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2話 初めての異世界

俺が神様に転移を頼むと神様は「ほいきた!」と言って俺のおでこに人差し指をコツンとした。


すると意識が突然重力に従いはじめたかのように落ちていった。



---



意識が水の中の泡のようにあがってきた。

そして泡が弾けるように俺の意識は覚醒した。


「空が、広いなぁ」


青地のキャンバスに白の絵の具で勢いよく筆を走らせたような雲が少しあるだけの、

だだっ広い空。

そして視線を真上から前へと動かす。


そこは草原だった。

草原には点々と岩があり、小川が流れていた。

空気は冬だった元の世界より幾分パリッとしている。

鼻には草の青臭さと土の匂いが入ってくる。


ゆっくり深呼吸してみた。

公園の砂場の砂とは違う、湿った土と草の匂いだ。


「来たのか、異世界。来ちゃったんだね、異世界…!」


せっかくだ、神様が説明に来る前にその辺を散歩でもしよう。


そうして振り返ると、元の世界の写真でいくらでも見た、けれど実際には一度も見たことのない荒々しく、力強い圧倒的なエネルギーを感じさせる山の景色が広がっていた。


気付けば俺は後ずさりしていた。

暴力的なほどの迫力を持つ景色なんてのは初めて見た。

ふぅ、異世界ってハンパないな。散歩し始めて1歩目が後ずさりなんて恐ろしい。


とりあえずどこへ行こう。

神様が出てこない内にあんまり危ない所に行くのはなぁ。

まぁいいやとりあえず戻ってこれる様にそこの川に沿って歩いて行くか。





歩き始めて10分程で息が上がってしまった。


異世界って酸素が薄いのかなぁ。それとも単に高度が高いのか?ひょっとして運動不足かなぁ。運動不足で異世界生活に支障が出るなんてかっこ悪いなぁ。

高度高い説が一番いいんだけどな。

まぁあんな山が見えるんだ、高度が高くても不思議じゃないだろ。

それに高度が高いんだったらこのまま川の流れの通りに行けばだんだん標高も下がるだろ。


てか神様遅いな…

ちょっと不安になってくるわ。

もしかして俺が最初にいた場所にいるんかな。

そこそこ遠くに来たもんな。

ちょっと戻ってみるか。





来た道を10分とちょっとかけて戻って来たが、

最初となんら変わらないじゃないか。

神様が俺を探してそこらへんにいるのかと考えて周囲を見回しても全然変わらない。


「おいおい、もしかして神様こないの?

じゃあ元の世界どうなってんの?

俺が突然死んだことにされてんのかな。」


それだったら俺は今帰る場所がないのかな…

天涯孤独って奴なのか…

そっか。

それは…ちょっと、キツイな…


それになんでもできる神様だったら俺を見つけようと思えば一発だろ。

それとも声をかけずにただ見てるだけってのもありえるんじゃないのか?

神様の事だ。きっともう俺の事を見つけててただ見てるだけだろ。まぁヤバくなったら助けてくれるに違いない。

……うん、きっとそうだ。


「はぁ…」


じゃあとりあえずもっかい小川に沿って歩いて行くか。





そして今度は20分ほど歩いて池に着いた。


酸素が薄くて肩で息をするようになり、この池で休憩することにした。

綺麗でそこそこ大きな池だった。漫画なんかだと妖精くらいいそうだとか思いながら休憩していると、ふと喉が渇いていることに気付いた。


「喉渇いたな。池の水って飲めるのか?けどそれ以外に水ないしなぁ。…飲むしかないよなぁ。まぁ綺麗だしそう簡単に腹下してたらシャレにならん」


俺が水を手で掬おうと池に手を入れると水の表面が突然盛り上がってきた。


「お?」


なんてこった。妖精でも出てくんのか?


するとその盛り上がりはデカイ水滴のような形で俺の足元へ池から這い出てきた。


あれだ、ビニール袋に水を入れた感じだ、コイツ。

こんなのが妖精であってたまるか。妖精の幼生だとしても嫌だわ。


そしてそのビニール袋のような何かは俺の足元でプルプルとした後俺の足に登ってきた。


「うおお!?

なんだ!このよくわからん物体は!」


俺がそれを引き剥がそうと足をブンブンと振るとソレは登るのを止めて足にしがみついている。


「ハァハァ…」


息があがり、俺が足を振り回すのをやめるとそのビニール袋のような何かは登るのを再開してきた。

コイツが登ってきた部分の制服はビッチョリしている。こいつの中身はやっぱり水なのか。


「ハァ…こいつ何がしたいんだよ。このまんま登っていっても特になんもない…

あ!こいつがこのまんま登ってきたら息できねぇじゃねぇか!」


そう言っている間にもソレは登り続けていて、ソレは今太ももあたりを濡らしている。


慌ててもう一度足を振って振り落とそうとするもすぐに息があがる。


「ハァハァ…。

異世界きてすぐにこんな奴に殺されたくねえぞ…ハァ…。」


ソレは遂に腰くらいまで登ってきた。これでもう足を振っての足止めもできなくなった。


そしてそれに気付いたらもう到底落ち着いていられない。死が目に見えて迫っているのだ。


「死ぬ?え、こんなことで死ぬの?え、え?だって…え?

水飲もうとしただけだろ…?

ちょっと待てよ…

ちょっと待てって言ってんだろォ!!」


俺の半狂乱の大声にもソレは一切反応せず俺の腹を登ってくる。


そんな半狂乱の中俺はがむしゃらにソレを身体から引き剥がそうと手で払い、ソレはビチャビチャと音を立てる。


「待てよッ!そんなッ!あんまりだッ!酷すぎるッ!こんなの聴いてないぞッ!

出てこいよ神様ッ!助けろよ神様ァッ!!どうせ見てるんだろォッ!!」


そう叫んでいる内に気付けばソレはもう胸元に登りつめていた。

すっかり恐慌状態の俺は力任せにソレを叩きまくった。

ソレはビチャビチャ激しくと音を立てた。立てつづけた。


「ハァハァ…」


疲れて腕が上がらなくなったあたりでソレがもう身体に付いていないことに気付いた。


「ハァ…。いない、のか…?どうなってるんだ」


地面には少し水が溢れたような痕ができていた。

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