8話 sideユヌカス
俺はユヌカス。
ドウシタンタ国の第2王子だ。
兄上は政治に興味がない上に、武術にも優れていない。
水中の移動も平民とかわらないスピードで、平凡を絵に描いたような人物だ。
次期国王は俺だろうな。
最近、リードルース家の長男が娘を連れて帰ってきていると聞いて、異国の血の入った変わり者を見に行ったのだ。
そこにいたのは、水面に溶け込むような銀髪で、クルクル変わる表情がまるで天使な美幼女だった。
けれど、あの変わった動きはなんだ?
ゲロッグをまねして、わざわざゆっくり移動する方法を練習する意味がわからん。
思わず、馬鹿にしたように笑ったからいけなかったのだろうか。
初めての対面では、俺に見惚れていたはずなのに、あれ以来俺に興味がなさそうなのだ。
皆がうらやむ美貌で、満面の笑顔で紳士を心がけて話しかけても、だ。
もうどうしていいかわからん。
女は小さくても難しいな。
こうして寝台の上で膝を抱えて目を閉じると、あの天使が微笑みかけてくる。
こうしている時が一番幸せかもしれない。
我慢できなくなってラメルに会いに来てみれば、敷地内から出ているではないか。
見るからに粗暴な者に囲まれている。
「玉を出せ!」
「私、女だから玉ないし~」
とか、理解のできない会話をしているな。
天使の危機だ。
神速で駆けつけると、相手の武器を弾き飛ばす。
「お~、カッコイイ。生時代劇だ」
そうだろう、カッコイイだろう。
……ナマジダイゲキとやらがわからんが。
もしかして初めて褒められたのではないか?
い、いかん。目から何かが出てきそうだ。水の中に潜り込まねば。
気持ちを落ち着けて水面に顔を出すと、ラメルがゴリンを食している。
「う、うまそうなもの食っておるな」
俺は何を言ってるんだ~。もっと気の利いた一言があるだろうに。
「そお?」
言うと、ラメルが食べかけていたゴリンを俺の口の中に入れてきた。
「おいし?」
はい、おいしいです。感無量で言葉も出ません。
これ、これって、あれだろ? 間接ナントカだろ?
おいしくて、思わず飲み込んじゃったよ。
もったいない、取っておいて飾っておきたかった。
ココロノコエハ、キコエナイヨウニイワナイト、キモチワルイヨネ
ってラメルが言ってるけど、どういう意味かな。
「大丈夫です、ユヌカス様。ユヌカス様は、ゴリンを体に取り込んで同化したのです」
マリンも何か言ってる。
ん? 同化?
俺、今ラメルと近づいたっぽいな。