表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

3話 異世界人との遭遇

「ハァ…」


こんな所で死にかけるだなんて。


「おいコラ神様ッ!どうして助けなかったんだよッ!」


俺の怒声は草原に消えていく。


「本当に見てるだけなんだな…。クソが」


ここからどうしようか。

神様を頼りにできずに異世界で独りで生きていくのか。

……とりあえず生きる方法を見つけないと。

サバイバル術なんかほとんど知らない俺はこのままでは近いうちに死ぬだろう。

人を探した方がいいんだろうか…。

このままここにいてもさっきのアレが来るかもしれないからな。


動かないと。とりあえず村か町をさがそう。


「はぁ…」


生きねば。





池から歩き出して5分程の所に丘があり、そこに登って辺りを見回すと、そこにあった光景が俺の目を奪った。


それは狩りの光景だった。

そこそこ遠くでなにかの動物の皮を鞣したマントをきた三人が鹿のような動物を追いかけ回していた。追いかけられている鹿は臀部から血を出しながら走っている。


「おぉ…。なんかすごいな」


それは元の世界で終ぞ見る事のなかった等身大の命のやりとりだった。

鹿は臀部から血を流しながらも懸命に走り、逃げていた。その走りは狩人から徐々に距離を開いていった。


その逃走劇は鹿の足元が突然ぬかるみ、鹿がこけた事によって終わった。


「おぉ!魔法か!?魔法なのか!?」


さっき死にかけて異世界が怖くなり始めていた所なのに漫画好きのツボをクリティカルヒットで押して夢を持たせるなんて末恐ろしいな、異世界。


狩人達がぬかるみで足をとられている鹿に追いつくと、鹿の周囲の土が磁石に引っ張られるクリップのように盛り上がり鹿を押さえ込んだ。そして、狩人は馴れた手つきでマントの中からナイフを取り出し鹿の首元にナイフを刺し、血抜きを始めた。

鹿が鳴く度に首元から勢いよく血が出る。血はだんだんとゼリー状になり、気付いたらもう鹿は死んでいた。


「うわ、エグいな…。あんなとこ行きたくねぇなぁ」


けど人と会ってどうにか助けてもらえないとヤバいしなぁ…

けどなぁ、相手の機嫌損ねたりしたら殺されるんじゃないか?

だけどやっぱり助けてもらえなかったら死ぬのは目に見えてるんだ。


「やるしかないのかぁ」


そして俺は三人の狩人に向かって駆けだし声をかけた。


「あのぉ」と俺は恐る恐る声をかける。


近くに来て三人を見てみるとRPGのパーティかよという印象を受ける。

一人はガタイの良い、いかにも荒々しいザ・前衛職の男。

一人はメガネをかけた魔法職のような男。

一人は地味めなポニテのこれまた魔法職のような女。


「え、は、はい」メガネ男が代表して受け答えしてくれた。温かい優しい声音だった。

「あの、ここってどこなんですかね」となるべく丁寧に俺が訊ねる。

「は?あぁ!フィボナッチ高原ですが、どうなされたんですか?」


やべぇ、ほとんど考えずに話しかけてしまった。うーん。異世界から来たって答えるべきか?いや、流石に信じてくれないだろ。適当に答えるしかないな。


「あぁ、えっと、迷っちゃいまして」

「え、こんな見晴らしのいい所でお連れの方と別れちゃったんですか?」

「いや、一人で来たんですよ」

「え?うーんっと…。あの、失礼ですがお名前は?」


名前、名前かぁ。

ここは英語風の名前にすべきか?

いや、それだと俺が慣れないな。

やっぱり本名か。


「大輝です。東郷大輝」

「ダイキ家?」

「いえ、東郷家です」


そう言うとメガネの男は他の二人と急に話し合い始めた。

やっぱりここは欧米風の名前にすべきだったかぁ。

うーん、欧米風の名前ってどんなのにすればいいんだろうか。

アムロ・レイ?いや、それともジョナサン・ジョースター?


そんなことを考えているとメガネ男が怪訝そうに声をかけてきた。


「あの、こちらへはどういったご用事で?」

「えっと…。観光ですね」

「観光?あの、どちらのご出身ですか?」


おっと…。次から次へと返答に困る質問をしてくれるじゃないか。

けどまぁこれはお決まりの返事があるからな。


「はるか東の国から」と俺はキメる。

「はるか東の国から観光?お付きもなしに?」メガネ男は疑った様子を隠さずに質問をしてきた。


おいおい、かなり疑われてるな。

正直に異世界から来たって言った方がよかったか?

いや、ここは不安を顔に出しちゃいけないな。堂々としていなくては。


「はい、一人旅してるんです」

「そんな格好で?」


そうか、俺は制服じゃないか。この世界の文化は知らんがこんなのおぼっちゃま丸出しなんじゃないか?

流石にそろそろ嘘も限界か…?


「えっと…。そうですね」

「あの、近くの町まで行かれるんでしたら私たちと一緒に行きませんか?」三人の中で唯一の女性が訊いてきた。

「おい!」メガネ男が女を責めるように声をかけた。

「はい!是非!」俺は蜘蛛の糸に縋る思いでその女性の提案に乗った。


その後はその女性の援助がつき、メガネの男性を説得できた。メガネの男に俺と女性の二人で交渉している間もガタイの良い男は会話に入ってこず、鹿を解体していた。


そして彼らとしばらく行動を共にする事になった訳である。


彼らはどうやら国の命令で環境調査にきた学者の男とその助手、あと現地ガイド兼護衛の男というメンバーで、町や村から移動しながらその近辺の環境を国に帰ってから報告するのが仕事らしい。


そして彼らと会話する内に俺が貴族でない事や旅なんかではなく突然ここに来て困っている事がわかるとメガネの男の態度が幾分か軟化した。


「ところで今はどこに向かってるんですか?」

「ここから一番近い町だよ。そこそこ大きくて立派な町だね」と助手さんが答える。


異世界での町か、楽しみだな。


「大きな町っていうとやっぱりギルドとかあるんですかね」期待を込めて訊いてみる。

「そりゃああるさ。ギルドもあれば役場もあるし、銭湯だってあるらしいよ?」助手さんが得意げに答える。

「おお!ギルドっていうとやっぱり冒険者ギルドなんですか?」


異世界モノでの王道は冒険者ギルドでエースになってチヤホヤされるんだろ?

知ってるんだぞ?


「あぁ、冒険者ギルドと商業ギルドがあるね」

「すごいなぁ」

「どこの町にもギルドくらいあるわよ。大小はあるけれどね」


そうやって雑談(俺としては授業)が進む中、俺達の進行方向の水たまりに異常が現れた。先程俺を殺しかけたアレが出てきている所だった。


「あ!水の奴だ!気を付けて下さい!」と俺が三人に警告する。

「え、どれ?」助手さんが訊ねる。

「ほら、今水たまりから出てきてるアレですよ!見えないんですか!?」


そういうと三人は顔を合わせ困ったような顔をしている。


「あのね、アレはスライムっていって魔物の一種だよ」と助手さんが声をかける。

「魔物!?」と俺は声をあげる。

「魔物といってもあいつはどんな水から出てきても中身は飲めて便利だから一部の地域では森の恵みなんて呼ばれてる」と護衛さんが口を開く。


そんなバカな!


「さっき僕殺されかけましたよ!?」

「あいつは近くの水辺に浸ければすぐに溶ける」護衛さんが答える。

「スライムに殺されるなんて3歳児でもまずありませんよ」と学者さんが微笑む。


Oh,my god...


「そうだ、あいつで水分補給でもするか」


そう言って護衛さんはスライムに向かっていきスライムから水を掬い、飲み始めた。

その間スライムはただプルプルとしているだけでされるがままだった。


「あんな、あんな簡単な事だったのか…。あんなのに殺されかけたのか」

「ダイキ君も飲んでみたら?」と助手さんは言う。

「あぁ、はい」


そう言って俺はスライムに向かっていき、スライムの一部を手で掬う。


「こうするとただの水なのか…」


そして俺は恐る恐る飲んでみる。


「……はぁ。美味いなちくしょー」


そうか、案外神様は過ごしやすい所に転移させてくれたのかもしれないな。

俺が勝手に親切設計を心折設計だと勘違いしていたのか。


そこに後の二人が来てスライムを飲み始めた。


「一応言っておくが顔を本体に直接つけると顔に引っ付いて危ないからな。まぁ水に浸ければ溶けるんだが」


そう聞いて俺はまた飲み始め、スライムはなくなった。

そういえば喉渇いてたんだったな。

やはり常識くらいは知るべきなんだなぁ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ