名前まだ聞いてなかった。私はね、玲と言うの。あなたのお名前を聞いてもいい?」

 子供は、いまだに涙を浮かべているが先程よりは落ち着いた様子で、こっくりと頷いた。そして、

「しず……」

 と、小さな声で言った。

「しずちゃん? おしずちゃんね。ありがとう、教えてくれて」

 さぁ、寒いからおしずちゃんも上がりましょ。――と玲は、おしずの草履をぬがすと手を引いて座布団に座らせた。

(う〜ん。勝手に上がっちゃったけど大丈夫だよね?)

 今更ながら若干の不安に襲われる。

(でも、ここ待合室っぽいし良いよね)

 玲は、どこが治療室なのかと探すように、きょろきょろと辺りを見回す。

 ここ待合室のような間の奥に木製の戸があるが、この戸の奥で、もし治療をしているとしたら余りにも静か過ぎる。

(この戸の奥は治療室じゃないわね。物置かただの部屋かな……となると治療室は廊下の奥かな?)

 と、玲は玄関前から続く廊下を見る。

(おしずちゃんの、お父さんの様子が気になる……)

「ねぇ、おしずちゃん? おしずちゃんの父上は、どうして運ばれてきたの?」

「……雨漏りするって、しず達が住んでる長屋の屋根を直してて落っこちたの……」

「屋根から落ちたの!?」

(打ち所が悪かったら大変じゃない。大丈夫かな? ――様子を見に行ってみようかしら? でも……)

 おしずから話を聞いた玲は心配で様子が気になるが、自分が行った所で何が出来るだろうかと思い悩む。

 そんな事を考えていると、廊下の奥が騒がしくなりバタバタと人が走る音が聞こえてきた。

「おじちゃんっ!」

「おう! おしず! 来てたのかっ」

 治療室から慌てた様子で出て来た、おしずの父親を担いでいた男がしずを見て驚いたように述べた。

「お、おっとうは??」

「おしず悪ぃな、いま説明してる暇がねぇんだ。若先生じゃ手におえねぇらしいんだ。桜所先生を呼んでこなくちゃなんねぇ」

 また後でなっ。――と云うと男は急いで玄関を出て行った。

「おっとうが……」

 おしずの瞳に、みるみる涙が溢れる。

「おしずちゃん……大丈夫よ、きっと」

(――やっぱり様子を見に行こう。もしかしたら私にも何か出来る事があるかもしれないし……)

「私のおじいちゃんとおにいちゃんはお医者様なの。私も少しは医道をかじってるのよ。様子を見てきてあげるわ」

 大丈夫だから、待っていてね。――と云うと玲は廊下の先にある治療室であろう部屋を目指して歩き出した。

 部屋の近くまで来ると、苦しそうにしている呻き声が漏れ聞こえてくる。

 玲は躊躇なく目の前の引き戸を開けた。

「――!! なんだ、おまえは!?」

 玲が戸を開けると、治療にあたっていた若い青年が驚いて声を上げた。

 しかし玲は構わずに患者のおしずの父親のもとへと歩み寄る。

 今も辛そうに呻き声を上げているおしずの父親は、木製の現代で云うならベッドのような形状の台の上で横になっていた。

 玲は、おしずの父親の状態を目で確かめる。

 打撲や細かい傷が体中に無数にあり、足首が少し赤く腫れ上がっている。更には、右肘の肘頭が後方に突出し筋肉の腱が紐状に見えた。

(――足首は捻挫か骨折の疑いがあるわね。肘は、脱臼ね。思っていたより軽症みたい――でも肘脱臼は激痛なんだよね。はやく肘を整復して上げなきゃ……)

 想像していた状態より軽いものであったため自分でも処置が可能であろうと玲は判断する。

「肘が痛いですね――でも大丈夫ですよ、すぐ治りますからね」

 玲はおしずの父に安心させるように笑顔で述べた。すると、

「おいっ! 何言ってるんだ! あんたは誰だ? 行き成り入って来て、何処ぞの誰だか判らん奴に勝手な事されちゃ困るっ!」

 玲の前方に立っていた青年が顔を歪めて声を荒げた。

(この人が、さっきの人が言ってた若先生ね……)

「これから此処でお世話になる事になった柳崎です。詳しい事はまた後でゆっくりご説明しますから」

 玲は、手短に述べるとおしずの父の肘の周囲を触診しはじめた。

「あっ、おい! 勝手にっ……」

「――肘が腫れてきたわ。早いところ整復しちゃいましょう」

「おまえ、何を言って……」

「肘を元に戻す前に検査をさせて頂きますね。もう少しだけ辛抱してください」

 玲は、若先生と呼ばれていた青年の言を無視しておしずの父にそう述べると脈拍の確認をした。

 更に、手背や掌の皮膚知覚、手指の運動を調べる。

(手の感覚もあるようだし、手指も動く。動脈や神経の損傷の有無が心配だったけど大丈夫みたいね)

「それでは、今から肘を治しますからね」

 自身が護身術を習っていたため、身近な怪我として以前、脱臼や捻挫・骨折などの整形外科分野の勉強をした事がある。

 しかし、知識はあっても医者ではないため、当然、治療の経験は皆無。

(落ち着いて――大丈夫、出来るわ。それに、時間が経つと整復が困難になる。早く肘をもどさなきゃ)

 自分に肘の整復が出来るだろうか? と一瞬不安がよぎったが、早急に治療しなければ患部が腫れ始めて整復が困難になると自分を奮い立たせる。

(よし! やるぞっ!)

 玲は自身に気合いを入れると、

「若先生、手伝ってくださいっ!」と青年に声を掛け、更に続けて、

「この辺りを動かないように両手で押さえていてください」と、おしずの父の右腕上腕部を両手で固定し――こんな感じで。と教えた。

「なっ、なんで俺が」

「あなたも医者の端くれでしょ。患者を助けたいとは思わないの? 助けたいなら何も言わず手伝って!」

 そう玲が言うと、青年は不満気にではあるが玲の指示通りにおしずの父の腕を両手で固定した。

「これでいいのか?」

「ええ。それで大丈夫よ」

 玲は、気を落ち着かせるように、ふぅと息を一つ吐くと、おしずの父の方へと体勢を変える。

「おじさん、力を抜いて体を楽にして下さいね」

「……おう」

 痛みに耐えているからであろう、目を充血させて辛そうに述べた。

 玲は、おしずの父の右手首と肘関節をそれぞれ手で掴み、

「すぐ終わりますから、少しの辛抱です。おしずちゃんが待ってます。ちゃちゃっと治しちゃいましょうね」

「――おしず?」

「ええ。心配して追いかけて来たみたいですよ。早く安心させてあげましょう」

 玲は、にっこり微笑んで述べた。

「では始めますよ」

 と云うと一拍後、掴んだ腕をゆっくり下方へと引いた。次いで、牽引を緩めずに前腕を回内・回外する。

「う、うあぁぁぁ!!」

 あまりの痛みにおしずの父が叫ぶ。

 玲は、それでも術を進める。

 するとゴクッ――と肘の骨が関節にはまる鈍い音がした。


(……やった!! 元にもどった!)

「――肘が正常に戻りましたよっ」

 玲は、ホッと胸を撫で下ろしながら微笑んで伝えた。しかし――

「……………………」 

 患者張本人のおしずの父は一瞬何が起きたのか分からないといった様子で呆然としている。

 いままでの苦痛が嘘のように一瞬にして激痛が消えたのだから当然といえば当然の反応であろう。

「おじさん? ……大丈夫ですか?」

 何も返答がないため玲は不安になり問いかける。

「あ? お、おう。……でぇ丈夫だ」

 いまだ呆然とした状態には変わりないが今度は返事が返ってきた。

 玲は、再度胸を撫で下ろし、「では……」と整復後の確認に移った。

「腕の運動の確認をしますね」

 と述べると、肘関節の軽い屈伸や前腕を内回り外回りに回転し運動機能を調べる。

「大丈夫みたいですね。機能回復してます」

 更に言葉を続ける。

「今回、屋根から落ちたということで、その落ちた際に地面に腕を着いたことで衝撃により肘関節から前腕が外れてしまったようです――この症状を肘関節脱臼というのですが、脱臼などをしてしまった場合には再発や変形などがないように患部を固定しなければなりません」

 ですから、これから腕を固定しますね。――と丁寧に説明をする。

 そして、固定のための道具を用意してもらおうと、玲は顔を青年の方へと向けた。すると、思わず目を見開く玲。

(うわっ! めちゃくちゃ機嫌悪そうな顔してる……)

 青年は、ムスっとした表情でそこに立っていた。

「……え、え〜と……若先生? 腕を支える副木もしくは厚紙はありますか? あっあと、包帯も……」

 玲は今更になって、ここ療養所で若先生と呼ばれている人物にとんでもなく失礼な態度を取っていると気付き恐る恐る問いかける。

「あ? ……待ってろ、いま持ってきてやる」

 それでも青年は、機嫌は悪そうだが玲の指示に素直に従う。

(あれは相当怒ってるわよね……あとで謝らなくちゃ……)

 玲は青年の後姿を見ながら胸中で呟く。

 しばらくして青年は副木になりそうな板と包帯より少ししっかり目の布の包帯らしきものを手に戻ってきた。

「包帯は中々手に入らねぇからウチじゃ使ってねぇんだ。晒しを裂いたものだがこれでも十分だろ?」

 この時代、まだ包帯は数少ない貴重品であったため値も張り手に入れづらいものであった。

「ええ。大丈夫――ありがとう」

 玲は受け取ると手早く副木と晒しで腕を固定していく。

 最後に裂いていない晒しで三角巾を作り、腕を包むようにして首の後ろで結び腕を吊るした。

「はい、これで腕の治療は終わり。――二十日間はこのままの状態です。ですが、肩や手指の運動はしてくださいね」

 でも、あまり腕に負担を掛ける様な事はなさらないで下さい。無理をするとまた肘の関節が外れちゃいますからね。――と念を押す。

「わかりやした」

「さぁ、次の治療をしましょう」

 と、玲がおしずの父と青年に笑みを向け言った時、

「おやっ? あんたは誰だね?」

 と、義観と同じ年齢位の男が治療室に入ってきた。

「――先生!」

 青年が驚いて声を上げる。

(えっ? 先生? じゃ、此処の……)

「おう、佐吉にわしを呼んでくるように言ったのは凌雲(りょううんだな? 急いで来たんだが、どうやら……わしが来んでも大丈夫だったようだな」

 青年が先生と呼んだ男は、玲が治療し終わったおしずの父の腕の様子をまじまじと見ながらそう述べた。

「この治療は……あんたがやったのかね?」

 男は、顔を上げると玲に視線を向けて問うてきた。

「はっはい。……申し訳ありません、勝手な事をして……」

 玲は急に畏縮して、居心地が悪そうに辞儀をする。

「いや、それは構わんよ。しかし良く手当てが出来ている、大したものだ。あんたは医者なのかい?」

「いえ……まだ今は医者じゃありません」

「まだ医者じゃない?」

 男は、不思議そうな顔をして述べる。

「ええ――これから此処でお世話になりながら医者を目指したいと思っています……」

「……此処で?」

 玲の言がよく飲み込めていない様子で呟く。

「はい。――申し遅れましたが、私は柳崎 玲と申します。寛永寺の義観僧都からお聞き及びかと存じますが、これからこちらでお世話になります」

 そう述べると玲は深く辞儀をした。

 それを、先生と呼ばれた男は心底驚いたといった様子で眺めている。

「――んん? 確かに義観僧都から言われているが……あんたかい?!」

「はい。これから宜しくお願い致します!」

 玲は、にっこり微笑みながら告げると再度辞儀をした。

「……ああ」

 半ば呆然としながらも、先生と呼ばれた男が返事をする。そして、

「おなごとはな……こりゃ驚いた」

 と独り言のように呟くと、言葉は更に続いた。

「わしは、石川桜所だ。此処はわし個人の診療所なんだが、その切り盛りをしている。――まずは手当てが先だな。後でゆっくり話をしよう」

 そう言うと、桜所は青年に指示をして手早くおしずの父の手当てをしていった。


 石川桜所いしかわおうしょ

 幕末期の蘭方医として伊藤玄朴らと並び著名な人物である。

 また安政五年には伊藤玄朴・大槻俊斎らと図り、お玉ヶ池種痘所を設立した一人である。

 のちに桜所は、鳥羽伏見の戦いの後、大坂から江戸に戻った徳川慶喜のお供で上野寛永寺に従い入る事になる。

 ――しかし、それはまだまだ先のお話。

 




「どうもお世話になりやした」

 おしずの父が頭を下げお礼を述べる。

「おう、あんま無理すんなよ」

 桜所が笑いながら言う。

「ねぇちゃんも、ありがとな」

 おしずの父が玲に向かって礼を述べる。

「いいえ。お大事にして下さいね。おしずちゃん、よかったね」

 玲は微笑んで、おしずの父とおしずを見て告げる。

「うん。玲おねぇちゃん、ありがとう」

 おしず達が帰っていくのを、玲達が見送る。

 やがて、おしず達の姿が門の向こうに消えると桜所が口を開いた。

「さて、一服しながら話でもするか。凌雲、茶を入れてくれんか」

「はい」

 青年は返事をすると勝手のあるだろう方向へと向かって行った。

 桜所は待合室の座布団に座ると、玲にも座るように視線で促す。

「柳崎とか言ったな、あんたはおなごだろ。本当に此処で学ぶ気があるのか?」

「――お言葉ですが、医道を志すに女子おなごも男子も関係ありませんよ。その志す気持ち次第。そうではないですか?」

「おうおう、こりゃとんだじゃじゃ馬な」

 と桜所が可笑しそうに笑う。そして、

「そうだな、志す気持ちに女子も男子も無し。いいだろう、此処で存分に学べば良い」

 しかし――と言葉は続く。

「その格好では、色々不都合が出てくるな……そうだ、此処にいる間は女形は止めて動きやすい姿をしなさい」

「それはつまり……袴などの男装や作務衣を着用するという事ですか?」

「うむ、そういう事になるな」

「――わかりました。以後、そのようにいたします」

「うむ」

 思っていたより簡単に話が進み、双方の意見がまとまった頃、青年が茶を載せた盆を手に戻ってきた。

「そうだ。おまえたち自己紹介はしたのかい?」

 玲は、先ほどのこともあり気まずそうに目を伏せる。

 青年は淡々と茶を床に置くと、不機嫌そうに言葉を述べた。

「いきなりの事だったので、まだしっかりとした挨拶などはしておりません」

 二人の間に流れる微妙な空気に桜所は、自分が着く以前どんなやり取りがあったかを悟る。

「凌雲、おまえもまだまだ修行中の身。医学の道は長いんだぞ――しかしそんなおまえも兄弟子になるのだ。しっかり面倒みてやれよ」

 と、青年に向けて言うと続けて、

「こいつは、わしの弟子の高松凌雲たかまつりょううんだ。柳崎、おまえさんの兄弟子だ。互いに良くやってくれ」

「はい」

 と返事をすると、玲は体を凌雲の方へと向けた。

「――高松さん、先程は大変失礼を致しました。どうかお許しを。そして――改めまして私は柳崎 玲と申します。これからどうぞ宜しくお願いいたします」

 そう凌雲に告げると玲は、両手を床に付き深く辞儀をした。

 その様子を眺めていた凌雲は一つため息をつくと、

「俺も大人げなかった。――こっちこそ宜しくな」

 と述べながら、照れているのだろうか不機嫌そうな表情のまま目線を横に流した。

「良し。これで自己紹介は終いだ。茶でも呑んで一服しようではないか」


 これから玲が医学に励むため通う事になった療養所。

 ――『石川療養所』――

 此処は、桜所の自宅兼病院という形の療養所で、そこに凌雲は門下生として住み込みで働きながら勉学をしているという。

 今のところ、門下は凌雲のみ。

 それは、桜所自身が非常に多忙な人物なため、人を育てるという事に時間が割けないためであった。

 桜所は、此処の診療所以外にもお玉ヶ池種痘所でも動いている。それだけでなく頼まれれば患者の自宅まで診察にも行く。

 そのため多忙な桜所は、新たな門下生を入れずにこれまでやってきていた。

 しかし此度は次代輪王寺門主となるべく宮の側近のような人物の義観僧都の頼みである。

 また一段と忙しくなるなと考え、本音では面倒だなと考えていた桜所であったが、実際玲に面会し、性別には驚かされたが、それでも良い意味で期待を裏切ってくれた玲に、桜所は考えを改め直した。

 忙しくはなるが、これからどう玲が成長していくのだろうかと見守って行きたくなったのだ。

 こうして医道に進むため石川診療所の門下生と無事相成った玲。

 これからの彼女の医道、そして人生の道筋は如何いかぞに――。

 

 

ご覧いただき、ありがとうございます。


今年に入り更新頻度が更に遅くなってしまい申し訳ないです。

私事で大変申し辛いのですが、以前と環境が変わり更に小説の執筆時間が取れない状態が続いております。

当分の間、更新が以前にも増して遅くなるかと思います。

暇をみつけて筆は取っておりますが、遅筆になることをお許しください。

気分転換がてらに描いていた絵などは、たまっているので表紙絵などは時間があれば更新します。

……と言いますが私、皆さんの意見も聞かず勝手に表紙絵を付けていますが、玲のイメージ壊れていませんかね?

いまさら気付いて、何言ってんだ! って感じですけどイメージを壊したくない等、苦情がある場合は表紙絵をやめますので言ってくださいね。


それでは、また。胡竹

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